第二話 新たなるクエスト

01.座学考査

「え~、それでは、算術の計算問題は四対一でミオ様の勝ちとします」


 ハァ……と、ジョゼフ神父が、ため息まじりに結果を伝える。

 ちなみに最後の一問は『42-19=?』だったのだが、繰り下がりのある筆算を忘れていた澪緒が自爆したため、最後まで数え終わったティコが一矢報いた形。


「では、次は文章問題です」

「そちらは、わたくしが得意なジャンルですの!」


 と、よせばいいのにフラグを立てるティコ。


「コホン。……え~、パンが九個あります。エドモン司教が二個食べました。私は三個食べました。あなたは何個食べられるでしょうか?」

「はいですの!」

「はい、ティコレット様」

「一個食べたらお腹がいっぱいですの」

「あ、それなら、ミオは二個食べられるよ!」

「か、可能かどうかというお話なら、わたくしだって三個はいけますの!」


 ジョゼフ神父が再び大きなため息をつきながら、


「……え~と、お二人とも不正解です」

「なんでですの!? 今のフードファイト、完全にわたくしの勝ちですの!」

「そういう勝負じゃないので……」

「た、たとえ答えが間違っていても、算術は過程も大事なはずですの!」

「むしろその過程が最悪だったので……もう算術は止めましょう……。次は、作文の試験にしましょう……」


 そう言って二枚目の紙に持ち変えるジョゼフ神父。


「では、『むやみに~』という言葉を使って、短文を作って下さい」

「はいですの!」

「早いですね。ではティコレット様、どうぞ」

「『レタスサラダに、ハムやミニ・・・・トマトを添えましたの』……どうですの!?」

「……美味しそうですが、ダメです」

「はい! できた!」

「はい、ミオ様……」

「『コントンとゼツボウを生む闇に・・・、抱かれて眠れ!』……どう?」

「中二っぽくて素敵ですが……ダメです……」


——こいつら、天才か?


「次は『うってかわって』を使って、短文を作って下さい」

「はいですの!」

「ティコレット様? 早押しじゃないですよ?」

「分かってますの! えっと、『打って、変わって、慌てて走って、スマ~ッシュア~ンドボレ~♬』……どうですの?」

「何ですかそれは?」

「わたくしが得意な一人テニスを歌にしてみましたの」

「もう、文章じゃないですよね? あと、テニスは一人でしないでください」

「はいはいっ! でけた!」

「……はい、ミオ様」

「『私のお兄ちゃんは、薬を打って変わってしまった』……どう?」

「お兄ちゃんというのは……そちらの方で?」

「うん、そうだよ」


——ちげぇ——よ!


 ジョゼフ神父が俺の方をチラリと流し見る。目が合うと、神父の眉が曇り、纏うオーラに不信感を示す波動が加わった。


——薬を打ったお兄ちゃんと俺は別人だって、分かってるよな?


「はぁ……。もういいです。作文試験も、お二人とも零点です」

「「ええ——っ! どうして?」ですの!?」

「どうしてもです。次は……歴史問題です」


 三枚目の紙に持ち変えるジョゼフ神父。

 まずいな……。歴史はさすがに、澪緒には分が悪いか?


「『エレイネス暦百二年、アルハイム帝国は、インペリアル・ハウンドを用いてノルマールの無敵騎馬軍をポー平原で打ち破り、小パンタシアの統一を一気に加速させた。この戦いが(__)である』……カッコの中に入る言葉を答えてください」


【ティコの答え】「大評判だったの」

【澪緒の答え】「とてもつかれたの」


「どちらもバツです。ではその戦いで、盾と槍を持たせた奴隷や農民で編成された密集隊形の歩兵部隊を、何と呼んでいましたか?」


【ティコの答え】「おい、おまえたち!」

【澪緒の答え】「ヤバいやつら」


「バツです! では次! その戦いでは、両軍の士官クラスにも多くの戦死者が出ました。手元の紙に、戦死者をできるだけ多く書いてください」


【ティコの答え】「戦死者、戦死者、戦死者、戦死者、戦死者……」

【澪緒の答え】「字が書けないので、三択でお願いします!」



「ハァ——……」


 延々と続く互角の……いや、不毛な戦いに、ジョゼフ神父の口からも大きなため息が漏れる。

 聖女というのが、ゲームと同様この世界でも蘇生術を身につけるための称号であるのなら、恐らくかなり重要な役割を担うのであろう。


 その最終候補がこの二人か……。

 もしかしてこの街は、深刻な人材不足に陥っているのだろうか?


「神父さん、もう、座学考査はええんちゃう?」


 ユトリが、ティコと澪緒を交互に指差しながら、


「これ以上やってもモチベ下がるだけやない? 二人も、神父さんも」

「う~む。しかし、このまま勝敗判定をしないままというのも……」

「判定ならできとるやん? 最初の計算問題ではミオちんが勝っとるんやから、それをそのまま判定結果に……」

「何を言っているんですの!?」


 慌てて立ち上がったのはティコだ。


「そもそも、ポイントで優劣を決めようというのが間違っていますの!」

「いたって普通やろ……」

「これは、あくまでもわたくしとユトリさんの面子めんつを賭けた勝負ですの。勝負と言うからには、きちんと白黒をつけられる方法でなければいけませんの!」

「だから、テストで白黒ついたやん」

「わたくしが言っているのはそういうことではありませんの。なんて言うかこう……サシでバチバチやるような勝負ですの!」


 わかりました、と、ジョゼフ神父が首肯する。


「座学試験の方は、どうやら問題が難しすぎたようですね」


——そうか?


「あれではどちらも基準以下なので、先に腕力勝負で判定するというのはいかがでしょう? 座学の方は、選ばれた方に底上げしてもらうということで」

「わたくしはそれで構いませんの! いえ、むしろそれを言いたかったですの!」

「ミオちんもそれでええか?」

「私は、別になんでもいいよ」


 ユトリと澪緒も同意する。

 澪緒にっとては流れでなんとなく勝負させられているだけで、真剣味も希薄なのだろう。暇潰しの余興程度にしか思っていない感情がありありと伝わってくる。


「あらあら? ずいぶんと余裕ですのね? アレ・・で、ユトリさん共々ともどもぎゃふんと言わせて差し上げますの!」


 そう言ってティコが指差した先には、いつから用意されていたのか、見覚えのある特徴的な台が置かれていた。

 卓上にはエルボーパッドにタッチパッド、そしてグリップバーのような工作物。

 あれって、まさか……、


「アームレスリング台!?」


 いつの間にあんな物が……。さすが、ゲーム世界だな。

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