04.イクイップメント

 今度は加護スキル欄の〝イクイップメント〟の文字をタップしてみる。

 説明欄には〝四大元素エレメントを練成して神の加護を受けることにより、様々な設備装置を作り出すことができる〟とあるが……。


 説明欄の下には、


【イクイップメント レベル1】

 imbremインブレム  1/1

 ???? 0/0

 ???? 0/0

 ???? 0/0

 ・・・・・・・・

 ・・・・・・・・


 ……と、かなりの数の「????」が並んでいるが、文字に変わっているのは一番上の〝imbremインブレム〟だけ。

 澪緒みおが首を傾げながら、


「何で日本語モードなのに、技名みたいなのだけ英語なんだろ?」

「英語じゃない。恐らくラテン語だ。詠唱とは加護の効果を方向付けるための〝韻〟だから、勝手に言語を変えることができないんだろう」

「ふ~ん。で、インブレムって何?」

「分からん……」


 インブレム……紋章エンブレムのことだろうか?

 いや、emblemエンブレムなら四文字目は〝L〟だ。頭文字だけならともかく、アルファベッド圏で〝L〟と〝R〟はまったくの別物と言っていい。

 トランスフォームやストレージのように、英語と音韻の近いものであれば推測は可能だが、さすがにすべてのラテン語までは守備範囲外だ。

 ただ、注目すべきは詠唱ワードより数字……カウンターの方だろう。


 魔法職の奇跡のように、階層に応じて最大使用回数が決まっているのではなく、奇跡毎に使用回数が決まっているようだ。

 生産系の加護スキルに多い方式だったが、イクイップメントもそれと同系統ということらしい。


「とりあえずさ、一つだけ作ってみればいいんじゃん」

「一つしか作れないけどな」


 澪緒に言われるまでもなく、試すつもりではいた。

 効果が分からなければいつまでたっても計画が立たないし、魔法系の加護と違って生成品が手元に残るのも大きい。それを売って収入を得られるからだ。


 もっとも、ゲームと同じ方法が使えるとは限らない。

 ゲームなら収入がショボすぎて誰もやらなかったことでも、無限に作り出せる物を売って日々の方便たつき( ※生計)を保てるとなれば、通常生活を送ると言う目的においては強スキルと言っていい。


「よし、二人ともちょっと離れてろ……。いくぞ? クリエイト! インブレム!」


 なんとなく前方にかざした右の掌の先に、黄緑色の光線が収斂しゅうれんを始め、やがてバナナのような形を成したところで光は霧散。

 最後に残された物体が、急に重力を思い出したようにボトリと地面に落ちる。

 澪緒がそろそろと近づきながら、


「そ、それって……シャワー? だよね?」


 そう、地面に転がったのは、紛れもなくシャワーヘッド。この世界には似つかわしくない銀色のステンレス製で、もちろんシャワーホースなんて付いていない。

 散水板の周りの、いわゆる散水カバー部分がダイヤルのようになっている、ちょっと変わったデザインだ。


「ヘッドだけ出してどうすんだよ?」

「俺だって知らねぇよ……」


 何とも言えない表情で近づいてきたユユに答えながらシャワーヘッドを拾い上げると、無造作にダイヤルのような部分を捻ってしまった。

 直後——。


「どわっ!」

「きゃあっ!」


 ミニスカートの裾を濡らしながら、慌てて飛び退すさるユユ。


「な、何すんだよ!」

「ご、ごめっ! まさか、何か出るなんて思ってなかったから……」


 慌ててダイヤルを元の位置にもどすと、出ていた液体も止まる。

 ちょっと湯気が立ってるし、もしかして出ていたのは……お湯か!?

 今度は先ほどとは逆——時計と反対回りに少しだけダイヤルを回してみると、散水板からチョロチョロと無色無臭の冷たい液体が溢れてくる。

 思い切って少しだけ口に含んでみると……。


「間違いない、ジヒドロゲンモノオキシドだ」

「じ、じひ、ど? おき、しど?」

「一酸化二水素。H2O。……要は〝水〟だ」

「なら最初からそう言えよ! ビビんだろ!」

「誤解の無いように言ったんだよ」

「かえって誤解するっつの! 毒物かと思ったわ!」


 しっかし、どういうことだ?

 どことも繋がっていないシャワーヘッドから水が出てくるなんて……。

 振っても叩いても、片目を瞑って逆から覗き込んでみても、何の変哲もないただのシャワーヘッドにしか見えない。


「お兄ちゃん、その水ってどこから?」

「分からん。ただ、これはあくまでも俺の推測だが……」


 ここはゲーム〝メメント・モリ〟の世界。

 見かけ上は現実世界と同じでも、世界の成り立ち自体がまるっきり違うのだ。いわゆる、寿限無じゅげむの作り出したご都合主義オポチュニティの世界。


 恐らくこの〝イクイップメント〟という加護は、設備装置を作るというよりも、それに付随するすべての現象を再現するような奇跡なのではないだろうか?

 もしかすると、四大元素である〝火・空気・水・土〟に関わる現象に限定されるのかもしれない。

 しかし、いずれにせよこれは……。


——使える! 当たり加護スキルだ!


 エレイネスのやつ、熟慮に熟慮を重ねて追加したなんて言っていたが、どうせ適当に作ったんだろう。

 だからバランス調整もそこそこにこんな強スキルになったんだ。

 ゲームであればすぐにアップデートで調整が入るところだが、この世界がそこまでフットワークが軽いとも思えない。

 とにかく、利用できるうちはとことん利用してやろう。


「……と、いうわけだ」

「すごぉ——い! じゃあこれで、水の心配はなくなった、ってわけか。……まてまてぇ! これをじゃんじゃん作って売れば、お金の心配もないってこと!?」

「うむ。澪緒にしては鋭い意見だ。この世界のAIDMAアイドマモデルを分析して商売に役立てれば——」

「あ? あいどま?」

「消費者の購入プロセスを表すフレームワークのことだよ。認知Attention興味Interest購買欲求Desire記憶Memory購買行動Actionの頭文字を——」

「ああ~! はいはいはいはい! お兄ちゃんきもっ! ABうざっ!」

「き、きもっ、てなんだよ! 血液型なんて関係ないだろ? そもそも血液型ってのは〝ヒトの血清学的体質〟であって性格形成とは関係ねぇし……そもそも国際輸血学会が認定している血液型は三十七種類——」

「そもそもそもそも、うるさぁ~い! 以後〝そも禁〟でお願いしまぁす!」


 さらにユユまで眉をひそめながら、


「そういうとこだぞ燐太郎。そんなんだから、中学の頃はセツメイなんてあだ名を付けられたんだよ」と、澪緒に加勢する。


 くっそ、こいつら……。

 女が多いと、絶対に男がアウェーになるから嫌なんだよ。

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