第43話 不良と対峙して

「優奈!?」

「あっ!陽一君!」



 男たちに囲まれて不安そうにしていた優奈が俺の顔を見るなりパッと表情を明るくして俺の方に駆け寄ってきた。



「大丈夫か、優奈?」

「う、うん……」

「それで……あんたらは誰?」



 俺が男たちに目をやるとそいつらは、面白くなさそうな顔をして俺を見ていた。



「なんだよ、てめぇ?その子は、今から俺たちと楽しい楽しい遊びをするところだったんだから邪魔すんじゃねぇよ。」

「それじゃ、優奈、静香、行くぞ。」

「おい!てめぇ!無視してんじゃねぇ!お前からこっちに話ふっかけてきたんだろ!?」



 俺が男たちの言葉を無視し奥に進もうとすると一人の男から方を掴まれた。



「てめぇ、俺たちが誰か知ってんのかよ!?」

「いえ、全く知りません。知りたくもありません。」

「クソガキがァ!舐めたくち聞いてんじゃねぇぞ!」

「あ、はい、あんたたちとは関わりたくないんでそれじゃ。」

「ちょ!?だから、待てって!」

「俺たち、用事があるんですが?」

「うっせぇ!逃げたきゃその女を置いてけ!そしたら逃がしてやるよ!」

「………優奈、置いていってもいい?」

「えぇ!?や、やだ!」

「嘘だから引っ付かないで。」

「むぅー!酷いよ!陽一君!」

「ははっ、ごめんごめん。」



 優奈は、もう少し自分の可愛さを自覚した方がいい。何か怖いことがあるとすぐに俺に抱きつく癖があるからな。優奈にもし、彼氏が出来てまだ俺にそんなことしたら大変なことになるんだから。

 ってか、そろそろ俺の肩が痛いんですが。



「はぁ、俺たちもう行っていいですか?」

「はぁ!?ダメに決まってるだろ!?お前、俺たちをコケにしすぎだ!」

「いえいえ、コケになんてしてませんよ。ただ、バカにしているのは否めませんが。」

「くっそぉ!このガキ!1発痛い目、見せてやる!」



 俺の肩を掴んでいた男がそう言って拳を振り上げる。

 静香もいる手前、暴力沙汰は避けたいな。



「くらえ!俺のゴールデン右腕パンチ!」

「え!?ダサ!」



 俺は、つい思ったことを口走ってしまった。

 するとその男は、拳を振り上げたまま固まった。



「だ、ダサい……だ……と……」



 その男は、拳を下ろしポロポロと涙を零し始めた。

 え?何!?ど、どうしたの!?



「だ、ダサくなんかねぇもん!かっけぇもん!うわぁぁぁぁあああん!!!」

「あ、ちょ、待ってくださいよぉ!」



 涙を零し始めた男は、何だか急に顔を真っ赤にして走り去って行った。そのあとを追いかけて残りの男たちも去って行った。



「え、えぇ……」



 俺は、何だか呆気にとられていた。

 いや、まぁ、暴力沙汰にならなくて済んだけど……

 するとまた優奈が俺に飛びついてきた。



「よ、陽一君!け、怪我してない!?大丈夫!?」

「あ、ああ、大丈夫だから。心配させてごめんな。」

「う、うぅ……良かった、良かったよぉ!陽一君、ありがとぉぉぉぉ!!」



 優奈は、俺の胸元で涙を流した。その優奈の体は、まだ少しだけ震えていた。俺が来るまですごい怖ったのだろう。

 俺は、優奈の頭を優しく撫でる。



「ずっ……うぅ……」

「少しは落ち着いたか?」

「う、うん……」



 優奈は、俺の方に顔を向けてきた。



「なんだよ、涙で顔がぐっしょりじゃないか。」



 俺は、自分で持っていたハンカチを使い優奈の顔を拭いてあげる。



「ごめんな、優奈。今回の件は、俺が悪かった。優奈みたいな可愛い子をこんな人が大勢いる中、1人にさせちゃって。」

「か、か、可愛い!?わ、私が!?〜っ!も、もぅ!陽一君!」



 優奈は、顔を真っ赤にしてそれを隠すように手で顔を覆った。そして、恥ずかしいのか頭を俺の胸に擦り付けている。

 すると下の方から服の袖が引っ張られる感覚を感じた。

 下を見るとそこには静香が顔を真っ赤にしていた。



「どうした、静香?」

「も、もう!恥ずかしいから一旦ここから離れましょ!人影がないところに!」

「ん?ああ、そういう事か。分かった、優奈、移動するぞ。歩けるか?」

「まだ少し怖いから……手、繋いで……」

「はぁ、分かったよ。」



 俺は、優奈と静香の手を掴み歩き出す。

 俺たちが移動したのは人混みから外れた少し暗い公園の中だ。



「ここまで来れば人目はないだろ。優奈、大丈夫か?」

「うん、ごめんね。だいぶ落ち着いた。」

「そりゃ良かった。」



 すると優奈の方からお腹が鳴った音がした。それも俺のとは違いめちゃくちゃ可愛らしい音だった。

 優奈は、お腹を抑えて恥ずかしそうにまた顔を真っ赤にした。



「ご、ごめんね、あ、安心したらつい……」

「ははっ、いいよ。俺もお腹すいたし。早く飯にしようぜ。」

「そうだね!」



 優奈は、自分が持っていた袋の中から焼きそばが入っている箱を取り出す。

 俺も屋台で買った焼き鳥を取る。



「わぁ!焼き鳥だ!美味しそう!」

「そうだろ、早く食べようぜ!ほら、静香、タレをこぼすなよ?」

「そ、そんなことしないわよ!」

「はい、優奈も。」

「ありがとう、陽一君。これ、焼きそばね。静香ちゃんのは一応紅しょうがは除けてもらったけど良かった?」

「私は、紅しょうがって何?」

「え!?紅しょうが、知らないの!?」

「は、ははっ、静香は、まだこういう屋台とかで食べたことがないから知らないだけだよ。それよりも優奈、わざわざ気を使わせてくれてありがとう。」

「う、ううん、別にいいよ。」

「それじゃ、食べよっか。」



 俺たちは、3人で手のひらを合わせ合掌する。

 静香にとっては初めての屋台での料理だ。どうだろうか?



「静香、美味しいか?」

「………美味しい……」

「ははっ、良かったな。ほら、焼き鳥も食べてみろって。」

「い、言われなくても食べるわよ!」



 静香は、小さい口で豚バラを人かじりする。さすがに一口では一切れ食べることが出来なかった。まぁ、でも、なんだかそういうところが可愛く見える。

 さて、静香の反応は?



「………美味しい……」

「今さっきと一緒かよ!ま、まぁ、美味しいなら良かったよ。他にも屋台はあるから気になるものが目に付いたら言ってくれ。」

「え、ええ、ありがとう。」

「陽一君、今さっきから静香ちゃんのことばかり気にして一口も食べてないよ。」

「ん?あ、ああ、そうだったな。」



 俺も焼きそばと焼き鳥を食べていく。うん!久しぶりに食べたけど美味いな!やっぱ、屋台だと普通の焼きそばも何か変わるよな。焼き鳥は、こういう所でしか食べたことがないから分からないけど。

 それから俺たちは、ゆっくりと焼きそばと焼き鳥を食べていったのである。

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