3-63 これからどうしよう!(地球帰還大作戦⑫)


 度重なる常識外の攻撃によって。

 遂に

 

「きゃああああああああっ」

「「うおおおおおおおお!!」」


 あたしの悲鳴と王子たちの歓声が混じりあう。

 絶え間なく襲い来る振動によってあたしたちの顔は人様には見せられないようになっている。

(ちょうどジェットコースターで重力Gがかかった時のような表情だ)


「うそ、でしょっ!? 本当に、月、の!?」


「ああ、やってみるものだな」

「みんなの力だべ」

「これで〝前例〟ができたね~」


 王子たちはどこまでも呑気のんきな様子で言う。


「いや、それにしても――カグヤはだったな」ミカルドが口角を上げた。


「……え?」


「最後のカグヤのハンマーによる一撃――あれがキッカケとなって月が落ちるに至ったのだ。月を落としたのは、ほとんどカグヤの力によるところだと言ってもいい」

  

 こいつら! あたしに責任転嫁しやがった!

 

「ふざけないで! ――あたしたち全員、よっ」


 あたしも口角を上げて、みんなのことを犯行に巻き込んでやった。

 そうだ。これから月が地球に落ちてどんなことが起きたって、あたしたちは〝前例を作った〟運命共同体で――


「……って、」


 ふとここで〝現実問題〟が気になった。


(このまま月が地球にしちゃったら、一体どうなっちゃうわけ……!?)


 ――月を地球に落としたらどうなるかって? んなもん、やってみねえと分かんねえだろうが! がねーんだからよ。


 王子たちにそう言われ『それもそうね……』と当時は納得してしまっていたけれど。

 

 隕石のように降り注ぐ〝月〟は、そのままの超絶たる勢いと質量をもって地球に衝突して――

 そのまま地球ごと。そこに住む数多の生物ごと。あたしたちごと。


 ――きっと滅ぼしてしまうのだ。

 

 そんなものは前例がなくったって分かる。

 なにが『それもそうね……』よ! 冷静になりなさい、あの時のあたし!

 

「ね、ねえっ、みんな!」


 あたしは胸の前に手を置いて不安を強調させながらみんなに尋ねてみる。

 

「実際にわけだけど……これからどうする気!? このままだと地球と衝突しちゃうわよっ!?」


 そんなあたしの質問に。

 王子たちは揃って首を傾げた。

 

「「……さあ?」」


「なんにも考えてなかったんかああああああい!」


 どごごごごごごご。

 こうしているうちにも星の落下速度が上がっていく。


「きゃああああああっ!」


 空を見上げると、周囲の星がまるで無数の流れ星みたいに黒いキャンバスに光の筋を残していた。

 しかしそれは〝流星群〟のように、空にある星が動いているのではない。


 あたしのいることで、相対的に流星群みたいに見えているのだ。流れ星は、この〝月〟自身よ!


「なにも考えていなかったもなにも……しょうがないであろう」

「だれもこれまでに、月を落としたことなんてねえんだからよ」

「なるようになるんじゃない~?」


(だめだ、このホンモノ王子たち、全然頼りにならないわ……!)

  

 月が地球に落ちて〝なるようになる〟わけがない。待ち受けるのはただ純粋たる破滅だ。

 

 あたしは落ち行く星の地表でどうにか頭を巡らせる。


 ――考えなさい。考えるのよ、あたし。


 これでも昔は文武両道の秀才だったんでしょう?

 いい? 問題は至ってシンプルなの。

 

 月を地球に落としておいてさえ考えれば――


「………………」

 

 うーん。

 どう考えても――


「そんなの絶対無理に決まってるでしょおおお!」


 ごごごごごごごごごごごごご。

 さらに落下速度が上がった。まともに立つことはとっくに難しくなっている。

 

「「うわあああっ!」」


「みて! 地球がもうあんなに近くに!」


 落ちている途中で軸が回転したのだろうか。

 もともと月の裏側だったこの場所からでも、闇黒の空に浮かぶ【地球】の姿を見ることができた。


(わあ。青くて、白くて、丸くて――とても綺麗ね)


 宇宙飛行士のように感慨深くなりたいところではあったが。

 このままだとその〝美しい星〟を隕石落下によって破壊させかねないのだ。感動して悦に入っている場合ではない。


 ――どうにか、しないと……!


 このかんにも月と地球との距離は縮まっている。

 大気圏にはもう突入したようだ。月の前方が空気との摩擦で燃えるように火の粉を振りまいている。

 

 時間がもうない。自分にできることは。


 自分にできることは――


「星が落ちてる非常事態に、ふつうの人間にできることなんて、あるわけないでしょーーーーーー!」

 

 ついには諦めて。

 天に向かって大きく叫んだその時。


『『待たせたな』』


「……え?」


 あたしがいる地表に〝大きな影〟ができた。

 まるで太陽をぶあつい雲が覆ってしまった時のような濃厚な影だった。

 その正体を確かめるべく、上を見上げると――


「へええええええええええええ!?」


 そこには。


『『出遅れちまったが――やっとおれ様も、』』


 その言葉の通り。

 大怪獣ばりにした筋肉王子・アーキスの姿があった。


 

「うわーーーーーー! ほんとにでっかくなってるーーーーーーーーーーー!」



 あたしの絶叫系ツッコミに。

 巨大化したアーキスは白い歯を見せてニカッと笑った。


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