第二章:『増殖する王子さま☆』篇
2-1 理想を語ろう!
~これまでのあらすじ~
ヒモだと思ってた居候たちが、まさかのリアル〝王子様〟だった!
☆ ☆ ☆
「ふむ。やはりカグヤのつくる飯は旨いな」
世界が誇る大帝国の第一皇子――ミカルドが、偉ぶるような素振りを微塵も見せずに言う。
「ホントにね。ボクの王宮の料理人に見習わせたいくらいだよ」
胡散臭いほどにこやかな笑顔を浮かべるのはクラノス。
世界トップレベルの魔法の使い手で――海上王国の王子様だ。
「おいし~! おかわり~!」
空っぽになったお皿を空に掲げるのはマロン。
こう見えても魔族の頂点にたつ魔王――その息子であるらしい。
「そう? よかった」
そんな正真正銘ホンモノの〝王子様ーズ〟と一緒に食卓を囲むのがあたし、カグヤ。
今は人里離れた森の深部にある塔――エヴァと名付けられたその塔に〝幽閉〟されているけれど。
そんなあたしのことを迎えに来てくれる〝白馬の王子様〟を待ち続ける、お姫様希望の女の子だ。
ちなみに塔に閉じ込められている理由は――あたしにも分からない。
「……記憶は、まだ戻らないのか」
ミカルドがどこか神妙な面持ちで聞いてきた。
――記憶。
そう。あたしは過去の記憶が頭から抜け落ちているのだった。
「うん、前と一緒。なにも思い出せないわ」
一瞬なにかが通り過ぎたような間ができた。
沈黙を破るようにして、クラノスが言う。
「……カグヤの記憶世界に行けてたら、一番よかったんだけど」
あたしたちはつい先日【ゴンタロ】という
だけど肝心の〝あたしの記憶〟を覗くことはできなくて。
失われた記憶の捜査はいったんふりだしに戻ったのだった。
とはいえ。
それまでと何もかもが一緒――というわけでもないと思っていて。
3人の同居人たちのこ過去をちょっぴり知れたことで、お互いの距離が縮まったような気もするのだった。
「おいし~! おかわり~!」
「はいはい、ちょっと待ってね」
マロンの皿にふたたび料理を継ぎ足していると、他のふたりにじいっと見られていることに気がついた。
「……カグヤ。なんだか
「え? そうかしら?」
「うん。なんだかいつものカグヤらしくないっていうか」
「いつものカグヤってどんなんよ」笑いながらあたしは聞き返してやる。
「えっと……いつもイライラしててすぐに手が出る反抗期のヤンキーみたいな」
「だれが反抗期のヤンキーよ!」
あたしは手にしていたスプーンを亜音速でクラノスにぶつけた。
すこーん! と快音が響き渡り、同時に『のぎゃっ!』と短い悲鳴が聞こえる。
「――はっ。いけないいけない、こういうところよね」
言われたそばからやってしまった。
これでも一応〝お姫様〟を目指してるんだから。
落ち着くのよ、あたし。お姫様は人にスプーンを亜音速でぶつけない。
などと自分に言い聞かせるようにしていたら――
「やっぱりおかしい……」
額にこぶができたクラノスがのっそりと起き上がってきた。
「
「はあ?」
まったく失礼ね。
さすがのあたしでもフォークは投げないわよ。刺さったら大変だし。
ふだん色々迷惑かけられてるからって、やっていいこととそうでないことの分別くらいあたしもつけてるつもりだ。
「おいし~! おかわり~!」
「あんたはさっきからそれしかないんかい!」
っていうかご飯くらい自分でよそえや! と、あたしはフォークをぶん投げた。
「言ってるそばからーーーーーー!?」
クラノスが目を剥いて絶叫した。
「あたしったら、つい……」
伏し目がちにしてか弱い少女っぽく
さらなる被害を被らないように食べ終わったお皿でガードを形成しながら彼らは言う。
「これでこそカグヤだよ……! だれもが恐れる伝家の宝刀――〝
「魔法みたいに言うなや! ただフォークぶん投げただけのごてごて物理攻撃よ!」
「元のカグヤに戻ったようで良かった。これで安心して夜も眠れるな」とミカルド。
「あんたはいっつもいびきかいて爆睡してるでしょうが!」
「おかわり~!」
「頭にフォーク刺したままおかわりねだるなあああああああ!」
そうだ。大事なことを記しておくのを忘れていた。
彼らはそのどこまでも凛々しい見た目に反比例して――
徹底的に
☆ ☆ ☆
「しかし言ってみるものだな」
場所は変わらずエヴァの8階。
昼食を終えたあたしたちは円形のテーブルを囲むように設置されたソファに座り、団らんを続けていた。
「言ってみるってなにがよ」
ミカルドがいつもの仏頂面で答える。
「む? カグヤが優しくなったのは、我らが〝王子〟であることを明らかにしてからだろう」
「だからー、それは関係ないわよ」
確かにあたしはこの塔から連れ出してくれる〝白馬の王子様〟を待ち続けていた。
そしてとうとう、目の前の3人が実際に来てくれたわけだけど――
「あたしの思い描いていた王子様とは、程遠いもの」
はあ、とあたしは溜息を吐く。
するとクラノスが尋ねてきた。
「そんなに言うカグヤの〝理想の王子様〟って、一体どういう人のことをさすのさ?」
思わず目を二三度ぱちくりさせる。
「ううん、そうね、」
あらたまって聞かれることはこれまでなかったので、すこし反応に遅れてしまったけれど。
あたしは頭の中で、ゆっくりと〝あたしの考えたさいきょうのおうじさま〟の姿を創り出していく。
「……長いさらさらの亜麻色の髪で、瞳は空みらいに澄んだ碧眼で。鼻は高くて色白で――あと、目と眉の間は狭い方がいいかな。
唇に指をあてながらあたしは続ける。
「スタイルは抜群で、王冠もかぼちゃパンツも完璧に似合ってて……それで白馬に乗ってるの! そんな男の人が、理想かな」
ぱちくり。今度は3人が目を開閉させて――
「……カグヤに面と向かって理想と言われると、照れるな」
となぜか頭に手をあて照れ笑いを始めた。
「おい。百歩譲ってもあんたらじゃないわよ」
「え? ボクたちのことじゃないの?」
「違うに決まってるでしょうが!」
何を勘違いしてるのよ。脳みそゴキゲンか。
「っていうか、
悪態をついてやるも、特に3人には響いていないようだった。
まあ、実際はエセではなくて本当に王子様だったのだが。
「それにしても……随分ピンポイントな王子様像だね」クラノスがふむ、と首を捻った。「亜麻色の長髪に碧眼、鼻は高くて――目と眉の間は狭い。スタイルよくって、王冠とかぼちゃパンツが似合う白馬に乗った男の人、か」
あらためて要素を羅列されると、確かに、少し注文が多すぎる気もしたけれど。
「別にいいでしょう。理想を語る時くらい夢を見たって」
ぷくう、とあたしは頬を膨らませて言ってやる。
するとマロンが、
「あれ? なんかそんな人、朝に散歩してたら森の外れで見かけたかも~」
などと。とんでもないことを口にしたのだった。
「え?」
――亜麻色の長髪で色白で、目と眉の間は狭くて、スタイルよくって、王冠とかぼちゃパンツが似合う王子様が?
「白馬にも乗ってたの……?」
「う~ん、なんかそれっぽいのに乗ってた気がする!」
しいん、とした間のあとにあたしは思わず吹き出してしまった。
「まっさかー! そんなやついるわけないじゃない」
「カグヤ? キミが言った理想だよ?」クラノスに突っ込まれた。
分かってるわよ。
だけどさすがのあたしだって、理想と現実に差があることは理解している。
なんてったって目の前の残念王子ーズですらも〝王子様候補〟として認めてあげたくらいだもの。
だけど。
――本当の本当に、あたしの理想にぴったりの人が目の前に現れたら。
その人こそが、あたしの〝本当の王子様〟になるかもしれない。
だったら、会ってみるくらいしたって損はないんじゃないかしら。
「マロン! お願い。もしまだその人が近くにいたら……ここまで連れてきてくれないかしら?」
「え~、このあと昼寝の時間なのに~」
「3日間おかず大盛り」
「了解!!!!」
しゅばばばば、とこれまでにない勢いでマロンが階段を駆け下り外へと飛び出していった。
ふむ。あたしも王子様たちの扱いには手慣れてきたものね。
「って、こうしちゃいられないわ!」
「カグヤ、どこ行くの?」
「ふふ――女の子には準備ってものが色々あるのよ」
あたしはそう言ってウインクをしてみたのだけど。
なぜかミカルドたちは『さ、さぶいぼが……』と自分の腕を撫で始めた。
「失礼か!」
残念王子たちは無視無視。
なんてったって、このあと遂に〝真の王子様〟に出会えるのかもしれないんだから。
早く部屋に戻って〝お姫様〟の身支度を整えなきゃ、と気合を入れる。
そしてこの時、慌てて準備のために駆け出したあたしは気づいていなかった。
指輪にはめられた〝運命の宝石〟が、久方ぶりに輝き始めていたことに――
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これより新章『増殖する
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