第125話 おかえりなさい

 家に帰り、麗華に告白されてそれを断った。

 もちろん後悔なんかしてない。

 麗華は、俺にとって大切な妹なんだから。



「麗華、学校大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ、ちゃんと連絡したんだから。………それよりももう少しだけ、お兄ちゃんと一緒にいたい。」



 麗華は、そう言うとそっと俺の肩に頭を乗せてきた。



「………大丈夫だよ、俺は麗華のお兄ちゃんなんだから。いなくなるわけが無いだろ。」

「………そんなこと言ってるけど、お兄ちゃん、少し前まで私に黙ってどっかいってたじゃん。」

「あ〜、それを言われるとちょっと困る……けど、これからはちゃんと麗華のそばにいるよ。麗華が結婚するまでは。」

「ん〜、私、お兄ちゃんよりもいい人見つけられる自信が無いよ。」

「大丈夫、麗華なら絶対に見つけられる。あ、でも、もし、変な男が付きまとって来るならちゃんと言えよ。俺がそいつをぶん殴ってやるから。」

「………うん、ちゃんと守ってね、お兄ちゃん。」



 っと、そこで麗華は、俺の肩から頭を離す。



「そういえばお兄ちゃん、朝ごはんは?」

「食べてきたよ。」

「え〜、せっかく用意してるのに。」

「え!?いつの間に用意したの!?」



 俺が帰ってきてから麗華は、ずっと俺のそばにいた。朝食を作るなんて無理だ。



「……お兄ちゃんがいつ帰ってきてもいいように毎食ちゃんと作ってたの。」



 そう言って麗華は、冷蔵庫の中から次々と俺のために用意していた料理を取り出した。

 1食も欠かさずちゃんと用意されてある。



「………勿体ないし少しは食べようかな。さすがに全部食べられないから昼と夜もこれだな。明日もこれで大丈夫そうかもな。」

「い、いいよ、お兄ちゃんにはまた新しく作るから。これは私が食べるよ。」

「いや、いいって。俺に食べて欲しくて作ったんだろ?なら、俺が食べるよ。」

「………なら、私も食べる。早く食べないと腐っちゃうかもしれないから。」

「あ〜、腐ったらさすがに勿体ないな。でも、もう麗華、朝ごはん、食べただろ?」

「まだ少しは入るからいいよ。」



 俺たちは、今食べられる分だけ解凍して食べた。

 そして、時刻がもう11時を回っていた。



「さすがに麗華は、もう出た方がいいだろ。」

「………うん。」



 麗華は、制服を着直してカバンを手に取る。

 そして、玄関で靴を履いてドアノブに手をかける……が、ドアを開かない。



「どうしたんだ?」



 俺がそう尋ねると麗華は、こちらを向いた。



「………お兄ちゃん、優奈さんは後悔してるかもしれない。お兄ちゃんに告白したことを。」

「っ!」



 そりゃそうだ。

 優奈に告白された次の日から俺は倒れ込んで学校に行けなかった。

 和博さんは、俺を体調不良として学校に報告したらしいから、優奈は、その原因は自分のせいだと勘違いするだろう。

 でも、優奈から何の連絡もないってことは俺自身に臆病になってるかもしれない。

 もし、明日普通に優奈に接したら避けられるかもしれない。



「……早めの方がいいか。」

「うん、私もその方がいいと思う。お兄ちゃん、頑張って。」



 麗華は、そう言うと俺にそっと抱きついてきた。



「ありがとう、麗華。やっぱり、麗華が、いないと俺、ダメダメだな。」

「ホントだよ。もし、優奈さんがお兄ちゃんのことを諦めたんなら私がお兄ちゃんを貰うから。だから、安心してね。」

「ははっ、そうならないように頑張るよ。」



 麗華は、俺から離れてドアを開けた。

 そして、もう一度俺に向き直った。



「お兄ちゃん、言い忘れてたことがあった。帰ってきてくれてありがとう。おかえりなさい。」

「………ああ、ただいま。」

「ふふっ、いってきま〜す!」

「いってらっしゃい。」



 麗華は、少し小走りで学校へ向かった。

 麗華がいなくなりドアがバタンと閉まる。



「………よしっ!」



 俺は、リビングに戻り洗い物を済ませて自室へ行く。

 そして、今まで着ていた服を脱ぎ、制服に袖を通す。



「それじゃ、行くか……っと。」



 俺は、部屋から出る前にある物を見つける。



「……うん。」



 俺は、それを手に取り部屋を出て靴を履き家を出た。

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