第三話 商人ギルド
01.大丈夫です
あれから、三日が過ぎた。
ティコは、タスカニエの屋敷から帰ってすぐに修道院に休暇届けを提出し、翌日には商業都市コシュマールへと向かった。
プラスローから最も近い大聖堂のある街で、アングヒルからは丸二日馬車で北上した位置にある。
一方俺たちは、三日間タスカニエの屋敷にとどまり出立の準備を進めた。
長期間離れるとなれば、着替えや洗面用具、その他身の回りの
ティコやサトリも同行するし滅多なことにはならないと思うが、まだこの世界での市民権を手に入れたわけじゃない。
念のため、一人になってもタスカニエの客分であることが証明できるよう〝魔証石〟と言うものを発行してもらうことにしたのだ。
それの加工が済むまでの三日間、屋敷で気ままに過ごさせてもらっている間にやったことの一つが、
まずは澪緒。
絶対防御の加護レベルは2のまま変化なしだったが、キャラクターレベルは1→2、剣技の加護レベルも6→7と、それぞれ一ずつ上昇。
上がり幅は小さいが、キュバトス討伐での働きを考えればこんなものだろう。
ただ、少し気懸かりなのが絶対防御。
説明文を読む限りでは、絶対防御の加護レベル——つまり、レベル2以下の相手の攻撃は無効化できるはず。
なのに、大聖堂では俺のチョップを無防備に脳天に喰らっていた。
仲間からの攻撃には適用されないのか、あるいは、本気で危害を加えようとしている攻撃以外には反応しないのか……。
かなりの重要スキルだけに、今後も要検証だ。
次に、ユユ。
謎スキルの性技はレベル2のままだったが、キャラクターレベルは1→2、さらに闇魔法の加護レベルは2→5、と一気に上昇。
使用できる奇跡の種類と回数も、以下のように増えた。
【闇魔法 レベル5】
第一階層 3/3
第二階層 2/2
第三階層 1/1
新しい奇跡の一つ、
不味い料理が美味しくなったり、その逆だったり……いわゆる、味覚反転の奇跡らしい。
——好き嫌い克服には役立つかもしれないけど……第一階層だけに、あいかわらず微妙な効果だな。
もう一つの新奇跡
そして、最後は俺。
キャラクターレベルが1→2、
加護レベルは上がっているのだが、オーラの見え方など、元の世界での
まだ加護レベルが低すぎて変化を感じられる段階ではない可能性もあるが、これも引き続き注視していかなければならない。
そしてもう一つの加護〝イクイップメント〟も加護レベルが上昇。ついに、新アイテムが登場した。
【イクイップメント レベル1→2】
これは、今のイタリア語にも使われている比較的メジャーな単語だから俺にも分かる。……そう、トイレだ!
「うわっ! こりゃまた、リンタロがえらいもんを出しよった!」
日本が世界に誇る最先端のウォチュレット便器が出現した瞬間、最も目を輝かせたのはユトリだ。
形状自体はこの世界にある便器とほとんど変わらないので、説明するまでもなく用途はすぐに把握できたらしい。
もちろん、洗浄ボタンを押すと洗浄液も流れ出てくる。この〝
さらに、便座の温度調節や温風まで完備。
俺たちにとっても驚きだが、ユトリの方は相当アバンギャルドな衝撃を受けたに違いない。
「さっそく、ウチがおしっこしてみるわ!」
「まっ……待てバカ! ここで脱ぐな!」
スカートをたくし上げたユトリを慌てて制止する。
「バカちゃうわ! アホって言え!」
「どっちでもいいわ!」
——こいつの羞恥心、ぶっ壊れてるだろ!?
「一旦解除して、トイレで作り直そう! 個室に便器二台くらい並ぶだろ!?」
「もうおしっこモードに切り替わってん! すぐに出さんと漏れそやねん!」
「小学生かよ!」
……つか、小学生だった。
ユトリとサトリを部屋に残し、俺と澪緒とユユの三人は急いで部屋の外へ。
直後、扉の向こうから『ふぃ~、漏らすかと思て焦ったわぁ』と、ユトリの声が聞こえてきた。
さらに、
『この〝
「それは……そのまんま、お尻を洗うんだよ」
——って、まさかあいつ、人の部屋でウンコしたわけじゃないだろうな!?
『ほうほう……ひゃうっ! なんか
「女の子?」
……ああ、ビデのことか。
ただ、名前は知っていても、使ったことはないし、何だと聞かれると説明に困る。
横を見ると、俺と目が合ったユユがそれを察したのか、扉の向こうへ向かって説明を始めた。
「え~っと、それはデリケートゾーンを洗う機能で、女子専用で、角度がちょっと違ってて……」
『ほうほう、女子専用なんか! ほんならウチも
「おい? どうした!?」
『な、なんでもあらへ……んっ、よ、リンタロ……き、気持ちええ……んんああ♡』
「お……おい? あんな声が出るほど気持ちいいもんなのか?」
再び横を見ると、キョトンフェイスで小首を傾げる澪緒。
その横で、顔を真っ赤にして
「こ、個人差はあるが……ま、まあ、あとは、使い方によるな……」
「使い方? 洗う以外に何かあんのかよ?」
「だ、だから、あれだよ……お湯をその、栗ちゃんに——」
『あんんっ、んあっ、な、なんか来よる! ああっ、もうダメや! んああ、あっ、ああああ——っ♡』
「お、おい! ユトリ! どうした! 何があった!?」
見た目はトイレだが、あくまでもあれは俺の
……と気を揉んでいると、中から『もう、大丈夫です』と、サトリの声。
急いで部屋の中に入ると、ぐったりとした様子でソファーで横になっているユトリを発見。顔が赤らんでいるし、やや呼吸も荒い。
「ゆ、ユトリ……大丈夫か? サトリ! 何があったんだ?」
「大丈夫です」
「大丈夫って……どう見てもそうは見えないだろ!
「大丈夫です」
続いて、後ろからもユユの声。
「燐太郎、少しそっとしておいてやれ……もしかすると、アレは初体験かも……」
「初体験? そう言えばさっき何か言いかけてたけど、心当たりが?」
「こ、心当たりっつぅか……とある調査によると、女子の九割が……ウォチュレットでやったことがあることだ……き、気にするな……」
「九割? じゃあ、ユユも?」
「んなわけねぇ——だろっ! 変態! エロ太郎!」
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