第137話 蚊帳の外の私
「………お兄ちゃんはどうしたんですか?」
「………倒れた。」
美優ちゃんのお父さんがそう言った瞬間、私はすぐにはその言葉の意味が理解出来なかった。
でも、この場で1人だけすぐに行動に出た人物がいた。
「っ!陽一!」
静香ちゃんだ。
静香ちゃんは、すぐに部屋から飛び出しどこかへ走ってしまった。
「静香さん、待ってください!」
その後ろを美優も追いかけた。
私も2人の行動を見てようやく我に返った。
でも、この屋敷のことをまだよく知らない私は、まずは美優ちゃんのお父さんに何があったのか聞いてみた。
「あ、あの、陽一くんに何かあったんですか?」
「………あるものを見てたら気分が悪くなったらしく倒れてしまったんだ。………それより君は……水城優奈さん……かな?」
「は、はい。どうして私を?」
「美優の運動会の時、見かけたことがあるからね。それに陽一くんとお付き合いをしているんだよね?」
「っ!………はい。」
「………うん、陽一くんが言ってた通り、とても優しそうな人だね。」
陽一くん、私たちのことを伝えてくれてたんだ。
だとしたらきっと私は……
「別に恨んでなんかないからね。」
「え?」
「美優の許嫁だったのにそれを奪ったんだから恨まれても仕方ないっていう顔をしてたからね。違ったかな?」
「………いえ、その通りです。………でも、どうして……」
「陽一くんにも言ったんだけどね、私たちは陽一くんの幸せも大事なんだ。まだ陽一くんと再会できて1年も満たないけど私たちにとって陽一くんはとても大切な人になったんだ。もちろん、美優と結ばれて幸せになってくれたら一番嬉しいけど陽一くんにとって一番の幸せは君のいることらしいからね。大切な人が幸せになってくれてるんだから恨んだりなんか絶対にしないよ。」
その言葉はとても素敵で、美優ちゃんのお父さんがどれだけ優しい人なのかを表してくれている。
でも、一つだけ気になるところがあった。
「あの、一つだけいいですか?」
「ん?なにかな?」
「陽一くんと再会したって言ってましたけど……前に会ったことがあるんですか?」
「っ!………私としたことが……」
「会ってたんですよね?なら、陽一くんが倒れたのにはそれを原因があるんですか?」
「…………申し訳ないがこのことは私の口からは言えない。陽一くんに聞いて欲しい。」
美優ちゃんのお父さんは、真剣そうな表情でそう言ったあと、私に向かって頭を下げてきた。
それほど深刻な問題なんだろうか。
様子を見るに何かあったのは分かる。
でも、それを美優ちゃんのお父さんは教えてくれない。
「………分かりました。あの、申し訳ございませんが陽一くんがいる場所に案内してもらえないでしょうか?」
「全然大丈夫だよ。それじゃ、ついてきてね。」
私は、今聞きたいことは全て聞けたので陽一くんの元へ向かう。
美優ちゃんのお父さんが連れて来てくれた部屋にはベットに陽一くんが寝ていてそのそばに美優ちゃん、静香ちゃん、もう1人綺麗な女性がついていた。恐らく綺麗な女性は美優ちゃんのお母さんだろう。
私は、その3人のように陽一くんのそばにつく。
「……陽一くん……」
陽一くんが眠っている姿は、私には苦しそうに見えた。苦しそうで辛そうで……何かから逃げるように……
私は、布団から出ている陽一くんの手をそっと掴み自分の胸のところまで持ってきた。
早く元気になって。そう思いながらギュッと握り続ける。
私を見て反対側にいる美優ちゃんと静香ちゃんは2人で私が握っている反対側の手をそっと握った。
すると、陽一くんがうなされ始めた。
「う……うぅ………」
「陽一くん………」
「陽一………」
「お兄ちゃん………」
私たちは、陽一くんの辛そうな声を聞き少しだけ陽一くんの手を握る力を強めた。
「………み……ゆう………」
「っ!」
「………お兄ちゃん……」
「…………」
陽一くんの口から出た言葉は美優ちゃんの名前だった。
その事に私は心臓を剣で刺されたような痛みが走った。美優ちゃんは美優ちゃんで少し悲しそうな表情だった。静香ちゃんは、そっと目を閉じている。
「………く………そ……」
陽一くんは、なにか悔しそうに顔を歪めている。
それと同時に美優ちゃん、そして、美優ちゃんのお父さんとお母さんも辛そうな顔をした。
「………お兄ちゃん、私はあの時のことはもういいんです。本当に……大丈夫ですから。」
美優ちゃんの様子は陽一くんと楽しく話していた先程までとは全く違ってとても辛そうに眠っている陽一くんに対して話していた。
本当に何があったのだろうか。
静香ちゃんも何か知ってそうな雰囲気があるので私だけが蚊帳の外にいる。
正直陽一くんのことは私が一番よく知っていると思っていたから私だけが知らないことがあるということが辛かった。
「陽一くん……私は、何があったって受け止めてあげるからね。」
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