04.紅髪の聖女
「あの女性の現在の戦闘力は、一万五千です」
「いっ……一万五千だと!?」
——一万五千だって!?
「あ、あり得ん……さっきまで四十だった戦闘力が、剣を持っただけで一万五千だと!? 桁が違いすぎる!」
——まったく同感だ。
「いくらなんでも上がり過ぎだ! 銀狼級の私ですら三千五百——」
「事実です」
「サトリ、おまえ……さては、読み違えたな?」
「んなわけあらへん!」
今度はウサ耳カチュのユトリが口を挟む。
「サトリは、ウチが長年
ウサ耳のユトリと、
待てよ?
ユトリとサトリ、ユトリとサトリ……なんか、聞いたことがあるような……。
「ところであんたら……」
ユトリが俺たちの方へ視線を戻し、ニッと口角を上げた。
「いったい、
答えあぐねて黙っていると、それを見てさらにユトリが、
「精霊の動きで服の下に何ぞ隠し持っとるんは見えたから、どないするんやろ思て様子を見てたんやけど、まさかジェリダの巻物を持っとるとはなぁ」
——精霊の動き? この世界の住人はそんな物が見えるのか?
自分が
「
どう答えればいいんだ?
ここでの一言一句が、今後の展開に大きく関わってくる気がする。
ユトリとサトリ……何かが思い出せそうなんだが……。
「あんなの、初めから持ってたんだよ!」
押し黙っている俺を見かねたのか、代わりに澪緒が答えてしまう。
「初めから? 初めってなんやねん?」
「初めは初めだよ! この世界に来た時からだよ!」
「この世界に、って……まさかあんたら……」
そこまで言って、しかしそれ以上の言葉は継がずに隣りのオートマタを見遣り、
「どや、サトリ? やり
「現在のまま戦闘力の上昇が見られなければ、ほぼ互角ですが、なんとか……。しかし、まだ何か隠しているような気がします」
くそ……やっぱこいつら、やり合おうってのか?
話を聞く限り、あのサトリという
俄かには信じがたいが、我が脳筋妹は思っていた以上に凄いやつなのかも。
ユトリが再び澪緒の方へ顔を向けると、両手のマチェットに視線を止め。
「あんた、その得物以外にも、なんか隠しとるん?」
はは……。
そんなストレートな質問に、誰がみすみす本当のことなんか話すか!
分かってるな、澪緒?
切り札はギリギリ最後まで——、
「ふふふっ。よくぞ尋ねてくれましたぁ! 聞いて驚け見て驚けぇ~! とらんすふぉぉぉむっ!!」
アホかおまえ!
……と、突っ込む間もなく澪緒のマチェットが黒い超大剣に変わる。
「これがミオのリーサルウェポン! え~っと、漆黒のぉ……青!」
直後、ちらりと俺の方を流し見た澪緒が、「ごめん……」と、申し訳なさそうに両目をギュッとする。
「
「謝んの、そっちじゃねぇよ!」
まあ、脊髄だけで生きてるようなやつに駆け引きを求めた俺が間違いだった。
こうなれば、とりあえず澪緒に喋らせて成り行きを見るしかないが……。
向こうはどうでる? さすがにアウトか!?
……と思っていると。
澪緒の超大剣——
「双極の黒剣と眷属を従えし紅髪の聖女、慈神の大剣を以って我らを
「……ん?」と、小首を傾げる澪緒に、さらにユトリが続ける。
「ロガエスの書、第三十八章の一節やねん。あんた、もしかして、エレイネスの使徒やないか?」
「エレイネス? ……ああ、あのダジャレ女神? まあ、知り合いっちゃ知り合いだけど……」
「やっぱりせやった!」
ユトリは雷同の一声を上げると、すたすたと前に進み出て澪緒の左手を両手で握り、ブンブンと上下に振り始める。
「最近、あちこちで女神さんの使徒らしき三人組が現れてるっちゅう噂を聞いとったから、もしかするとこの国にも、とは思うとったけど……まさかウチの前に現れるとは! いやあ、ほんまびっくりやで!」
「う、うん……ん?」
「しかも、女やねんなぁ? 他んとこの使徒さんは大抵が男やっちゅう話やけど、女やったら、正真正銘の聖女やないか!」
な、なんか分からんが、とりあえずセーフ?
そんなものがメメント・モリに取り入れられていたってのは初耳だが、どうやら書に記載されている聖女とやらが澪緒に酷似しているらしい。
あちこちで三人組が出現している……というのは、もしかすると現代からネブラ・フィニスにやってきた転送者かもしれない。
いずれにせよ、ユトリ的には
「ようさん話したいこともあるし、とりあえず今日んとこはお供の二人も一緒にうちに泊まってったらどないや?」
お供の二人、って……俺とユユのことか?
「お、お待ちを、ユトリ様!」
「なんやねんっ!」
割って入ったディスバルを間髪入れず睨み返すユトリだったが、ディスバルもここは怯まず食い下がる。
「いくらロガエスの聖女に似ているとは言え、彼らが女神の使徒だとは限りません。いや、むしろ聖女を
「なにゆーてんねん? あんたもさっき、聖女さんの大剣は見たやろ?
「だとしても! 仮にこやつらが本物の使徒だとしても、我々に仇なす存在でないとどうして言えますか? こんな得体の知れない連中をいきなりカスタニエの屋敷に招くなど、警備の観点からも看過することはできません!」
カスタニエ……。
ん? カスタニエ!?
思い出したっ!
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