第138話 初めての料理

 陽一side



 ゆっくりと体を起こす。

 頭がズキズキと痛む。

 今は一体何時なんだろう。

 外も部屋の中も真っ暗だ。

 まだ目覚めたばかりだからか視界がぼやける。

 とりあえず電気をつけよう。



「ん………」

「ん?」



 体を動かそうとした瞬間、手に何か当たり誰かの声がした。



「んん………」



 反対側からも声が聞こえた。1人だけではないらしい。

 とりあえず電気をつけて誰かを確認しよう。

 俺は、すぐ隣にいる誰かを起こさないようにゆっくりと動き電気をつけるため、ボタンを探す。

 大抵ボタンはドアのすぐ近くにあるのでさほど時間が掛からず電気をつけることが出来た。

 電気をつけてから誰がベットにいたのか確認する。



「……まぁ、想像通りだな。」



 ベットには優奈と美優が寝ていた。

 2人とも結構熟睡しているのか電気がついても起きる気配がない。

 もう少し寝かしておくか。

 そういえば今何時だろ?

 俺は、ポケットに入れていたスマホを探す。

 だが、ポケットにはスマホは入っていない。



「あれ?」



 確かポケットに入っていたはずなんだけど……あ、あった。

 俺のスマホは、ベット近くのテーブルに置かれてあった。

 恐らく邪魔になるだろうと誰かが取っておいてくれたんだろう。

 俺は、スマホを取り時間を確認する。

 時刻は夜の8時を回っていた。

 あれから結構時間経ったな。

 って、こんなことしてる場合じゃなかった。早くお義母さんとお義父さんに無事ってことを教えなきゃ。

 俺は、そう思い電気を消してから静かに部屋を出た。



「あら、起きたのね。」



 そう声をかけられたのは部屋を出てすぐのこと。

 音を出さないようにゆっくりと扉を閉めていたので急に声をかけられビクッとしてしまった。



「何を驚いているのよ。」

「驚かなさいでくれよ、静香。」

「別に驚かしてなんかいないわよ。」



 俺は、相手が静香だということに気づき平常心になることが出来た。



「それよりもなんでコソコソしながら部屋を出てくるのよ。」

「部屋の中に優奈と美優が寝てるからな。起こさないようにしてたんだよ。」

「はぁ?あの2人、あんたが起きるまでずっとそばにいるって言ってたんだけど?」

「い、いや、そんなこと俺に言われても……2人……いや、お義父さんにお義母さん、それに静香にも迷惑を掛けたな。」

「ふん、全くよ。」



 静香は、可愛らしくそっぽを向いてそう言った。まぁ、でも、態度から本気で怒ってるようではなかった。

 と、そこで俺はずっと気になっていたことについて尋ねてみた。



「それ、持ってきてくれたのか?」



 静香は、お盆に乗ったお粥を持ってきてくれていたのだ。



「ええ、お腹が空いた時に簡単に入るものがいいと思ってね。あの2人が眠ってるんならリビングで食べて。まぁ、お腹空いてないんなら食べなくてもいいけど。」

「いや、ありがたくいただくよ。」

「そう。」



 静香のその返事はなぜか嬉しそうだった。

 それから俺は静香と一緒にリビングへ行きお粥を食べ始めた。



「………どう?」

「ん?何が?」

「………何でもない。」



 俺は、何について聞かれたんだろうと考えたが本人が何も言わない限りその答えは出ないので考えることをやめた。

 それから5分程経った後、お義父さんとお義母さんがリビングにやって来た。



「陽一くん、目を覚ましたんだね。」

「ちゃんと食欲もあるみたいだしもう大丈夫そうね。」



 2人は、お粥を食べている俺を見てホッしていた。



「心配かけて本当にすいませんでした。」



 俺は、一旦食べるのをやめて立ち上がり2人に向けてそう謝罪した。



「まぁ、大事に至らなかっただけで良かったよ。」

「そうね。でも、当分過去のことを探るのはやめておいたほうがいいわ。」



 お義母さんがそう言うとお義父さん、それに静香まで頷いた。



「………はい、分かりました。」



 正直、それがいい判断なのかどうかは分からない。いや、たぶん今日倒れてしまったのだからいい判断なんだろう。

 でも、美優の気持ちを知らない現状がいいものなのか、俺には判断が出来ない。



「………それよりも食欲もあるみたいだし、もう大丈夫そうね。」



 お義母さんは、俺の考えていることを理解したのか話題を変えた。



「は、はい、このおかゆ、ものすごく美味しいです。」

「あら?本当?良かったわね、静香ちゃん。」

「え?」

「〜っ」



 静香の方に視線を送ると静香は、顔をリンゴみたいに真っ赤にして下を向いていた。



「静香ちゃん、自分で作ったって伝えてなかったの?」

「…………はい。」

「え?これ、本当に静香が作ったのか?」

「…………」

「本当よ〜。静香ちゃん、優奈ちゃんと美優が2人で陽一くんを見てるからもし起きた時ように食事を作っておきたいって私に言ってきたのよ。それと料理したことないから教えて欲しいともお願いされたわ。」

「そ、そうなのか!?静香にとってこれが初めての料理なのか?」



 俺がそう問いかけると静香の顔はさらに赤みが増した。



「〜っ!そ、そうよ!悪い!?病み上がりに私の初料理を食べさせて悪かったわね!」



 静香は、勢いよく顔を上げて涙目で怒鳴ってきた。



「別に食べたくないんなら食べなく……」

「美味しいよ、静香。」

「ふにゃっ!?」

「ちゃんと静香に伝えてなかっただろ?味の感想。」

「………そ、それはそうだけど……」

「でも、なんか悪いな。初めて作った料理を食べさせる相手が俺なんだからな。」

「…………べ、別に悪くなんてないわよ。」

「ははっ、そうか。それならありがたく食べさせてもらうよ。」

「ふんっ。…………えへへ」



 静香は、俺から顔を背けると肩を震わせていた。

 余計なこと言いすぎて怒らせちゃったかな?

 これ以上、口を出すと静香をさらに怒らせる可能性があるので俺は残りのおかゆを味わる。もちろん、ご飯1粒残さず完食をした。

 お義父さんとお義母さんは、特に口を出さずに楽しそうに俺たちを見守っていた。

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