第44話 射的は得意です

「ふぅ、満腹満腹。」

「ふふっ、陽一君、いっぱい食べてたね。」

「あんた、太るわよ。」

「うるせぇ。逆に二人とも食べなさすぎなんだよ。その残したやつを俺が食ったからいっぱい食べたんだ。」



 この二人、なぜか焼きそばも焼き鳥もちょっとだけ食べて俺に寄こしたのである。二人とも、もう少し食べれたと思ったんだけど。

 その二人の残したものを食べたせいで1歩も動けないほど満腹状態なのである。



「わ、悪いな、二人とも。本当なら二人だけでも祭りを楽しんで来いって言いたいところだが今さっきの件があるから二人だけで行かせるのは少し心配なんだ。」

「う、うん……」



 さっきの不良たちの件を持ち出したからだろうか、優奈が頭をこっちに近づけ俺の胸にポンっと置いた。



「むっ……」

「痛っ!?え!?な、何!?し、静香!?またかよ!ど、どうかしたのか!?」

「ふんっ!なんでもないわよ。」



 なぜか今さっきからこういう風に優奈が俺の方に体を寄せると静香から絶対に俺の体をつねる。なぜだろうか?



「なんなんだよ……優奈、悪かったな、急に動いて。」

「ううん、大丈夫だよ。」

「そうか?なら、良かった。よし!もう休憩もだいぶ取ったしそろそろ祭りに戻ろうぜ!待ち合わせ時間までもうそんなにないだろ?」

「あと30分くらいだけど……大丈夫、陽一君?」

「ああ、大丈夫だ。まだ静香には祭りの全てを見せてないもんな。」



 俺は、そう言って立ち上がる。

 ちょっと吐きそうになったが……うん、大丈夫。

 俺は、静香の手を握る。



「ほら、行こうぜ。」

「え、ええ……ふふ……」



 あれ?静香が今、どことなく笑ったような気がしたんだけど……気のせいかな?

 それから俺たちは、屋台を見るためぶらつく。すると静香が一つだけずっと見ている屋台があった。その屋台とは射的だ。



「なんだ、静香。射的がしたいのか?」

「っ!ち、ちが、そういうわけじゃ……」

「ははっ、誤魔化すなって。ほら、行くぞ。」



 俺たちは、射的の屋台のところへ行き、射的の屋台をやってるおじさんから銃と弾をもらう。

 銃に弾を入れるのは静香がやると危ないので俺がいれる。



「これでよしっと。ほら、欲しい商品を狙いな。」

「う、うん……」



 静香は、まず台に身長が足らず上手く銃を構えられない。

 なんかぴょんぴょん跳ねてる静香、めちゃくちゃ可愛いんだけど。

 俺は、そんな静香をもっと見ていたいむという欲望を抑えつつ静香の腰に手を当て持ち上げ台の上に乗せる。



「ちょ!?な、何してんのよ!?」

「これで狙いやすくなっただろ?」

「きゅ、急に触んないでよ。……変態……」

「うっ!変……態……」

「さてと……何を狙おうかしらね……」



 俺が静香の言葉にグサッと胸をえぐられていると静香は、すぐに切り替えて景品を選んでいる。

 そして、静香が選んだのはクマのぬいぐるみだ。なんだ、あのキーホルダーといい、クマのぬいぐるみといい、静香って可愛いものが好きなんだな。少し女の子らしさが見れてよかった。



「絶対に取ってやるわ。」



 静香は、目に火を灯らせクマのぬいぐるみを狙う。銃口をしっかりと景品の方に向け手元がぶれないようにしっかりと固定する。

 おお!なんか緊張感あるな。

 そして、もう狙えると思った静香は、引き金を引く。

 銃口から出た弾は、反れることなくクマのぬいぐるみに当たる。………だが、弾と言ってもコルクガンなので全く威力がなくぬいぐるみに力を吸収され呆気なく弾が弾かれる。



「なっ!?な、何よ!?この弾!こんなの絶対に取れないじゃない!」

「ふっ、ここは俺の出番だな。」



 俺は、おじさんに優奈とやるという口実をつくり二人用の銃と弾をもらう。



「優奈、悪いけど1回だけ俺に弾使わせてくれないか?」

「うん、別にいいよ。陽一君のお金だからね。」

「ありがとう。それじゃ、静香、俺の合図で引き金を引いてくれ。」

「え?な、なんであんたなんかの指示を聞かなきゃいけないのよ……」

「まぁまぁ、いいから。それじゃ、構えて。」

「もう!なんなのよ。」



 静香は、文句を言いつつも銃を構えらてくれる。また、今さっきと同じようにして。

 俺は、その横から2つの銃を構える。結構キツイが……まぁ、これくらい静香のためならな。

 そして、完璧に設置が出来たら合図をかける。



「それじゃ、カウントダウン、いくぞ。5、4、3、2、1、今だ!」



 静香は、俺の合図で引き金を引く。その後に俺も引く。静香の弾を追うように俺の弾がぬいぐるみに向かっていく。

 そして、静香の弾が当たる。だが、それだけじゃやはり倒れることは無い。



「やっぱり、無理じゃない。」

「いや、まだだ。」



 静香の弾が弾かれた後、静香の弾の衝撃が残ったまま俺の弾がぬいぐるみに当たる。

 そして、ぬいぐるみは、ゆっくりと傾き始めどんどん後ろに倒れていきバタと棚の後ろに行った。



「取れたの?」

「ああ、取れたぜ!」



 おじさんは、悔しそうにそのぬいぐるみを静香に渡す。

 静香は、まだ取れたことが嘘みたいで呆気にとられている。そして、我に返ると……



「あ、ありがとう……一応感謝しておくわ。」

「ははっ、どうも。優奈、悪かったな、1発使わせてくれて。お詫びに何か欲しいものを取ってあげるよ。」

「本当?どれにしようかな〜。」



 その後、優奈に頼まれたものも難なく取れた。

 そして、俺たちは、射的のおじさんの悔しそうな顔を後にして帰って行った。



「お、驚いたわ……あんたにこんな得意なことがあるなんて……」



 静香は、今さっき取ってあげたぬいぐるみを抱きしめながら俺にそう言った。ぬいぐるみと幼女。可愛いな。

 おっと、そんなことを考えてないでちゃんと質問に答えた方がいいな。



「まぁ、昔ちょっとあってな。」

「何よ、ちょっとって?」

「………もう本当に記憶も曖昧なことなんだが……」



 俺は、自分の過去を静香と優奈に語る。

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