04.お触り禁止!
「……ん? 何?」
差し出されたユユの右手を反射的に握り返すと、
「——ッ! おまっ、なに握ってんだ!」
慌てて俺の手を振り
「何って、手を出してくるから……」
「そうじゃなくて、これ!」
ユユが、今度は左手人差し指でダークネスリングを指差しながら、
「宝石の中に、なんか見えんだろ?」
「ん~……、ん? ああ、小さい光みたいなやつ?」
顔を近づけて指輪を凝視していると、手の位置はそのままに、お尻の方を移動させて俺の隣に腰掛け直すユユ。
「そうそう。これさ、最初は光ってたのが、あのアエデスって奇跡を使った後は消えてたのに、今見たら、また光ってんだよね」
「うん……ああ、なるほど」
ユユの言いたいことに思い当たった俺は、急いで鞄から
「また奇跡が使えるようになってるんじゃないか、ってことだな?」
「うん。ゲームだと一日経ったり教会に寄付したりすると復活するって言ってたけど、ここでは違うかもしれないだろ? 条件、確認しといた方がいいかなって……」
「ちょっと待って…………あっ!」
「どうした!?」
にじり寄ってきたユユが、俺の肩口から一緒に画面を覗き込む。
【闇魔法 レベル2】
第一階層 2/0
第二階層 1/1
第三階層 0/0
・・・・・・・
・・・・・・・
「燐太郎! ほら、闇魔法ってとこ見てみろ! レベル2になってんじゃん!」
「うん。アエデスは復活してないけど、第二階層にペルムトってのが出現してるな」
「どういうことだ?」
「つまり……」
一度アエデスの奇跡を使ったことで闇魔法のレベルが上がったのだろう。その影響なのか第一階層の上限は二回に増えているが、使用可能回数はゼロのままだ。
「じゃ、じゃあ、アエデスをどんどん使っていれば、闇魔法のレベルも上がってく、ってことか?」
「う~ん、どうだろう……。MMORPGは、ある一定のラインを超えると、次レベルまでの必要経験値が飛躍的に増大していく傾向があるからな」
「そっか……」
「まあ、アエデスならほとんど害はないし、レベルが上がるうちはそういう使い方もありかもしれないけど」
「じゃあさ、その、ペルムトってやつは?」
「……ん?」
「使ってみてもいい?」
俺は、もう一度アニタブの画面に視線を落とす。
試しに
——まだ第二階層だし、闇魔法の特性上、致命的な効果があるとは考え辛いが……。
ユユを見ると、金色の前髪の奥から、キラキラと期待感に溢れた瞳で俺を見つめ返している。
「つ、使いたいの?」
「そりゃあな! 燐太郎も、一度効果を確認しとかないといざと言う時に使い辛いって言ってたじゃん? それに、私だって早く何かの役に立ちてぇし……」
まあ、確かに、ユユの意見も一理ある。
野宿中と言うならともかく、今は有力者の庇護下で安全は保証されているし、試せるうちに試しておいた方がいいかもしれない。
「分かった。対象は単体らしいから……それじゃあ俺に使ってみろ」
「イェ——イ♪」
どんな効果が現れるのか分からないので、念のためL字型に並べられたソファの各辺に分かれ、九十度に向かい合って座る。
「いくぞ燐太郎……。ペルムトォ——!」
ユユが詠唱ワードを口にすると、
次の瞬間——。
「「……あ……れ?」」
俺とユユが同時に呟く。
い、いや、目の前でぽかんと口を半開きにして固まっているのは……俺!?
外から見ると、俺も意外と目つきが悪いんだな……。
なぁ~んて言ってる場合かよ!
なんで俺が目の前にいるんだ!?
じゃあ、俺は一体……。
と思って下を見ると、胸が邪魔でお腹が見えない。
思わず、視界を塞ぐ膨らみを両手で触って確かめると……紛れもなく女性の象徴だ。よく分からないが、DかEか、多分それくらい。形もよい、なかなかの逸品。
揉めばちゃんと揉まれた感覚が伝わってくるし、
しかも服装は、ボディラインが強調されたリブニットにハーフローブ。ユユが着ていた魔法使いコーデだ。
さらに言えば、手足も女子のものだし、座っている場所もユユが座っていた場所。
つまり……?
「俺とユユの意識が入れ替わってる!?」
「分かってんなら人の胸揉むんじゃねぇっ! ぶっ殺すぞ!」
俺の中に入ったユユの蹴りが、俺の……じゃなく、俺が入ったユユの
「イテッ! お、おまっ、自分の身体を蹴るなよ!」
「燐太郎がエロいことしてっからだろ! お触り禁止! あと、見るのも禁止だ!」
「っつぅか、トイレ行きたいんだけど……」
「さっそくそれかよ!」
「んなこと言ったって、これ……トイレ我慢してたんじゃないの、おまえ?」
「ま、まあ、ちょっとだけな……」
「トイレくらい行ってから来いよ! ちょっとそれ貸せ!」
「え~っと……奇跡の効果は〝対象者と意識を入れ替える〟だって」
「それだけ? どれくらい続くんだ?」
「それは書いてない。ただ、転移体の生命を危険に曝すような行動はできない。また、肉体に深刻なダメージを受けた場合は自動的に元に戻る……だって」
「くっそぉ! 先にそれを読んどくんだった!」
——それを読むために唱えたんだろうが……。
「っつうか、どうすんだよトイレ……」
「トイレは禁止だ」
「はぁ? 何だって?」
「ト・イ・レ・は・き・ん・し!」
「聞こえてるわ! そうじゃなくて、このままじゃ漏らすぞ、ってこと!」
「嘘つけ! 私の感覚ではあと一時間は我慢できたはずだ」
「マジかよ! この状態から一時間!? 男は膀胱が小さいから尿意に慣れてないんだよ! ……一時間? 嘘だろ??」
「別に、燐太郎の部屋だし、漏らしてもいいし……」
「正気か? 目の前で自分が漏らす姿、正視できる? 男の部屋で漏らした女って黒歴史が、一生付いて回るんだぞ!?」
「……ちょ、ちょっと待ってろ」
ユユ太郎がクローゼットから何本かタオルを取り出すと、
「帽子を脱げ」
「何すんだよ?」
「いいから!」
自分の声に命令されるというのは、何だか妙な気分だ。
あご紐を
「後ろを向け」
「な、何も見えないんだけど……」
「いいから!」
今度は、別のタオルで後ろ
「よし、こんなもんでいいだろう。オシッコ、行ってよし」
「無茶言うなよっ!」
と、その時だった。
また、ノックもなくドアの開く気配がして——。
「お兄ちゃ~ん! ユユさん来てない? お風呂の準備が出来たみたいだから呼びに行ったんだけど、部屋にいな…………」
わずかな沈黙の後、すぐ横から、鈍い打撃音と共に
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