第52話 妹と二人で出掛けて

「………全然眠れなかった……」



 俺は、あれから結局モヤモヤが取れず目を閉じても全く眠れなかった。

 だが、頭痛はもう無くなったので動けるようにはなった。



「お兄ちゃん、大丈夫?まだ少し、顔色が悪いよ?」

「は、ははっ、大丈夫、大丈夫。もうだいぶ良くなったからな。」

「確かに朝よりは良くなったけど……やっぱりまだ寝てた方がいいんじゃない?」

「い、いや、本当に大丈夫だ。逆に寝すぎても良くないしな。」



 というか一睡も出来ないからベットで横になっていても仕方ないしな。

 麗華は、具合の悪そうな俺を心配して夕食作りに全く集中出来ていなかった。



「お、おい!麗華!魚!焦げてるぞ!?」

「え?あっ!わっ!た、大変!」



 麗華は、慌てて焦げた魚を処理していた。



「………これじゃ、料理できないだろ?外食に行くか。母さんもいないし。」

「だ、ダメだよ!お金がもったいないしそれにお兄ちゃん、まだ具合が悪いんだから!」

「ははっ、大丈夫だって。お金は、一応母さんから少し貰ってるから大丈夫だよ。」

「で、でもぉ〜……」

「ほら、準備しろって。その服で行くのか?」

「も、もうっ!」



 俺は、麗華を急かして出かける支度をさせる。



「さて、戸締りもちゃんとしたし出掛けるか。」

「ほ、本当にお兄ちゃん、大丈夫?無理しちゃダメだよ?」

「大丈夫だって。ほら、ドア閉めるぞ。」

「ま、待って!」



 俺は、麗華が家から出てきたのを確認しドアを閉めて鍵をして麗華と一緒に出掛けた。



「こうやって二人で出掛けるのは久しぶりだな。」

「そ、そうだね……本当に久しぶり。」

「でも、偶にはこうやって兄妹水入らずで外食ってのも悪くないよな。」

「う、うん!」



 麗華は、とても可愛らしい笑顔で頷いた。うん、やっぱり麗華って可愛いよな。



「それで何食べる?」

「う〜ん……私は、なんでもいいよ。お兄ちゃんの食べたいところに行こっ!」

「そう言われてもなぁ〜。」



 値が高いところに行くと絶対に麗華が遠慮して全く食べなくなるからな。安くて美味しい店………



「やっぱりあそこかな。」



 俺は、行き先を決めて麗華をその店まで案内した。



「お兄ちゃん、ここって喫茶店?」

「ああ、よく学校の帰りに優奈たちと一緒にここでお茶とかするんだ。」

「へぇ………羨ましいな……」

「羨ましい?何が?」

「そんなのお兄ちゃんと………って、ち、ちがっ!そ、そうっ!中学じゃそういう寄り道とかダメだから!だから、寄り道とかできて羨ましいなって!」

「あ〜、なるほどな。まぁ、確かに俺も中学の頃はいいなって思ってたな。まっ、高校に行けばなんだかそれが当たり前になっちゃったんだけどな。」

「あんまり寄り道ばっかりしてお金、無駄遣いしないようにね。」

「ああ、分かってるよ。とりあえず店に入ろうぜ。入り口で騒いでたら店にも迷惑がかかるからな。」

「そうだね。」



 俺と麗華は、喫茶店に入る。

 するとお客が入ってきたことが分かるようにドアに設置されていた鈴が俺がドアを開けたことによりチャリンチャリンという音を鳴らした。そして、その音に気づいた店員が俺たちの方へやってくる。



「あら、陽一君。いらっしゃい。久しぶりね。」

「あっ、晴美さん。お久しぶりです。」

「夏休みになって全く来なくなったからね。っていけない、いけない。店の入り口で喋ってたら店長に怒られるわ。お客様は……お二人ですか?」

「あ、は、はい。」

「妹さんなのかな?それじゃ、案内するね。」



 俺たちは、晴美さんに案内された席につきメニューを見る。



「お兄ちゃん、あの綺麗なお姉さんは誰ですか?」



 麗華は、俺が見ていたメニューを取り上げて俺にそう尋ねてきた。



「晴美さんのこと?晴美さんは、ここでアルバイトしてる人で結構お世話になってるんだ。」

「そうなんだ……ふ〜ん……」

「ん?どうした?」

「なんでもない。でも、あのお姉さん、よく私が妹だって分かったよね。」

「そりゃ、傍から見たらそう見えるんじゃないか?」

「…………恋人と見られたっておかしくないのに………」

「ん?なんて言った?」

「なんでもない!」



 麗華がそう言った瞬間、晴美さんが水を運んできた。



「ふふっ、仲がいいのね?」

「ええ、まぁ。」

「あなた、陽一君の妹の麗華ちゃんよね?よろしくね。」

「あ、は、はい。よろしくお願いします。って私の名前、知ってるんですか?」

「ええ、陽一君、結構あなたの話をみんなにしてるのよ。」

「ほ、本当ですか!?………お兄ちゃんが私のことを……えへへ、そっか。」



 何だか今さっきまで不機嫌そうな顔だったけど晴美さんの話を聞いて急に顔が緩んだ。



「おっと、あんまりお喋りしてちゃダメだよね。それじゃ、お客様、ご注文はお決まりですか?」



 晴美さんは、姿勢を正して俺たちに注文の品を聞く。俺は、オススメのハンバーグ定食を注文し、麗華は、スパゲッティを注文した。

 晴美さんは、注文の品を確認すると一礼して厨房へと戻って行った。



「お兄ちゃん、私のこと、よく話すんだ。」

「まぁ、色々と麗華には世話になってるからな。自慢の一つや二つくらいするって。」

「そ、そっか。」



 麗華は、少し嬉しそうにモジモジとしていた。

 俺は、そんな麗華を見つつ料理が来るのを待っていた。

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