第38話 愚痴を聞くだけなら
「それでなぁ、聞いてくれよぉ〜、陽一君〜。」
「はい、聞いてますよ。」
「お、お父さん!もう、恥ずかしいからやめてよ!」
「いいじゃないか、久しぶりに陽一君に会えたんだから!少しの愚痴ぐらい聞いてもらったって。」
「陽一君をそんなふうに使っちゃダメだよ!」
「ま、まぁまぁ、人志さんも色々あるんだから少しの愚痴を聞くぐらい構わないよ。」
「よ、陽一君……」
「おお!さすが陽一君!分かってるねぇ!」
今、その愚痴をこぼしているのは優奈のお父さん|水城 人志(みずしろ ひとし)さんだ。
優奈の家族とは昔からの付き合いなのでよくこうやって遊びに来ては人志さんとも話していた。
まぁ、話していたと言っても今日みたいに愚痴を聞くことが多いのだが。
「はい、お父さん。おつまみ出来たよ!」
「なんだ、優奈。もう少しそっと置きなさい。陽一君にガサツな女の子と思われてしまうよ。」
「そ、そんなことは思いませんよ……」
「優しいね〜、陽一君は。良かったね、優奈。そんなことは思わないってよ。」
「そうよぉ〜、陽一君にはちゃんと感謝しないとね。」
「もうっ!お父さんもお母さんもうるさい!」
とうとう優奈も頭にきたのか大きな声で怒鳴っていた。でも、それはいつもの事なのか人志さんと七海さんは、上手くそれを誤魔化した。
「はぁ〜……ごめんね、陽一君。うるさくて。あ、ご飯のお代わりいる?」
「いやいや、別に気にしてないよ。家じゃご飯の時は静かだからこういうのも結構楽しいし。あ、それとご飯のお代わりはもらいたい。」
「うん、待っててね。」
優奈は、俺のお茶碗を受け取りご飯をよそってくれる。そして、ちょうどいいくらいの量をよそってくれた後、俺に渡して自分の料理を食べていく。
「なぁ、陽一君、優奈のご飯の味はどうかな?」
「ご飯の味ですか?すごく美味しいですけど?」
「それは良かった!やっぱり味に合わなかったら嫌だもんな。」
「優奈のご飯は、昔からよく貰ったりしてるので口に合わないってことは無いですよ。どれも美味しいです。」
「ほお、なんだ。もう味の好みを把握していたってことか。」
「も、もうっ!お父さん、それ以上なんか変なこと言ったら今日はもうお酒なしだからね!」
「なっ!?酷いことを言わないでくれよ!俺の一日の楽しみを取らないでくれ!」
「なら、それ以上変なことは言わないこと。」
「くっ、仕方ない。酒のためなら……」
おいおい、優奈。お父さんには優しくしてやれよ。と、言いたかったが優奈の気迫が怖いので止めておいた。
俺は、優奈が人志さんを怒っている間ご飯をちまちまと食べていた。
すると七海さんが俺を見てニヤッとしてから話しかけてきた。
「ねぇねぇ、陽一君、今、陽一君って彼女とかいるの?」
「か、彼女ですか!?…………いませんよ。」
「何!?その間!?もしかして陽一君いるの!?」
「ゆ、優奈!?い、いないよ!」
「じゃあ、なんだったの、今さっきの間は!?」
「い、いや……なんでもねぇよ。」
彼女というフレーズに一瞬静香の顔が過ってしまったが静香とは何もないのでいないと断言する。だが、優奈はまだ食い下がらない。それどころかさらに勢いを増す。
「嘘だ!その顔は何かあるっていう顔だよ!」
「そ、そんなの優奈に分かるわけ……」
「分かるもん!10数年、ずっと一緒にいるんだよ!陽一君の嘘ついた顔くらい分かるもん!」
「あらあら、大変なことになったわねぇ。陽一君、本当に彼女いるの?」
「いないですよ!」
「ジトー……」
優奈は、完全に俺に疑いの目を向けている。
このままじゃ、本当に色々と聞かれそうだ。
「優奈!俺は、本当に彼女なんていない!どうしたら信じてくれるんだ?」
「なら、私とつき………」
「おっ?」
「おおっ!?」
優奈は、なにか言おうとしていたが途中で区切ってしまった。そして、それを面白そうに見ていた人志さんと七海さんは、さらに面白いものを見たような顔をした。
優奈、今さっきは何を言おうとしていたんだろう?
「と、とにかく!陽一君は、絶対に嘘ついてる!」
「ついてないって!そりゃ、なんか変に誤解させるような言い方をした俺も悪いけど……信じてくれよ!」
「信じられないもん!陽一君、変に意地っ張りだから嘘を突き通そうとするもん!」
俺の事をよく知っているからこそ、俺の事が信じれなくなってしまったんだな。
仕方ない、親の前で少し恥ずかしいけど……
俺は、決心して優奈の肩を持ち真剣な目で優奈の目を見つめる。
「〜っ!ど、どうしたの、急に……」
「今の俺の目をよく見てくれ。嘘をついてるような目をしているのか?優奈には俺が嘘をついてるっていう目に見えるのか?」
「そ……それは………」
「俺が嘘をついているときのことがわかるんだろ?なら、今は嘘をついてるのか?」
「〜っ!……ついてない……」
「はっきり言ってくれ。」
「嘘はついてない!」
「………信じてくれたか?」
「………うん……ごめんね、変に誤解して怒っちゃって……」
「いいんだよ、俺も変な誤解をさせる言い方をしちゃったんだから。」
「嘘、ついてないって分かったけどもう1回聞くね。陽一君は、彼女、いないんだよね?」
「ああ、当たり前だ。それに優奈、ずっとそばにいたんだから分かってるだろ。俺にそんな相手はいないって。」
「………うん……そうだったね。」
どうやら優奈も納得してくれたのかホッと息を吐いた。
俺もそれに続きホッと息を吐く。
と、そこで周りに目を配ってあることに気づく。
人志さんと七海さんがものすごいニヤニヤとした顔でこっちを見ていることだ。優奈もそれに気づいたようだ。
「なんでお父さんもお母さんもそんなニヤニヤしてるの?」
「おやおや、今、自分が親の目の前で何をしているのか分かっていないようだ。」
「それほど陽一君のこういう行為には慣れているのかなぁ〜?」
「ん?何言って………ひゃっ!?」
「おわっ!?あ、わ、悪い!」
俺と優奈は、今、めちゃくちゃ近い距離で話していたことに気づく。
そして、気づいた俺たちはとっさに距離をとり顔を赤くする。
今さっきは、親の前だけど仕方ないと思ったけどこう考えてみるとやばいことしちゃったよな、俺。
優奈、また怒っちゃったかな?
「〜っ!」
優奈は、今もなお顔を真っ赤にしてそれを手で覆い隠すようにしていた。
「ふふふ、今日はいいものが見れたわぁ〜。」
「やっぱり陽一君が来てくれるとこちらとしても嬉しいな!いつでも来てくれても構わないからな。」
「あ、ありがとうございます……」
その後、優奈とは顔を合わせずらくなってしまった。
そして、そのまま夕食を食べ終わりもうだいぶ夜暗くなってしまったので家へと帰宅しようとしていた。最後に玄関前で優奈がお見送りをしてくれる。だが、そこでもまだ顔を合わせずらい。
「……じゃ、じゃあね、陽一君。」
「あ、ああ、今日は本当にありがとう。ごちそうさまでした。」
「ううん、別に気にしないで。お土産、本当にありがとね。ちゃんと大事にするからね。」
「ああ、そうしてくれ。………それじゃ、俺は帰るな。」
「…………最後に一ついいかな?」
「ん?何?」
優奈は、そこで一つ深呼吸をして顔を少し赤くさせ俺の方をむく。
「花火大会、一週間後にみんなと行くよね。」
「ああ、そうだな。」
「………そ、その後って陽一君……暇?」
「その後って花火大会が終わったあとのことか?」
「うん……」
「ああ、まぁ、宿題も全て終わってるしやることも無いから暇だな。」
「そ、それなら………その後、私と二人で散歩でも出来ないかな?」
「散歩?別にいいけど……なんでだ?」
「と、特に理由はないんだけど……理由がないと……ダメ?」
「っ!そ、そんなことないよ!花火大会が終わったあとだな。分かった、一緒に散歩しようぜ!」
「う、うん!ありがとう!」
「それじゃ、もうそろそろ帰らないと麗華が心配するからもう帰るな。じゃ、また花火大会で。」
「うん!花火大会で!バイバイ」
俺は、優奈に手を振りながら帰って行った。
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