第136話 今日で終わるかな?

「ここがアルバムを置いてある部屋だよ。」



 俺は、お義父さんからそう言われた部屋を見回し唖然とした。

 10畳程の広さの部屋に本棚がありぎっしりと詰まっている。



「………これ、全部アルバムですか?」

「ええ、そうよ。美優が生まれた瞬間から今の思い出まで全てここにあるのよ。」



 一体何百冊あるのだろうか?

 この中から美優が俺の事をあんなに好きになってくれたきっかけの思い出を見つけ出すのか?それも俺自身の記憶が全くない状態で。

 ………これ、今日で終わるかな?



「それじゃ、とりあえず俺と美優が出会った時から見てみます。」



 確か俺と美優が出会ったのは7年ほど前だったので………あった。

 本棚に並べてあるアルバムには美優の年齢が書かれてあるので結構楽に見つかる。

 3歳と書かれたアルバムは………ざっと見ても50冊はある。

 俺は、10冊ほど手に取りテーブルに置き椅子に座ってアルバムを開く。

 すると、お義父さんとお義母さんも見たいと言って俺に近づきひょこっと顔を出してきた。俺は、2人にも見えるように手に持っていたアルバムをテーブル上に開いた状態で置いた。

 そして、ようやくアルバムの1ページ目を見る。

 そこには幼い頃の美優が誕生日ケーキを持って嬉しそうに笑っている姿があった。

 その瞬間、視界がぼやけ激しい頭痛が襲ってきた。



「っ!?」



 俺は、咄嗟に頭を手で抑えて空いている片方の手をテーブルに置いて倒れるのを防ごうとした。でも、今の状態の俺は上手く力が入らず椅子から落ちそうになる。



「「陽一くんっっ!!」」



 すると、お義父さんとお義母さんがすぐに体を支えてくれて何とか倒れずに済んだ。



「大丈夫かい?」



 お義父さんが優しく声を掛けてくれる。

 俺は、すぐに大丈夫だと伝えるために口を開いた。

 でも、いつになっても声が出ない。

 …………声が出せない。

 声が出ないことがわかった瞬間、全身が震えた。恐怖から来る震えだ。

 お義父さんとお義母さんが何か声をかけてくれるが恐怖でそれどころじゃない。

 次第に呼吸も荒くなっていく。目の前が暗くなり何も見てなくなってくる。

 そして、プツンと何かが切れる音がしたと同時に俺の意識が落ちていったのだった。



 優奈side



「あれ?陽一くんは?」



 私が昼食を人数分作って戻ってくると陽一くんだけいなかった。



「お兄ちゃんは、私の両親に挨拶に行っていますよ。」

「そっか。それならこれ、食べて待ってよっか。」



 私が作ってきたのは焼きそばだ。

 こんな豪華な家なので私の見た事のない食材があるのかなと思っていたけど案外普通の家庭と同じような食材ばかりだった。



「あっ、なにかアレルギーとかあったかな?何も聞かずに作っちゃったけど……」

「私は、ありません。」

「私もないわ。」

「それなら良かった。」



 私は、2人の返事を聞いてホッとしつつ焼きそばの乗ったお皿と箸をを2人の前に置く。



「どうぞ、召し上がれ。」



 私がそう言っても2人は全く焼きそばに手をつけようとしない。



「………もしかして焼きそば、苦手だった?」

「いえ、まだお兄ちゃんが来てないので。静香さんはどうして?」

「私は………まだ食欲がないのよ。」



 静香ちゃんは、美優ちゃんのように素直に陽一くんを待っているとは言わなかった。静香ちゃんから昼食にしようと言ったのだ。本当に食欲がなくなったとは思えない。

 ああ、やっぱり、美優ちゃんも静香ちゃんも陽一くんのことが本当に大好きなんだ。

 まぁ、私も陽一くんが来るまで食べるつもりは無いけど。



「………それではお兄ちゃんが来るまで少しお話をしましょうか。」

「何を話すって言うのよ?」

「当然……お兄ちゃんと私たちのこれからについてです。」



 美優ちゃんがそう言った瞬間、場の空気が変わった。



「……話す必要なんであるのかな?これからは私が陽一くんの彼女で、あなたたちは陽一くんの友達になるだけだよね?」



 陽一くんとの関係に対して私はこの場にいる誰よりも優位な立場に立っている。だからこそ、私は2人を威圧する。

 でも、2人はそんな私の威圧を何事も無いように軽く流してくる。



「今のお兄ちゃんは、あなたのことを好きでいるでしょうがずっと好きでいるなんて出来るのでしょうか?まぁ、私は出来てますけど。」

「ふふっ、それは大丈夫だよ。私だって幼稚園の頃からずっと陽一くんのことが好きだったんだから。」



 私と美優ちゃんは、じっと睨み合う。

 高校生の私が小学生と張り合うのは間違っているのかもしれない。でも、油断したら本当に陽一くんを取られるって思ってしまう。

 だから、歳下だとしても陽一くんを狙う人には絶対に負けない。

 と、その時だった。

 トントンと扉をノックする音が聞こえた。

 そして、扉を開けて入ってきたのは私のお父さんよりも少し若い男性だった。



「失礼するよ。」

「ん?お父さん、どうかしたんですか?」



 美優ちゃんの言葉からこの男性は美優ちゃんのお父さんなんだろう。



「………お兄ちゃんはどうしたんですか?」



 美優ちゃんの様子が少し変わった。何か焦る様なそんな様子だった。



「………倒れた。」

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