第56話 俺の本当の………

「それで俺ってなんで病院にいるんですか?別にどこも悪くないし。」

「…………麗華さん、どうしますか?話してみますか?」

「………………ちょっと待ってください。お母さんにも聞いてみます。」

「そうですね、そうした方がよろしいかと。」

「あの……一体どうしたんですか?」

「君の病名は、私の一存で簡単に話していいものでは無いのでね。ご家族の方に聞いているのです。許可が出れば正直に話しましょう。」

「お、俺ってそんなに悪いんですか!?」

「あ、別に命に関わるなんてことは無いですので安心してください。」

「そうなんですね………まぁ、命に関わることは無いなら良かった………のかな?」



 正直に言うとめちゃくちゃ不安なんだけど。

 麗華のあの慌てようもちょっと気になるし……でも、命に関わることはないんだよな。

 そんなことを考えている間に麗華は、電話を終え真剣な表情で俺の方へ来た。



「お兄ちゃん、お母さんとお父さんの許可が出たから正直に答えるね。」

「っんく………あ、ああ……頼む。」



 俺は、焦りのせいか口の中に溜まっていた唾を飲み込み恐る恐る麗華に病名を聞く。



「お兄ちゃんは………記憶が一部、変わってるんだよ。」

「……………………………記憶?それって記憶喪失ってことか?いや、でも、俺、アルバムのところ以外ならしっかりと記憶があるぞ。」

「ううん、記憶喪失じゃないの。記憶喪失じゃなくて………記憶の改竄。本当にあった出来事が変えられてるの。」

「…………それじゃ、今の記憶が違うって言うのか?」

「……………簡単に言えばそうだね。でも、全部じゃないの。一部だけ。正確に言うと10歳の夏頃から12歳にかけての2年間の記憶が変わってるの。」

「2年も………」



 俺は、あまりにも驚きすぎて呆気にとられてしまった。

 ……………もしかして、この頃よく見るあの夢、あの夢も俺の帰られた過去っていうのか?



「ここからは私が話すね。」



 俺が言葉を失っていると医者の方から話しかけてくれた。



「記憶の改竄ってのはそう簡単に起こるものじゃない。陽一君は、記憶を改竄しないといけないほどのショックを受けたんだろうね。それに……記憶の改竄は命に関わることはないにしろ、今ある記憶と本物の記憶が食い違い脳にすごい負担になるんだ。」

「だから、今回倒れてしまったんですか?」

「たぶんそうだろうね。」



 記憶を改竄しないといけないほどのショックな出来事ってなんだろうか。



「あの………その記憶って元に戻るんですか?」

「戻るとは思うよ。陽一君、記憶が戻る前兆みたいなものはなかった?」

「前兆ですか?」

「ああ、自分の知らない夢を見るみたいなこと。」

「ああ、それならありました。何度も夢で見たことがあります。」

「たぶんそれが本物の記憶なのだろうね。」



 あれが本物の記憶……

 なら、俺の事をお兄ちゃんと呼んでいたのは…………誰だ?



「っ!……くっ……うぅ……」

「お兄ちゃん!大丈夫!?」

「あ、ああ、ちょっと頭痛がするだけだ。」

「君の記憶が時をかけて思い出そうとしているんだよ。今さっきも言った通りその頭痛は、今の記憶と本物の記憶の食い違いから来るものだよ。」

「………な、なら、俺は、本当の記憶を思い出すことが出来るんですね?」

「うん、たぶんそうだろうね。」

「お兄ちゃん、あまり無茶しちゃダメだよ?」



 麗華がすごい不安そうに俺の方を見てそう注意する。



「ああ、分かってるよ。」

「………どうする?記憶が戻るまでここで入院しておくってのもいいと思うよ。何かあった時にすぐに対処できるからね。」

「……………いいえ、退院できるならすぐにしたいです。こうしていても退屈ですし。」

「そうかい?なら、手続きをして明日の昼にでも退院できるようにしておくよ。」

「ありがとうございます。」

「お兄ちゃん、大丈夫なの?」

「ああ、ちょっと頭痛がするだけでそれ以外は何も問題ないよ。それに、なんか外に出た方が記憶が戻るきっかけになると思うし。」

「………そう……だね………」



 麗華がなんだかすごい辛そうな表情をしている。



「なんで、そんなに辛そうな表情をしてるんだよ?」

「………だって…」

「陽一君、記憶がもどるってことは記憶を改竄しないといけないほどのショックのことも思い出すってことなんだよ。たぶん、麗華さんはその事が気になってるんだと思うよ。」

「そうなのか?」

「………う、うん………」



 俺は、そんなことで心配している麗華の頭に手を置きニコッと笑って話す。



「………大丈夫だよ。もう時間も経ってるしどんなに辛いことがあっても受け止められると思う。それに俺一人で無理なら麗華やみんながいるだろ?だから、もしもの時は助けてくれないか?」

「う、うん!絶対に助ける!………だからお兄ちゃん、記憶が戻ったとしても見捨てないでね?」

「は?見捨てる?俺がお前を?そんなことするわけないだろ。」

「絶対だよ?絶対だからね!」

「お、おお、分かってるって。」



 麗華は、懇願するように俺に頼んできた。

 俺が麗華を見捨てるわけないのに。



「…………でも、なんか今日で俺の人生がすごい傾いたな。」



 いや、前の許嫁騒動でもすごい傾いたけど……この頃は落ち着いてきているからいいけど。



「それじゃ、私は陽一君の退院の手続きをするからここで戻るね。」

「ありがとうございました。」

「ありがとうございました。」



 俺と麗華は、病室を出ていく医者と看護婦にお礼を言って見送る。



「………麗華………俺、腹減った。」



 さっきからずっと腹が減っていたのだが何だかそんなことを言う雰囲気でもなかったのでずっと我慢していた。



「そ、そう言えばそんなこと言ってたね。待ってて、売店で何か買ってくるから。」

「ああ、悪いな。」



 麗華も病室を出て行き俺一人になってしまった。



「記憶の改竄………か。……………もしかしてあの夏祭りの幼女の事とも関係してるのかな…………」

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