第42話 祭りの人の多さは尋常です

「すげぇ人だな。」

「え、ええ、祭りってこんなに人が多いのね。」



 俺と静香は、祭りの人の多さに驚いていた。俺は、何度も祭りに来たことはあるが何度見てもこの多さは驚く。



「さて、まずは適当に回るか。どうする?みんなで回るか?」

「この人の多さじゃみんなで固まってもあれだし二手に分かれましょう。え〜と………私と康介、それと後藤の1グループ、優奈、上ノ原、静香ちゃんの1グループでどう?」

「いいんじゃないか?そのグループで。」



 みんなも麻美の提案に賛成でそのグループで回ることになった。



「……優奈、せっかく上ノ原と一緒のグループにしてあげたんだからなんかアクション起こしなさいよね?」

「な、何言ってるの!?麻美ちゃん!?」

「本当は二人っきりにするつもりだったけど……まぁ、子どもだし別にいいでしょう。逆に子どもっていいね〜とか少し意味ありげなことを言えばいいんじゃない?」

「意味ありげなことって……」

「もう!ごちゃごちゃ言わないの!とにかく頑張りなさい!」

「きゃっ!」

「おっと……」



 優奈と麻美が何か話していたと思ったら急に麻美が優奈を突き飛ばした。な、なんだ、喧嘩か!?まさか、あの仲が良すぎてもしかしたら百合なんじゃないかって勘違いされてるあの二人が!?

 あれ?でも、なんかそんな風じゃないな。麻美、こっち見てすごいニヤニヤしてるし。

 あ、それよりも今は、優奈の安全確認だ。



「大丈夫か、優奈?」

「〜っ!ご、ごめんね、2回も。」

「いいよ、別に。優奈に怪我がなくて良かったし。」

「う、うん……ありがとう。」



 優奈の様子を見るが、どこも痛そうにはしていなかった。



「そろそろ分かれようぜ。」

「ああ、そうだな。それじゃ、花火が上がる30分前にまたここに集合しようぜ。場所取りもやっておきたいし。」

「分かった、それじゃ、優奈、静香、行こうぜ。」



 俺たちは、太輔たちとは反対方向に歩き出した。もちろんその時も俺は静香の手をしっかりと握っていた。こんなところで普通に歩いていると小さい静香は、すぐに見失ってしまう。そんなことになったら母さんからなんて言われるか……ああ、怖っ!



「よ、陽一君!や、や、やっぱり子どもって可愛いよね〜!」

「ど、どうした、優奈?すごい噛んでるけど?」

「ううん、なんでもないよ。それよりも子どもって可愛いね!」

「ん?あ、ああ、そうだな。………カワイイナ。」

「むっ!」

「痛っ!」



 優奈に続いて可愛いと言うと静香から思いっきり踏まれた。今日何度踏めば気が済むのだろうか。

 はぁ、照れ隠しが下手くそなんだから。

 そう思っていたのだが何だか優奈にもじっと見られた。



「な、なんだよ、二人とも。俺をそんな目で見たって金はないからあまり奢れねぇからな!」

「そんなんじゃないよ!……もうっ!陽一君って子ども嫌いなの?」

「子ども?いや、別に嫌いって程じゃないぞ。やっぱり普通に可愛いと思う。でも……やっぱり子どもにも内面があるからな。素直に可愛いって言っていいのか……」

「何よ!私の内面が可愛くないって言うの!?」

「暴言さえなければ素直に可愛いって言えるぞ!」

「じゃ、じゃあ……言いなさいよ……」

「…ん?何んて?人が多いから声を大きくしないと聞こえないぞ?」



 静香は、今さっきまでの威勢はどこに行ったのか、途端に指をもじもじさせ口をパクパクとさせていた。その様子は、めちゃくちゃ可愛い。

 するとまた優奈がくすくすと俺たちを見て笑っていた。



「ふふっ、やっぱり仲がいいよね。」

「それをまた言うか、優奈。はぁ、まぁ、もういいけど。それよりもなにか食おうぜ!めちゃくちゃ腹減ったわ。」



 屋台での食べ物の匂いが脳を刺激し空腹を知らせる。

 焼きそばやたこ焼きのソースの香り、焼き鳥のこおばしい香り、それにカステラなどのデザート系の甘い香りがして朝から何も食べてない腹がずっとそれを求めて鳴っている。



「そうだね、陽一君は、なにか食べたいものある?」

「ん〜、そうだな………やっぱり祭りと言ったら焼きそばと思うんだよな。」

「それじゃ、焼きそばを3つでいいのかな?」

「あ、待って!俺と優奈で別々のものを買ってそれを分けて食べるってどう?そっちの方がいっぱい食べれていいと思うけど。」

「そうだね、それじゃ、そうしよっか。じゃ、私は焼きそば買ってくるね。」

「おう!先に買い終わったらここで待っててくれ!」

「うん!分かった!」

「じゃ、俺と静香は、何買おうか?何か食いたいものでもあるか?」

「う〜ん………あ、あの焼き鳥って食べ物がいい!」

「焼き鳥か。もしかして、静香って焼き鳥食べたことないのか?」

「ええ、どういうものかは知ってるのだけれど食べたことは無いわね。」

「じゃ、あれにするか。種類も豊富だから好きなのを選ぶといいよ。」



 俺と静香は、焼き鳥の屋台に行き静香の気になるものを合計で9本買った。みんなで3本ずつに分ければいいだろう。



「よし、こんなもんでいいだろう。えっと優奈は………ん?なんだ、あれ?」



 優奈が先に買ってたら今さっきの場所にいるはずなんだけど……なんかあそこ、すごい人だかりになってる。

 優奈、あそこにいるのかな?



「静香、しっかりと掴まっていろよ。離すと絶対にはぐれるからな。」

「分かったわ。」



 俺は、今さっきまで繋いでいた手にさらに力を込め離れないようにする。そして、あの人だかりへと向かっていく。

 するとその中心には何だかすごい怯えている優奈の姿と6人くらいの不良っぽい男がいた。

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