第51話 それは祭りのあとの話で

「お兄ちゃん、今日は本当にありがと!」

「良かったな、お父さんとお母さんが見つかって。」

「うん!お兄ちゃんのおかげだよ!」



 なんだ、これ?このふわふわとした感覚……また夢の中か。

 あれは………あの幼女と祭りを回って両親を見つけたあとのことか。



「君が???を見つけてくれたのか。ありがとう。」

「本当にありがとう!あなたのお名前聞いてもいいかしら?なにかお礼がしたいから。」

「べ、別にいいですよ。この子の両親が見つかっただけで良かったので。」

「いや、君は恩人なんだ。お礼はしないとこちらの親としての示しが付かなくてね。」

「で、ですが………分かりました。俺の名前は、陽一って言います。」

「陽一君ね?ありがとう、お名前教えてくれて。お礼……したいんだけどなにかして欲しいこととかある?」

「………す、すいません、急なのであまり考えられません。」

「ん〜、まぁ、そうよね。じゃ、時間を置きましょうか。また、いつか会いに行くわね。その時には決めててね。」

「バイバイ!お兄ちゃん!」

「じゃあな。」



 俺は、幼女とその親に手を振って去って行くのを見送った。

 そして、ポツンと一人で立っていた時、後ろの方から昔の友達がやって来て迷っていた俺を助けてくれた。

 俺は、ホッと胸をなでおろし家へと帰って行ったのだった。

 そして、それから数日後。

 夏休みの宿題を終わらせてゆっくりとしていると家のインターフォンが鳴った。



「今、母さんも父さんもいませんよ〜。……って、お前!あの時の!?」

「久しぶり!お兄ちゃん!」



 家の扉を開けるとあの時の祭りの幼女が可愛らしい服装の姿でやって来た。

 そして、その後ろにまだ人がいることに気づいた。



「やぁ、久しぶり。陽一君。」

「久しぶり、陽一君。約束、果たしに来たんだけど……お母さんとお父さん、居ないの?」

「あ、は、はい。すいません……と、とりあえず上がりますか?」

「そうさせて貰えるかな?」

「はい、どうぞ。」



 俺は、三人を家へと上げた。そして、リビングへと通してお茶を出す。



「わざわざありがとね、陽一君。こちらがお礼しに来たのに逆にもてなされちゃって。」

「いいんですよ、お客さんなんですから。」

「しっかりしてるな、陽一君。」

「ははっ、どうも……そ、それよりもよくここが俺の家って分かりましたね。」

「まぁ、色々と調べたからな。結構近くだったしそんなに大変だったわけじゃないよ。」

「そ、そうですか……」

「お母さんかお父さん、いつくらいに帰ってくるか分かるかな?」

「え〜っと、母さんは、ただ買い物に行っただけだからすぐに帰ってくると思いますよ。」

「お父さんの方は?」

「と、父さんは、今、出張に行ってますから……後、数ヶ月後って聞きました。」

「そうなんだ、お父さんがいないなんて寂しくない?」

「い、いえ、大丈夫です。母さんがいますから。」

「そうなんだ……じゃあ、今はお母さんと二人っきりで暮らしているの?」

「|はい(・・)。」



 ………え?母さんと二人っきり?どういうことだ?麗華は?え?ゆ、夢だから一人っ子っていう設定になっているのか?

 それにいまさっきから思ってたけど……家が違う。夢だからなのか?いや、違う。俺、この家をどこかで見たことがある。

 っ!?

 いきなり俺の頭に激痛が走った。

 そして、今まで見ていた夢が白くなって消えていく。



「……ん……ゃん……ちゃん……にいちゃん……」



 俺が激痛で苦しんでいると聞き覚えるある声が耳に入ってくる。



「お兄ちゃん!」

「っ!」



 俺は、誰かの呼び掛けにより目を開ける。するとそこには見覚えのある天井と不安そうに俺の顔を覗き込んでいる麗華がいた。



「はぁはぁ………れ、麗華?どうしたんだ?」

「どうしたんだ、じゃないよ。お兄ちゃん。起こしに来たらすごい苦しそうにしてたんだよ?大丈夫?もしかして、風邪?」

「いや、だいじょ……っ!」



 俺は、麗華に心配をかけないように起き上がろうとしたらまだ、今さっきの痛みが残っていて起き上がれなかった。



「ほ、ほらっ!お兄ちゃん、具合が悪いんでしょ!?まだ、夏休みなんだし寝た方がいいよ!」

「あ、ああ、そうさせてもらう。」

「お粥でも作ってこようか?」

「いや、大丈夫だ。寝てればすぐ良くなると思うし。」

「そう?もし、なにか用があったらスマホでラインしてね。私も今日は家にずっと居るから。」

「わ、悪いな。」



 俺がそう言うと麗華は、少し心配そうな顔をして部屋を出て行った。

 俺は、再び目を閉じて寝ようとするが頭痛が残って眠れない。



「はぁ、さっきの夢、なんだったんだろうな。」



 俺は、ずっと心のどこかでモヤモヤが残ったまま頭痛が引くのをベットで横になって待っていた。

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