2-2 よにんめの王子様!?


「理想の王子様を連れてきたよ~!」


 マロンがそう言いながら戻ってきた。

 戻りついでに一階の玄関の大扉をあけ放す。


「「え!? 理想の王子様を!?」」


 あたしたちは一応驚いてみせてから、扉の外へと視線を向けた。


 差し込む光の中に目をこらすと――


「……! 確かに、白い生き物に乗ってるわね……!」


 逆光を背負いながら、4足歩行の生物に乗った人がこちらに向かってきていた。


「カグヤ、それ!」


「へ? ――きゃあ!」


 自分の指を見る。

 そこでは〝運命の指輪〟が煌々こうこうと光を発していた。

 

 ――間違いないわ。今こっちに向かってるあの人も、あたしの〝王子様候補〟なのね――!


 その新しい〝四人目〟の王子様の全貌がだんだんと明らかになり始めた。


「いよいよ、白馬の……あれ?」


 あたしはぽかんと口を開け首を傾げた。

 確かにその男が乗っていたのは〝四足歩行の哺乳類〟で、しかも白かった。


 だけど、あれって――


「と、と、と、虎~~~~~~!?」


 思わずその迫力にのけぞってしまう。

 白い虎――つまりは白虎びゃっこであろうか。

 その4人目の王子様はそんな白虎の背中に堂々とまたがって、こちらに向かっている。


 ――びっくりしちゃったけど、確かに今までの中なら一番〝白馬〟に近いかも……!


 白虎が塔の敷地をまたいだ。

 光のカーテンの中から現れるように、背中の王子様の正体も鮮明になっていく。


「……えっ!?」


 つられるように、あたしの目も見開かれていった。


「見間違いじゃ、ないわよね」


 白虎の背中にまたがる男の目と眉の間は狭くて。

 さらさらと煌めく亜麻色の髪の碧眼で。

 目と眉の間が狭くて。

 スタイルが最高によくって。

 王冠とかぼちゃパンツが似合ってて。

 あと――目と眉の間が狭くて。


「……って、ちょっと目と眉の間狭すぎじゃない!?」


 ほとんど眉と一体化しちゃってるじゃない! と思わず突っ込む。

 そこだけ少し気になったけれど、相応に顔の彫りが深いという意味でもある。


 とにかくも、そこに現れた男は。


 これでもかというくらいに、あたしが語った〝理想の王子様〟と同じ姿をしていた。


「う、わ、ああああああああああ」


 か

 っ

 こ

 いいいいいいぃぃぃぃぃ!!!!!


「……マロン! あんた、なかなかやるじゃない!」


 ひそひそ声でマロンに言ってやる。


「え、ほんと? カグヤはこういうのがよかったんだね~」マロンが腕を組みながらあっけらかんと言った。「これでおかずは大盛りだね」


「当然よ! 3日って言ったけど1週間にしてあげる」


「いいの!? やった~!」


 浮き足だって喜ぶマロンを横目にしながら、あたしはその4人目の王子様に近寄って。


 その目の前で、なよなよと身体をくねらせながら言った。 


「は、はじめましてぇ♡ カグヤと、いいますぅ♡」


「え、待ってカグヤ」背後からクラノスが気に入らないように尋ねてきた。「その声どこから出してるの……?」


「何を言ってるのかしらぁ、クラノスさん? いつもと同じでしょう♡」


 あたしは引き続きを作って笑顔を浮かべてあげた。


「いやいやいや、いつももっとドス効いた声じゃん」


「おほほほ。冗談はよしてくださいな♪」


「赤子も震わす鬼の声じゃん」


「あ? いてまうぞワレ……じゃなくて、おほほ! いてまいますわよ♡」


「可愛い声で言っても中身が怖いから!」


 まったく失礼ですわね、クラノスは。

 普段通りのあたしの振る舞いとどこが違くって?

 あら、口調が元に戻りませんわね。

 見ると3人の王子様ーズは『サブイボが……』と身体を震わせていましたが(なんて失礼な方々でしょう!)、気にしないことにいたしますわ。


『ぐるるるるるる――』


 視線を正面に戻すと、白虎が唸り声をあげていた。

 その背中から颯爽と(本当に颯爽と!)あたしの理想姿の王子様は地面へと降り立った。


「ようこそいらっしゃいました! あたしの理想の王子様――」


 そして彼は。

 優雅にスカートを持ち上げるあたしの全身を見回してから。


 どこまでも渋くてかっこいい声で。


 ――言った。







「んだぁ! なまらめんこい人だべなあ!」


「…………え?」


「おら、こったな別嬪べっぴんさんとお話したことないべよ! んだか恥ずかしいだぁ……!」


 たっぷりと沈黙を取った後に、あたしは。


「めっちゃ 訛 っ て る ーーーーーーーー!」


 ぶりっこキャラを彼方に吹き飛ばして叫んだ。


 あたりをきょろきょろと見回したが、他には人はいない。

 ということは……聞き慣れない田舎言葉は、本当にこの〝彫りの深い王子顔〟から発せられているの――?


「こんたに立派なビルヂング、おら初めて見たっぺよ……!」


 発せられていた。


「こりゃ、高そうな花瓶だべ……んはぁ! 手が滑って、割ってしまっただ! ゆるしてけろー!」


 しかもドジっ子属性だった。


「ふむ。しかしカグヤはこういう男が趣味であったとはな」


 あたしが目やら口やら鼻やらを開いて絶句していると、ミカルドが口元に喜びをたたえながら言ってきた。


「我ではとうてい太刀打ちできん」


「カグヤ……ちょっぴり寂しいけど、お幸せにね」クラノスも便乗してきた。


「これがカグヤの理想の王子様か~。なんか、おれの国の……オークみたいな喋り方だ~」マロンが追加爆撃を決めてきた。


 そんな風に、なんだか生暖かい視線を向けてくる3人に対して。


 あたしは首をゆっくりと。

 彼らに向けて180度――ぎりぎりと回転させて。


 ドスの効いた声で言ってやった。




「 こ う い う の じ ゃ な い 」



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