02.Q.E.D

「あのバケモノ・・・・は放っておいて、俺たちのも見てみよう」


 女神端末アニタブの画面を戻し、今度は〝ユズハ・ユズリハ〟と記された部分をタップすると、澪緒みおの時と同じように簡単なプロフィールが表示される。

 さらに加護スキルの項目を確認してみると、


「やっぱりユユも〝闇魔法レベル1〟か」

「うん」

「ん~、性技もレベル1か……」

「当たりめぇだろ!」

「いや、ほら、元の世界の経験を引き継げるような項目はもしかして、って思ったから……」

「ほらって何だよ!? 元の世界のことと性技に、何の関係があんだよ!?」

「だ、だって、彼氏もいたくらいだし多少は経験もあるのかと……」

「ばっ、バッカじゃねぇの!? ねぇよそんなもん! バージンどころか、キスすらしてねぇよ! グゥの音も出ないくらいレベル1だっつぅの!」

「え? だっておまえ……」


 言いかけて、慌てて言葉を呑み込む。

 ……が、俺が言おうとしたことを察してか、すぐにユユが、


「燐太郎おまえ、もしかして、ゲスラギのあの画像を見たから——」

「ち、違う違う! 別に、あんな画像で何かを邪推するわけじゃないけど、彼氏がいたってのは事実なんだろうし、一般論として、それなりのこともやってんのかな、って思っただけで……」

「それなりのこと?」

「いや、よく分かんねぇけど……つか、深く突っ込むなよ……」


 ハア……と一つ溜め息を吐いて、ユユが肩を落とす。


「ねぇよ、なんにも。そりゃあ最初は、可愛いだの何だのって褒められて、私もそういうの初めてだったし、ちょっと舞い上がったりもしてさ……」

「……うん」

「好きかどうかも分からなかったけど、見た目はまあまあだし、ちょっと付き合ってみっかな、みたいな軽い感じでさ……」

「ああいうのが好きなのか」

「ちっげぇ——よ! まあまあっつったろ、まあまあって! 燐太郎の方が数倍マシだっつの!」

「……え?」

「あ……いや、だから、あえて比べれば、ギリギリ、辛うじて、なんとかおまえの方がマシ的な感じ、ってことだからな!?」

「全然数倍じゃねぇじゃん……」

「でも、部屋に呼ばれて、なんかそういう雰囲気になってベッドに押し倒されて、まいっかぁ、なんて思ってたらあの野郎、いきなりスマホで写真撮りやがってさ!」

「うげ……」

「で、その瞬間あたしも一気に冷めたっつぅか……元々それほど好きってわけでもなかったし、『なんだこの変態!』って感じであいつの股間を思いっきり蹴り上げて部屋から逃げてきたってわけ。あいつとはそれっきり! それでおしまい!」

「じゃあ、鏑木が言ってた、もっとスゲェ画像ってのは……」

「ねぇよ、んなもん! あいつの出任せだ!」


 まあ、確かにそうか。山手線の車内なんて相手がいつ下車するかも分からない、いわば残り時間が計算できない状態。

 であるならば、あいつの性格なら絶対に見せておきたい一枚、つまり、俺やユユに一番ダメージを与えられるであろう画像を最初に開くに違いない。

 つまり、あれより〝もっとスゲェ画像〟なんて無かった可能性が高い。


——Q.E.D(※証明終了)


 気にしないつもりだったが、それでも、ユユがあんな下衆男に汚されていなかったことに、どこかホッとしている自分もいた。


「だからあの野郎、私のことを快く思ってなくて燐太郎にあんなことしたんだと思う。……まあ、信じなくたって、別にいいんだけどさ」

「信じるよ」


 驚いたように顔を上げ、こちらへ視線を向け直したユユに向かって、俺は続けた。


「言っただろ? 俺は自分の目で見て、おまえが付き合うに足る人物だと判断したから付き合ってんだ。鑑識眼には自信ある。あんな画像一枚で自分の判断を変えたりしねぇよ」

「そ、そうか……」

「それに、おまえが俺にそんな弁解をする理由もないしな」

「そぉだよな、バァ——カ!」

「なに怒ってんだよ?」

「怒ってねぇし! それより燐太郎はどうなんだよ!?」

「俺? どう……とは?」

「女子と、そういう経験があんのかって話だよ!」

「何でそんなこと、おまえに言わなきゃならないんだよ」

「ずりぃぞ! あたしばっかに喋らせて!」

「おまえが勝手に喋ったんだろ! そ、それよりもっといろいろ見てみようぜ!」


 女神端末アニタブに話を戻す。

 闇魔法士と言えば、ゲーム〝メメント・モリ〟にもあった職号だ。

 妨害系の奇跡に特化した、かなり育成の難しい加護だったが、対人戦闘では効果が二倍という特殊効果があったため人気はそれなりにあった。

 やはり、MMORPGにおいて対人戦で活躍できるというのは、それだけでドーパミン出まくりの魅力的な要素なのだ。


 スキルの闇魔法をタップすると。


 第一階層 1/1 Aedesアエデス※フィールド系

 第二階層 0/0

 第三階層 0/0

 第四階層 0/0

 第五階層 0/0


——表示を見る限り、システムはメメント・モリと同じようだな。


 第一階層から数字が大きくなるに従い、順に強力な奇跡であることを意味する。

 奇跡を起こすと、その階層の使用回数が一つ減り、ゼロになるとその階層の奇跡はすべて使えなくなる。


 この表示で言えば、今は第一階層の奇跡だけが、最大使用回数と使用可能回数、いずれも一回ということだ。

 起こせる奇跡もAedesアエデス一種類だけらしい。


「アエデスって、どんな奇跡なんだ?」

「分からん。ゲームでは見たことがないな……」


 奇跡名をタップしてみても『????』の表示が出るのみ。

 加護スキルと違い、奇跡については実際に使用するか、鑑定士の加護がないと判定ができないのだろう。その辺りはゲームと一緒だ。


「試しに、使ってみていいか?」と、ユユがキラキラした瞳を向けてくる。


 第一階層で、しかもフィールド系か……。

 敵味方全員に効果の出るタイプだから、致命的なことは起きないだろう。

 使用回数は、ゲームであれば一日の変わり目か、教会に寄付をすることで元に戻せたが、この世界ではどうなんだろう?

 回復方法もそうだが、いざと言う時に使えるよう効果も確認しておきたい。


「分かった……やってみて」

「やった!」


 ユユが、右手の中指に嵌めたブラックオパールの指輪を前に突き出す。


——あれが闇魔法士の武器、ダークネスリングか。


「アエデス!」


 ユユの詠唱に合わせて、指輪から黒い影が浮き出たかと思うと、パッとぜて周囲に拡散する。

 直後、聞こえてきたのは——。

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