3-53 合体攻撃をしよう!(地球帰還大作戦②)


「いよいよボクの番だね」


 巨大怪獣連中による超破壊攻撃のあとに歩みを進めてきたのは。

 水上王国の第三王子・クラノスだった。

 

「そ、そっか! 忘れがちだけど、クラノスはこの世界最強の魔法使いだったわね!」


 そこでクラノスはあたしの方をちらりと見て、悔しそうに言った。


「……ま。に比べたらたいしたことなかったけどね」


「え?」


 言われてみれば確かに。

 以前のあたしは『月神の加護』によって様々なチートスキルを扱うことができたらしいのだ。

 言葉通りの反則チートだし、別に対抗意識は燃やさなくていい気がするけれど――それでも〝魔導士〟としての彼のプライドに障っていたのだろうか。軽く唇を噛みながらクラノスは続けた。


「だからボクは――に負けないように、魔術師としても尊敬して。そして何よりも――あの人に負けないように! 研究を積み重ね、魔法の特訓をしたんだーーーーーっ!」

 

 その瞬間、あたしにでも分かるくらいに大きな魔力がクラノスから放たれた。


「きゃあっ!」


 巻き起こった風のような圧に、あたしを含めた周囲の王子たちがのけぞる。

 クラノスが放出する魔力は止まない。周囲の空気が轟々と震えている。

 

「うおおおおおお! 今だ! ボクと合体しろ!」


『『ぬるうううううううううううう』』

 

 その号令と同時に。

 使い魔である巨大イカの触手によってクラノスは持ち上げられ、その巨大で白い身体の中心に溶け込むように組み込まれた。

 まるでクラノス自身が巨大で重厚な触手を数多うごめかせ操っているようにもみえる。


(とてつもない魔力を放ってるのが分かるわ……! で、でも、あのビジュアル――!)


「なんだかゲームのみたいな見た目ね……!」


 最終戦を終えたと思ったら、主人公の味方が敵に取り込まれてさらに能力を強化した姿、みたいな……。

 

(た、確かに見た目はアレだけど、これほどまでの力を発してるならいけるかも――!)

 

 周囲の王子たちも感心するようなまなざしを向けている。


「ふん。やるな――さすがは〝ぬめぬめ触手王子〟だ」

「あれ?〝巨大イカゲソ炙り王子〟じゃなかった~?」

「〝歌って踊れるイカ王子様〟……かっこいいべ~」

「〝反逆するイカスミ魔導士〟の名は伊達ではないな……!」


 相変わらずクラノスの二つ名大喜利大会ははじまっていたけれど……。

(ちなみにあたしは今回はギリギリで笑わなかった)


 そんな野次を受けながらも。

 見た目がちょっとアレなのも気にせずに。

 

 どこまでも真剣な顔つきで魔力を発し、空に魔法陣を描きつけるクラノスの姿は――


 ちょっぴり、、ともあたしは思った。


「お前らうるさい! ――いいか!? ボクの二つ名は、」


 そして彼の溜め込んだ魔力が最大限に達し。

 空には密度高く複雑に描き込まれた魔法陣が完成した瞬間。


「ボクの二つ名は――【】だあああああああああああああああああああああああああああ!」


 そんな絶叫とともに。


「水系統究極最大魔法――≪ 大水撃流砕弾嵐アクアグランデ・ハリケーン ≫!!!!!!」


 クラノスの魔力と技術すべてが詰め込まれた【最大級の魔法】がぶち放たれた。


「「うわあああああああああああああああああああ!!」」


 ――大地を砕く巨大怪獣以上の攻撃なんて存在するの?


 そんな疑問を浮かべていた過去の自分の予想を。


 クラノスの魔法は遥かに


 もはや〝水〟が持つ威力の衝撃ではない。

 巨大イカと一体化したクラノスが放った、まるで世界中に存在するすべての水流を一点に凝縮したかのような攻撃は、月の裏側を文字通りえぐり取って破壊した。

 

「す、すごい……!」


 怪獣たちの攻撃によってできたクレーターがさらに広がる。


 それでも。


「やっぱり、星は強いのよ……」


 大地はめくり上がり致命的なダメージを負ったように思えたが……やはり、だった。


 震動が収まった先で、星自体はびくとも動かない。


「……くっ!」


 びちゃあ、という水音ともにクラノスが地面に落下してきた。


「クラノスっ!」


「やっぱり、ダメだった。ボクの力は、には至らなかった……」

 

 悔しそうにするその表情や身体はやっぱり粘液でだったけれど。


「……おつかれさま」


 あたしは構わず、その身体をハグしてやった。

 その時触れ合ったクラノスの頬に、粘液以外のなにかの感触があったのを、あたしだけが知っている。


「カグヤ――ううっ、ありが、とう」


 クラノスはそう言うと何かに気づいたようにぱっとあたしから離れて、珍しく動揺するように顔を真っ赤にさせてから。

 負けず嫌いな表情を珍しく崩して、言った。「あとはあいつらに任せたっ」


 しかし問題は月だ。


 月を地球に落とす――という奇想天外エキセントリックな作戦を決行するには。

 まさしく〝月を地球に落とすだけのエネルギー〟をぶつけなければならないのだ。


「世界最強の魔法使いの攻撃でもだめだったなら、一体どうすれば……」


 あたしは唇を噛み締め首を振った。


「ふん、十分だ。よくやってくれた」


 しかし王子たちは。

 やはりなにひとつとして諦めてはいないようだった。


「ここからは波状攻撃だ! 最後まで間髪をおかず、ひとつの手も緩めずに! 貴様ら! ついてこれるか!?」


 

「「うおおおおおおおお!!!!」」


 

 王子たちの雄叫びが、最早原型を留めていない月の裏側に響き渡った。

 

 

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