3-54 火の息吹を吐こう!(地球帰還大作戦③)

 

「次なる陣は我が飾ろう」


「「ミカルド!!」」


 てっきりミカルドは指揮官的な立ち位置だと思ってたけれど……攻撃にも参加するのね。

 彼は気障っぽさを滲ませながら白銀のマントを翻し、颯爽と赤黒いドラゴンの背に飛び乗った。


「うおおおおおおおおおお!」

『ごおおおおおおおおおお!』


 ふたりの叫びが呼応シンクロするように周囲に響き渡った。

 目指す先はクレーターの中心部の上空だ。


「我が同朋よ、迷っている暇などない。最初から全力でぶちかませ――おのが〝ドラゴン〟であるが故の唯一無二の攻撃を見せてやるのだ!」


 そしてミカルドはすううう、と息を吸って。

 もったいぶるような間をとった後に叫んだ。


「ゆけ! ――≪ 偉大なる龍の火息吹きグレイト・ドラゴンブレス ≫!!!」


『ごおおおおおおーーーーーーーーッ!!!!!』


 物凄い熱だった。

 ミカルドの発声とともに、彼が乗った巨大な隻眼の赤黒いドラゴンが〝灼熱の炎〟を吐いた。

 その威力は最初に出会って塔にぶつけた時のものとは文字通り比べ物にならないほど激烈であった。

 触れた総てを業火をもって溶かす――まさしく煉獄の炎。


「「っ!!」」

 

 夜の空も炎の色を反射して、けばけばしい紅に染まっている。


 空すらも染める火炎。

 大地すらも溶かす灼熱。


「こ、これが――ドラゴンにしかできないの炎の攻撃……!」


 あたしも含め周囲の皆が絶句する。大地がマグマのようにけている。

 これまでの攻撃もすごかったが、絶えることなく吹き付けられる灼熱の龍息はさらなる可能性を感じられた。

 

「ふだんの〝ぶっきらぼう〟で気障なミカルドしか知らなかったけど……あれだけの力を持つドラゴンを従わせるなんて、さすがは帝国の皇子ね。見直したわ」


「これで終わりではないぞ! 手を緩めるな! 次の攻撃を放て!」


 ドラゴンブレスが落ちついてもミカルドはひとつの満足も油断もしていないようだった。

 続く指示に、戦線に向かったのは――

 

『『けぽおおおおっ』』


 オルトモルトが乗ってきたサンショウウオの【ポータン】だった。


「ククク――我が眷属よ……その力を今度こそ見せてやるのだ……!」


 あたしの心臓は気づけばどくどくと高鳴っていた。

 

 ――もしかしたら、本当にしてくれるのかもしれない。


 そんな思いが浮かんでは消えていく。

 確かに攻撃は物凄いが、地面は。星は。月は。

 未だにしていない。

 どこかに向かって落ち行くことなく、大地はそこにり続けている。


 それでも。

 あたしはもはや結果についてはあまり気にしていなかった。


 ――月を地球に落とす。


 そんなはじめから〝不可能〟にしか思えない挑戦に。

 あたしのために。あたしと一緒に地球に帰るという目的のために。

 こうやってみんなが一致団結してくれていることだけで十分に嬉しかった。


 それなのに。

 月への攻撃は予想以上に激しいものとなり、今や想像を遥かに超えたパフォーマンスをみんなは発揮してくれている。 


 あたしは今や〝期待〟をしていた。

 一体全体、王子や使い魔たちは次はどんな攻撃を繰り出してくれるのか――


 さっきは帝国皇子の名に恥じない、ドラゴンならではの唯一無二の攻撃で魅せてくれた。


 次に戦前まで出てきたのはオルトモルトの使い魔である巨大サンショウウオだ。


 一体どんな攻撃を――?


 頭の中で様々な考えを巡らせていると。


『『けぽおおっ』』


 サンショウウオのポータンは、大きくその口を開けたのだった。


(……あれ? この光景、どこかで見たような……?)


 デジャヴを感じたが攻撃は止まらない。

 オルトモルトは大げさな身振り手振りで叫んだ。


「クハハハハ! ゆけ、ポータン! この世の終焉が迫ることを示す〝唯一無二の攻撃〟を見せてやるのだ!」

 

(あ……そういえば……)


 あたしはふと思い出した。


「あの子一応、サンショウウオじゃなくて【火炎蜥蜴フレイム・サラマンダー】って呼ばれてたわよね? ということは……まさか……!」


 予想は的中した。

 巨大化したオオサンショウウオ――もといフレイム・サラマンダーは。

 その大きな口を開けて、


『『けぽおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ――!』』


 真っ赤な火炎を、吐いたのだった。


「うわーーーー! ドラゴンと攻撃被ってるーーーーーーーーーーっ!」


 突っ込むあたしの身体はさっきと同じく絶大な熱を感じる。

 空が炎で紅く染まっていく。灼熱の業火は地を溶かしてく。

 

 どこからどう見てもドラゴンの攻撃と同じだった。


「待って待って! 次はどんな攻撃がくるのかなって楽しみにしてたのに! めちゃくちゃ被ってるけど大丈夫!? 威力とかも含めてほとんど一緒じゃない! てゆうかその子ほんとに火吐けたんだ!?」

 

 あたしは混乱しながらも突っ込んでいく。


「「……っ!」」

 

 しかし目の前の王子たちはあたしの態度とは対照的に目を見開いて。

 いつかと同じようにオルトモルトの言葉を鵜呑みにししていたのだった。

  

「さすがは邪神の眷属……っ」

「【火炎蜥蜴フレイム・サラマンダー】の名前は伊達じゃないね……」

「ああ、こんなものを見せられてはたまらん」

「まさしく、の攻撃だ」


「いや、今さっき同じような攻撃してたじゃん!」あたしのツッコミは聞き入れられない。


 ふと気になって本人であるドラゴンの方を振り向いたが――

 そのドラゴンも『この炎、唯一無二……!』みたいな表情を浮かべて感心していたのでもうあたしはなんか主張することを諦めた。

 

「クハハハハハ! これこそが邪神様の眷属の力……! 畏れ入ったか……うっ!?」


「「オルトモルト!?」」


 フレイム・サラマンダーのさっきどっかで見たような演出の炎の息吹がひととおり収束したあと。

 オルトモルトが苦悶の声を出し、その場に倒れるようにうずくまってしまった。


「だ、大丈夫っ……?」


「ち、近づくでない……!」


 心配で駆け寄ろうとしたところを制された。

 彼は髪を掻きむしり、自らの心臓を抑えるようにしながらうめき声をあげている。


「し、しずまれ! 我が体内に棲み、魂を喰らう【邪龍】よ……! しずまるのだ……!」


「お、おいおいまさか……」

「ああ、前に言っていた」

「オルトモルトの中の邪龍が復活しようとしているのか……?」


 胡散臭いばかりにのたうち回るオルトモルトのことを、王子たちは〝この世の終わりが来た〟かのような表情で見つめて怯えている。


「逃げろ……! 余が抑え込んできた邪龍の力が目覚めれば、どうなるか分からぬぞ……!」


 そんなまわりの視線を煽り立てるように、オルトモルトは大げさな身振り手振りで続ける。


「クッ……! 貴殿らの命が未だ在るうちに……早く余から離れるのだ……!」

 

「ちょ、ちょっとオルトモルト? これでも一応みんな真剣にやってるんだし、そういう中二病的な演技は自重して――」

 

「クハアアアアアアア!!!」


「「オルトモルト!?」」


 そこでさすがのあたしも目を見開いた。

 地面を転がりまわるようにしていたオルトモルトの身体が――突如としてのだ。


「ちょっと!? 何が起きてるの!?」

 

「しずまれ、しずまるのだーーーーーーーッ!」

 

「「うわああああああああ!」」


 状況は混乱を続けている。

 

 オルトモルトを包む光が次第に大きくなっていった。


「なによ、この光――!?」

 

 まさしく天にも届くような大きさとなって。

 光の膨張はようやく止まった。それが晴れた先には――


「……え?」

 

 黒くて巨大な。

 一体の〝龍〟が屹立きつりつしていた。


「「………………」」


 そしてその龍の黒い巨体には。

 オルトモルトが自らの身体に書きつけていた(水溶性の)タトゥーと同じ文様が入っていた。


 

「うわーーーーーー! ガチで内なる邪龍目覚めたーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 

 どうやらその黒龍がオルトモルトであるらしかった。


 

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