第39話 そんな予感はしてました

 花火大会当日の朝。

 俺は、この日を楽しみにしていて夜あまり眠れなかったという子どもっぷり。

 まぁ、楽しみなのだから仕方ないことだ。

 一週間ぶりにみんなにも会えるしな。

 今日は、確か、夕方の5時に駅前で待ち合わせだったよな。

 まっ、それまでまだまだ時間もあるしゆっくりとしてますかな。

 と、そう思い二度寝をしようと思った瞬間、リビングから母さんの声が聞こえた。



「陽一〜!ちょっと来なさ〜い!」



 うぅ〜、辛い。起き上がるの辛いよ〜。

 でも、無視したら後がうるさいからな。

 俺は、動かしたくもない体を起き上がらせリビングへと向かった。



「何〜、今から二度寝するつもりだったんだけど……」

「二度寝は体に悪いからやめときなさい。それよりも和博さんから電話が来てるわよ。」

「えっ!?か、和博さんから!?」



 こ、これは……絶対に面倒なことになりそうだ。

 なるべくなら断りたいが………旅行の件もあるしあんまり断れない。

 俺は、ため息を吐きつつ電話に出る。



「はい、もしもし、陽一ですけど?」

「おはよう、陽一君。こんな朝早くからごめんね。」

「いえいえ、別に構いませんよ。」

「そう?ありがとう。それで要件なんだけど今日、花火大会があるでしょ?」

「はい、そうですね。」

「陽一君、それに行く?」

「ええ、友人たちと約束してますので。」

「それなら静香も一緒に連れて行ってあげてはくれないだろうか?僕たちの仕事のせいであの子にはまだ1度も花火を見せたことがないんだ。」

「1度も……ですか……」

「うん……1度も……どうだろうか?」

「はぁ〜、まぁ、今日、連絡があるってことはそういう事なんだって思ってましたよ。友人と一緒で良ければ一緒に連れて行きますよ。」

「本当かい!?ありがとう!」

「いえいえ、こちらも旅行の件でお世話になってますからね。それじゃ、いつ迎えに行ってあげた方がいいですか?友人との待ち合わせは駅前で5時なのでそれで間に合うようにして欲しいのですが……」

「5時か……なら、4時半頃に陽一君の家に静香を送り届けるよ。それでいいかな?」

「はい、もちろん構いません。……あ、それと静香に俺と行くってこと話してるんですか?静香、俺と行くってなると嫌がるんじゃ……」

「ああ、その件なら心配いらないよ。もう、OKは貰ってるからね。」

「え?貰ってるんですか?」

「うん、だからよろしくね?」

「………分かりました。それじゃ、俺はこれで。」



 俺は、そう言って電話を切った。

 あの静香が俺と花火大会に行くことをOKするとか……なんかの間違いじゃないのか?

 まっ、でも、前よりはだいぶ仲良くなったからありえることなのかな?

 そういうことにしておこう。



「和博さん、なんだって?」

「今日の花火大会、一緒に連れて行ってあげて欲しいって。」

「へぇ、そうなの。それであんたはそれをOKしたの?」

「まぁね。旅行の件もあるし。」

「ふぅ〜ん。ちゃんと静香ちゃんのこと見てあげるのよ。」

「分かってるって。」

「あんた、友だちと話で盛り上がって静香ちゃんのことほおったらかしにしそうね。10歳の女の子を連れて歩くんだからはぐれないようにね!」

「ああ、分かってる。それじゃ、俺は部屋に戻って二度寝してくるわ。」

「二度寝は体に悪いからやめときなさい……って、聞きやしないわね。」



 俺は、部屋に戻りベットで横になる。

 あっ、そういえばみんなに静香のことどう説明しようか?

 まさか許嫁ですってバカ正直に言ったって信じてくれるわけないよな。ってかまず許嫁じゃないしな。

 まぁ、妥当なところは親戚の子かな。

 静香と合流した後、みんなと会う前に口合わせしとかないとな。

 うん、それでいいや。

 はぁ〜、今になってようやく眠くなってきたな。まぁ、時間まで余裕あるしいいかな。

 俺は、目を閉じ眠る。



「……………………」

「………さい……なさい……」

「…………ん………」

「早く起きなさい!」

「ん〜……静香〜?…………っ!?静香!?な、なんでここに!?」



 俺は、目を覚ますと静香がベットの横で俺の体を揺すりながら起こしていた。



「ったく、何寝ぼけてるのよ。」

「………ああっ!そうだった!今、何時!?」

「まだ4時よ。」

「4時?あれ?静香が来るのって4時半じゃなかったっけ?」

「そ、それは……お父様のお仕事が急に早くなっちゃったから仕方ないでしょ?悪かった、早く来て?」

「いいや、別に。そういえば家には母さんが入れてくれたのか?」

「ええ、そうよ。」

「なら、その時に起こしてくれたらよかったのに。」

「だから、私がこうやってわざわざ起こしてあげてるんでしょ?ありがたいと思いなさい。」

「ははっ、ありがとう。………それよりも浴衣なんだな。」

「わ、悪い!?」

「いいや、別に。すごい似合ってるって思ってな。」

「っ!そ、そう?まぁ、当然ね。」



 静香の浴衣の色は黒色でそしてその柄は、色と対照的に白色の花だ。

 静香っぽい浴衣ですごい似合ってる。



「じゃあ、俺も着替えるからリビングで待っててくれるか?」

「分かったわ。」



 静香は、そう言ってトコトコと可愛らしい足音を立てて部屋を出ていった。

 あの様子からしてあまり浴衣には慣れていないらしい。

 そういえば俺と最初に出会った時は和服姿だったよな。あの時も慣れていないのに頑張って着てくれたのだろうか?

 まぁ、俺は、それと対照的にいつも通りの私服だったんだけどな。

 俺は、そんなことを考えながら着替えを済ませる。

 そして、静香の待っているリビングへと向かう。



「悪いな、待たせてしまって。」

「別にいいわよ。」

「ねぇ、陽一、やっぱり静香ちゃんは、可愛いわよねぇ〜。」

「あ、ありがとうございます、おば様。」



 静香は、母さんのその言葉に少し頬を引きつらせながらお礼を言う。

 母さんとはあまり話慣れてないから少しぎこちないように見えるな。



「静香、少し時間には早いがもう出るか。」

「え、ええ、そうね。それでは、おば様、失礼します。」

「ふふっ、可愛くてこんなに礼儀正しいなんて優秀ね〜。気をつけるのよ〜。」



 俺と静香は、母さんに見送られながら駅前へと向かった。

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