第69話 結局何も分からなくて

 結局あの手紙からは、名前も何も書いていなかった。ただ、「近日会いに行きます」という旨を書いてあるだけだった。それもちゃんとした日程を言わずに。

 それを麗華と優奈に言うと少し気味悪がって捨てちゃった方がいいよと言われたが俺は、どうも捨てる気にはなれなかった。

 それにこの手紙の文字、どこかで見たことのあるような気がする。

 だが、それをどこでいつ見たかは全く思い出せない。

 だから、もしかしたらこの手紙は俺の記憶を取り戻すきっかけになるかもしれないと思い、机の引き出しにしまった。

 そして、手紙を見た日から3日ほど過ぎた。

 まだ新しい手紙は、届いていない。

 俺は、少しモヤモヤとしながら学校生活を送っている。あの手紙の文字、絶対に知ってるはずなんだ。でも、思い出せない。

 まぁ、今考えたところで思い出せないんだから仕方ない。手紙には近日会いに行くって書いてあるから近い日に会えるだろう。



「………陽一君、どうしたの?ボッーとしちゃって?」



 と、唐突に下校中、隣に歩いていた優奈に声をかけられる。



「ああ、ちょっと考え事を……」

「それってあの手紙のこと?」

「まぁな。差出人不明だからなおさら気になっちゃって。」

「そうだね。不思議だね。」

「…………ところで優奈、俺、もうとっくに怪我も治ったから別に一緒に帰らなくていいぞ?こんなところを見られたら優奈の好きな人どころか周りのみんなから誤解される。」

「…………いいもん、別に誤解されても……」



 優奈は、そっぽを向いて小声で何かを言った。口を動かして何かを言っのは分かったが内容までは下校中の学生の声や車の音でかき消されてしまい分からなかった。



「優奈、いつも俺のために面倒なこといっぱいさせちゃって悪いな。すごい感謝してる。」

「う、ううん、大丈夫。………ねぇ、陽一君、私がここまで陽一君に一所懸命尽くすのはね………えっと………」



 優奈は、途中覚悟を決めたみたいな目をして声を発していたが周りに人が大勢いることが今になってようやく分かったのか顔を真っ赤にして恥じらってしまった。



「尽くすのは?」



 俺は、その先の言葉が知りたくて優奈に先の言葉を言ってと促す。



「………え、えっと………だ、だから……私、陽一君のことが…………す………」

「あっ!お兄ちゃ〜ん!優奈さ〜ん!」

「っ!」



 優奈が顔を真っ赤にさせながらも続けて口を動かしていたのだが途中で中学から下校してきた麗華が俺たちに声をかけた。

 優奈は、最初ビクッとしていたがその後、少しホッとしていたような気がした。

 優奈の言葉が気になるのだが麗華が来てしまったのでさすがに聞こうとは思わない。

 俺がそんなことを考えているうちに麗華がトコトコと俺たちのところへ走ってきた。



「えへへ、お兄ちゃんと優奈さんも今帰ってるところ?」



 麗華は、笑みをこぼしながらそう言った。



「ああ、そうだよ。」

「そっか!なら、一緒に帰ろ!」

「そ、そうだね、うん、一緒に帰ろう!」

「「ん?」」



 優奈がどこか挙動不審に見えたので俺と麗華は、揃って口を傾げてしまった。



「な、何?」

「………優奈さん、ちょっと来て。お兄ちゃんは、そこで待ってて!」



 麗華は、そう言うと優奈の手を引っ張って少し離れた所へ行ってしまった。

 俺は、麗華に言われた通りずっとここで立っている。

 そして、少し離れたところで優奈と麗華が会話をしていて……



 第三者視点

 優奈と麗華は、陽一から距離を取り誰にも聞こえないように顔を近づけ小さな声で話し合っている。



「ねぇ、優奈さん、今何しようとしてたの?」

「ふぇ!?な、何って……べ、別に?」

「もしかして………告白?」

「っ!ち、違うよ!?」

「本当に?」

「………」



 優奈を見る麗華の視線はとても疑わしいものだった。恐らく麗華は、ほぼ確信しているのだろう。優奈が今さっき、自分のお兄ちゃん、陽一に告白をしようとしていたことを。



「………別にね、優奈さんがいつお兄ちゃんに告白しようと私はいいの。でもね、今、お兄ちゃんは色々と大変な状態だから………だから、告白するならもう少し待ってて欲しいな。」

「……大変な状態って?お父さんと喧嘩してる事?」

「………うん、それも一つではあるね。」

「………ねぇ、麗華ちゃん、教えてくれない?今、陽一君が抱えてる問題。私、少しでも手助けしたいの。」

「………ごめんなさい。私だけの判断じゃ何も言えないの。」

「それって………ううん、ごめんね。なんかプライベートなこと聞いちゃって。」



 優奈は、麗華に詳しく聞こうとしたがすぐにそれがダメだと判断したのか顔を横に振って謝った。



「……なんかごめんね!変な空気にしちゃって!お兄ちゃんの問題が解決したら告白してもいいよ!」

「あ………その事なんだけど…………私、1回だけ陽一君に告白したことがあるの。」

「っ!」



 麗華は、場の空気を明るくしようと笑顔を振舞っていたが優奈の爆弾発言により目を大きく開き呆然としてしまった。



「………ほ、ホントに?」

「……う、うん……は、花火大会の後に……2人で散歩していたんだけどね……言うなら今しかないって思って………それで告白しちゃったの。」



 優奈の表情からその発言が嘘じゃないと分かったのか麗華が引きつった笑みを浮かべてる。



「………た、確かに花火大会の日は帰りがすごく遅かった。」

「ご、ごめんね、私、陽一君にそんな問題があるなんて知らなかったの!」

「あ、ううん、花火大会の日なら……大丈夫だと思うの。その後に色々と問題が出たから……」

「そ、そうなんだ……なら、良かった。」

「………ね、ねぇ!それでお兄ちゃんの反応は!?」

「えっと…………陽一君、なんか色々と勘違いしちゃって私が別に好きな人がいるって思っちゃったらしいの。」

「え?……ええっ!?な、なんで!?」

「あ、あはは、私の告白が曖昧だったみたい。」

「も、もうっ!お兄ちゃんたら……ごめんね、優奈さん。そりゃ、失敗したらまたしたくなるよね。」

「………まぁ、うん、そうだね。せっかく勇気を振り絞ったのに空振りなのは辛いからね。………でも、今はやめておくね。陽一君が抱えてる問題が解決したらまた告白しようと思う。」

「うんっ!そうして欲しいな。」



 優奈と麗華は、それでお互い満足したのかふふっ、と2人で笑いあった後に陽一の元へ戻った。

 陽一は、この2人が何を話していたのかは全く見当がつかなかったが女子同士の話なのでそれを聞こうとは思わなかった。

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