3-56 応援をしよう!(地球帰還大作戦⑤)
「つぎは――俺のばん」
ふりふりのメイド服姿のアルヴェが言った。
「だけど――」
彼女みたいな彼は、なんだか申し訳なさそうな表情を浮かべ胸の前で指先をこすりあわせている。
「アルヴェ? どうしたの……?」
「俺、
「っ!」
アルヴェは目を伏せながらそんな不安を吐露した。
(なんて優しい子なの……?)
度重なる異次元レベルの攻撃で感覚は麻痺していたが、本来はあんなことができる方が
むしろあたしやアルヴェこそ〝ふつうの人間〟――大地を砕いたり溶かしたりできないからって、なにも気にすることはないのだけれど。
「みんなががんばってるのに――なにもできなくて、くや、しい――」
そんなことを。
心優しいアルヴェは言うのだった。
「アルヴェ、気にすることなんてないのよ。だったら……そうね。せっかくだしアルヴェに。ううん。大地を砕く力を持っていないあたしたちに〝できること〟をしましょうか」
「――え?」
あたしはアーキスが地下倉庫から持ってきた〝掘り出し物〟の中から、目当てのものを探す。
それは袋の奥の方に身を潜めるようにして入っていた。1、2、3、4つ。ちょうどふたり分だ。
その1セットをあたしはアルヴェに手渡す。
「――なに、これ」
「これは
「おう、えん――?」
アルヴェは何度かその4文字を繰り返した。
やがて言葉の意味が彼の頭の中で意味と結びついたようだった。
「おうえん、する――!」
アルヴェの表情に灯りがともった。
その頬はやる気に満ち溢れているように紅くなっている。
そしてあたしは――前の世界でチアリーディング部だったあたしは。
アルヴェにその使い方と簡単な振り付けを教えてあげた。
「ふれー、ふれー」
「「……うん?」」
月への攻撃に熱中していた王子たちがふと振り向いた。
目線の先にはふりふりのメイド服を着た絶世の美少女――の姿をした美少年が、どこか恥ずかしそうに頬を染めて〝ぽんぽん〟を振っている。
「「アルヴェ、どうしたんだ……?」」
「ふれー、ふれー。がんばれー、がんばれー」
足を恥ずかしそうにあげながら。たどたどしいステップで。
初々しい所作で。あどけない声で。
みんなのことを応援するアルヴェの姿が性癖にどん刺さりしたあたしは、地面を転がりまわりたくなるのをギリギリのところで
(耐えるのよ、あたし――! これはあたしじゃなくて〝王子様〟たちへの応援なんだから……!)
「ふれー、ふれー」
しかし破壊力強すぎる応援を受けた王子たちの方も。
「「アルヴェ――」」
どこか頬を朱に染めながら〝なにか禁断の花園に目覚めたかのような〟気恥ずかしそうな視線をアルヴェに送ってきたのだった。
周囲に真っ赤なバラでも飛んでいそうな雰囲気に、あたしのキャパは完全にオーバーヒート。
あたしの中のリトルカグヤとともに『待って無理しんどい本当に無理好き』と早口で言って結局地面をごろごろ転がりまわったのだった。
「アルヴェ、ありがとうな……!」
「お前ら! アルヴェのためにも絶対に星を落とすぞ!」
「「おお!!」」
相変わらず〝星落とす〟がパワーワード過ぎたけれど、みんなのやる気も高まったようだ。
あたしは頑張るみんなの姿と、それを応援するアルヴェの姿とを『1:9』くらいの気持ちの割り振り方で視界に入れながら、あたしも彼らのことを応援することにした。『みんなー、がんばるのよー!(棒読み)』
「よ~し! 次はようやくおれの番だ~」
ぐるぐると腕を回しながらやってきたのは大食漢のマロンだった。
「アルヴェのおかげでがぜんやる気が出てきたよ~!」
「「ああ! 任せたぞ、マロン!」」王子たちがあとを押した。
その中でひとり、ミカルドが顎に指先を置いて言った。
「……む? そういえば、マロンは【魔王】の息子であったか……?」
「ええ。そういえばもなにも、その魔王の子息よ」
記憶世界で明らかになったマロンの正体。
それは魔大陸を制覇する魔族の王――魔王の息子であった。
単なるイノシシに乗ってきた大飯喰らいのおバカ王子ではないのだ! ……たぶん。
「あはは、確かに今まで〝魔王〟っぽいとこなんてちっとも見せてないもんね。かろうじて言えることは……頭に生えてる〝角〟と、あと無尽蔵の〝食欲〟くらいかしら。後半のがどう魔族と関わってるのかはわかんないけど……ミカルド?」
ミカルドは会話の途中でもなにかを考え込むようにしていた。
彼は『ああ、すまん……
「マロン――奴に〝本気〟は出させない方がいいかもしれん」
「え? それってどういう――」
意味はすぐには理解できなかったが。
その時のミカルドの表情が真剣そのものだったので、あたしはマロンに念のため声を掛けることにした。
「マローン! あのねー、ミカルドがねー!」
「カグヤ~! どしたの~? 聞こえない~」
「あなたにね、本気を……きゃあっ」
何度も叫んでみたが、そのたびにあたしたちのことを追い立てるように吹き上がる風によって邪魔をされてしまった。
肝心のマロンは、その様子を見て――
「カグヤ~! 大丈夫だよ、心配しないで~」
何かに気が付いたように、OKマークを手で作って。
「ちゃんと
堂々と〝本気〟を出す約束をしてきたのだった。
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