第41話 祭りの前に自己紹介を

 優奈と麻美がトイレから帰ってきて康介もジュースをもって帰ってきた。

 ちなみに優奈と麻美は、浴衣姿だ。

 すると帰ってくるなり俺に向かって口を開いた。



「ったく、上ノ原、ようやく来たのね。」

「遅せぇよ、陽一。」

「良かった、陽一君に何も無くて……」



 香取兄妹は、俺に辛辣な言葉を発してきた。優奈だけ、俺の身を案じてくれる。



「優奈、あんた上ノ原に甘すぎなの。遅刻したのはこいつが悪いんだから。」

「で、でも、もしかしたら、事故とかで急に来れなくなったっていう可能性もあるでしょ?」

「その事故で怪我したなら連絡は取れないはず。怪我じゃないのならたぶん上ノ原なら面白がって私たちにその事故現場の写メとか送るはずよ。」



 うっ、全く言い返すことが出来ない。

 優奈も言い返すことが出来ないのかしょんぼりとしている。



「それで陽一、今日はなんで遅れたんだ?まさか寝坊とか言うんじゃないだろうな?もう夕方だぞ?」

「ははっ、さすがにそれはねぇよ。コンビニで虫除けスプレー買ってきてそれで遅れたんだ。みんなにも貸そっか?」

「ああ、そういうことな。俺と麻美は、別にいいよ。家でもうかけてきたし。」

「あ、私は、借りていいかな?」

「ああ、いいぞ。」



 俺は、優奈に虫除けスプレーを渡す。



「それで、今さっきから気になってたんだけどあんたの足元にいるその女の子、どうしたのよ?まさかとは思うけど誘拐?」

「ち、ちげぇよ!この子は、俺の親戚の子。親が仕事で花火大会に来れないから俺が連れてくることになったんだ。」

「ああ、そういうことね。私は、てっきり上ノ原がとうとう幼女に手を出したんだと思ったわ。」

「心外な。俺は、ロリコンじゃねぇぞ。」



 俺は、静香を前に出して挨拶をさせる。



「静香、みんなに自己紹介してくれ。」

「………武本 静香です。今日はよろしくお願いします。」

「あら、礼儀正しい子ね。」

「可愛いね〜。」



 麻美と優奈は、静香のことを気に入ってくれたらしい。

 まぁ、静香はあんな暴言さえ吐かなければすごい礼儀正しい子で可愛いんだよな。暴言さえ吐かなければだが。

 優奈は、屈んで静香と同じ目線になろうとする。

 すると静香は、今さっきと同じように俺の後ろにすぐに隠れてしまった。



「悪いな、人見知りだから許してくれ。」

「そうなんだ。……うんしょっと。あ……」



 優奈は、立ち上がろうとすると浴衣のせいで後ろに倒れそうになった。

 俺は、思わず優奈の背中に手を回しこちらに引き寄せ倒れないようにする。



「大丈夫か?」

「〜っ!う、うん……ありがとう、陽一君。」

「気をつけろよ、浴衣じゃ動きづらいだろ?」

「うん……あ!ご、ごめんね!重いよね!」

「あっ、ちょ、今動かれたら……」



 優奈は、俺から離れようと足を動かすがその足が絡まってしまい今度は俺の方に倒れてきた。

 優奈の甘い香りと柔らかい肌の感触がすごい気持ちいい。ずっとこうしていたい……

 って何考えてんだ!

 俺は、ずっとこうしていたいという欲を抑え優奈を離す。

 優奈の方を見ると顔を真っ赤にして目を回していた。



「あらあら、あの二人ったら。いきなり見せつけてくれるわね。」

「ったく、いきなりイチャイチャすんじゃねぇよ。」



 何か横からごちゃごちゃと3人で話しているが周りがうるさくて何も聞こえない。

 俺と優奈がどうとも言えない雰囲気になっていた時、俺の足にすごい激痛が走る。



「いってぇ!な、なんだ!?」



 足元を見ると静香がすごい不服そうに顔をしかめて俺の足を下駄で踏んでいた。

 小さい静香でも、ものすごい痛いんだよ?分かってる?



「な、何してるんだ、静香?」

「別に。何も無いわよ。」

「ったく、なんなんだよ。………あ、そうか、構ってもらえなくて寂しかったんだろ?」

「ち、違うわよ!何変な勘違いしてんのよ!」

「痛い!足踏むなって!」



 静香は、何度も俺の足を踏んでくる。

 すると前の方からくすくすと笑い声が聞こえる。



「優奈……どうしたんだ?」

「あ、ごめんね。ふふっ、二人ともすごい仲が良さそうだなって思ってね。」

「仲がいい……か?俺と静香が?」

「うん!すっごい楽しそうに話してるよ。」



 俺と静香が楽しそうに話してる……本当に?

 俺は、怪しげに優奈を見る。

 俺と静香が楽しそうに話せるわけがない。全く相性が合わないんだから。



「陽一君、私をすごい変な目で見てるけど……もしかして自覚ないの?」 

「いや……だってな……俺と静香って結構喧嘩する方だぞ?だから仲がいいなんてことはないと思うんだけどな。」

「ふふっ、喧嘩するほど仲がいいって言うけど?」

「ははっ、そんなの信用ならないよ。」



 俺がそう言うとさらに静香から足を踏まれる。



「痛い!痛いって!なんなんだよ、静香?」

「ふんっ!なんでもないわよ!」

「ったく、なんなんだよ。」



 今どきの小学生の考えてることはよく分からないわ。

 と、そこに今さっきまでどこかで話していた太輔たちがこっちへ来た。



「そろそろ移動するぞ!」

「ああ、分かった!ほら、静香。」



 俺は、再び静香に手を差し出す。

 すると静香は、何も躊躇わずにその手をギュッと握ってくれた。

 優奈の言う通り、少しは仲良くなったのかもしれないな。



「静香ちゃん……いいなぁ。私もいつか手を繋ぎたいな………」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る