第126話 伝えたかった想い

 俺は、家を飛び出して学校へ向かう。

 さすがに学校のカバンを持たずに出てきたのはやばいかな?なんて思ったが俺の足は家に戻ることはなく学校のほうへ突き進んでいった。

 学校に着くとその足を止める。

 学校に設置されてる時計を見ると家を飛び出してから5分ほどしか経っていない。

 俺は、息を整えるために深呼吸を3回行う。



「……よしっ!」



 俺は、落ち着いたことを自分で確認するとまた走り出した。

 まずは下駄箱で自分の校舎用のシューズを履く。

 そして、教室の扉を思いっきり開ける。



「……………」



 教室の中は静かで誰もいなかった。



「………あれ?」



 興奮していた頭が少し落ち着いてきた。

 今、この時間は4時間目だ。

 そして今日の4時間目といえば……



「体育か。」



 グラウンドには誰もいないので体育館なんだろう。

 俺は、体育館へ行こうとしたが一旦冷静になった頭で考えてみてそれを止めた。

 きっと今行くと優奈と話せる状況なんかにならないはずだ。

 絶対に先生に呼び止められて色々と説教されるに違いない。

 いや、説教されるのは別に構わない。

 でも、それは優奈にちゃんと謝ってからだ。

 4時間目が終わるまであと少し。

 それなら教室で待っていよう。

 俺は、そう思って自分の席に一旦座った。

 と、そこで外からコツン、コツン、という誰かがこっちへ来ている音がした。

 先生の見回りか!?

 俺は、すぐに隠れようと思ったが教室に隠れる場所なんてない。

 ………仕方ない、逃げるか。

 俺は、立ち上がり足音がする反対側の扉に向かった。

 その逆の扉が開く音がした。

 俺は、ちょうど扉に背を向けていたから誰が来たのか分からなかった。



「………陽一くん……」

「っ!?」



 俺は、聞き覚えのある声で自分の名前を呼ばれた。

 今、1番聞きたい人の声で名前を呼ばれた。

 俺は、振り向くとそこには



「………優奈………」

「………っ!」



 優奈は、何かを思い出したのかすぐに俺に背向けて走り出した。



「っ!優奈!」



 俺は、その優奈の背中を追いかける。

 男である俺と女の優奈。走るスピードは明らかに俺の方が圧倒的に速い。

 教室を出て行き十秒も経たないうちに優奈の手を掴んだ。



「待ってくれ!優奈!話したいことがあるんだよ!」

「………私に……そんな話……聞く資格……ないよ……」



 優奈は、下を向き泣きながらそう答えた。



「………優奈にだけ伝えたいことなんだ。」

「……………」



 優奈は、下を向いたままずっと黙っていた。



「………どんな思いを今の優奈がしているのか、少しだけなら分かる。でも、これだけでもいいから聞いて欲しい。」



 俺は、優奈の肩を持って俺の方に顔を向けさせた。



「きゃっ!」



 優奈は、いきなり動かされたことに驚いたのか可愛らしい声を漏らした。

 普段の俺ならここで謝ってるだろう。

 でも、謝るのは後だ。謝罪の言葉は後に取っておきたい。

 今、俺が伝えなきゃいけないのは



「………優奈、好きだよ。」

「っ!………」



 誰もいない廊下。とても静かな中、俺の声が響く。



「……これはちゃんと俺が考えて出した結果だ。俺には優奈が必要なんだってそう思っている。だから……俺の事を嫌いになってないんだった……付き合ってください!」



 俺は、今自分が伝えたいことを全て伝えた。

 すると、優奈がコツンと頭を俺の胸に当てた。



「………ずるい………ずるいよ……陽一くん………」



 優奈は、涙を流しながらそう呟く。俺の制服は優奈の涙で少し濡れてきた。



「……ああ、分かってる。ずるいよな、俺。優奈が俺に告白してきた時は酷い言い方をして断ったのに……こんな都合のいいことばかり言って………」



 俺が優奈の言葉を肯定するとなぜか優奈は、頭を振った。



「違う………違うよ……私……私が陽一くんのことを嫌いになるなんてないもん……」

「っ!?」



 優奈の不意な言葉にドキッとさせられてしまった。



「……だから……陽一くんから告白されたら私………断ることなんか出来ないもん………」

「………ってことは………」

「………私を……陽一くんの……恋人に……してください………」

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