第127話 嬉しすぎて

「……………」

「……………」



 俺と優奈は、あの後1度教室に戻ってきた。

 お互い少し気まずいというか、恥ずかしいという気持ちで黙ってしまう。

 だけど、視線が勝手に優奈の方に向いてしまう。

 優奈もちょうど俺の方を見ようとしていたのか、視線が重なってしまう。



「「っ!」」



 恥ずかしさのあまり、お互い一気に視線を逸らす。

 でも、いつまでもこんなことをしているわけにはいかないので俺は恥ずかしさに堪えて優奈に話しかける。



「……ゆ、優奈……」

「っ!……な、何?」



 優奈は、そっぽを向いたまま返事をする。



「………こっちを……向いてくれないか?」

「………や、ヤダ……」

「な、なんでだよ!?」

「だ、だって、今の私、絶対にだらしない顔してるもん!」

「な、なんで?」

「っ!そ、それっ!陽一くんが聞く!?」

「いや、気になったから……」

「………だ、だって………陽一くんと付き合えたことが嬉しすぎるから………」

「っ!」



 優奈の言葉に心臓がドクンと大きく跳ねる。

 なぜ優奈の告白を1度断ったのか不思議に思うくらい俺は今幸せである。



「………そ、それで……陽一くん……何?」



 優奈は、やはり顔を合わせようとはせずに尋ねてきた。



「………この前の優奈が告白してくれた時のこと。ちゃんと謝ろうと思って。」

「………別にいいよ。だって、陽一くん、私の事好きって言ってくれたから。」

「うん……優奈のことは好きだよ。でも、あの時の俺はさすがに酷かったと思ってる。だから、謝らせてくれ。」

「………なら、私のお願い、聞いてくれる?」

「あ、ああ、俺に出来ることならなんでも聞くぞ。」



 優奈は、俺の言葉を聞くとようやくこっちを向いてくれた。ニヤけるのを堪えているのか唇をキュッと閉めて肩を震わせていた。



「そ、それで、お願いって何?」

「…………ん………」

「っ!」



 優奈は、目を閉じて唇を俺に突き出すようにした。

 こ、これって、いわゆる彼氏彼女の恋人同士が行うと言われる伝説の………キス………。

 え?い、いいの?告白してまだ10分くらいしか経ってないけどキスしていいの!?

 い、いや、時間なんて気にしちゃいけないよな。

 優奈が求めてくれるなら俺もそれに応えないと。

 俺は、そう決心して優奈の肩を持った。その瞬間、優奈の肩が一瞬だけ震えた。

 よ、よしっ!いくぞ。

 俺は、ゆっくりと顔を近づけて…………



「優奈!ここにいるの!?」



 優奈の唇まであと数センチという所で麻美が教室に入ってきた。

 俺と優奈は、咄嗟のことで体が硬直して動けなかった。



「………………………ふむ……」



 麻美は、ゆっくりと扉を閉めた。

 すると、優奈の肩がプルプルと震えだした。



「………ね、ねぇ、陽一くん、も、もしかして……バレちゃった?」

「あ、ああ、そうだろうな。」

「〜っ!」



 優奈の顔がさっきよりも赤くなった。



「あ、あわ、あわあわあわ………」



 急なことに優奈は、混乱し始めて目を回して気絶してしまった。



「………………どうしてくれるんだよ。」



 俺は、優奈を支えて教室の扉の向こうにいるであろう人物にそう言った。

 すると、その人物は少し申し訳なさそうに乾いた笑みを浮かべながら教室に入ってきた。



「あ、あはは〜、い、いや、だって、優奈、体調が悪いっていって保健室に向かったはずなのに保健室の先生に聞いたら保健室に来てないって言うんだもん。そりゃ、心配して無事を確認しに来るでしょ。」



 ああ、だから、優奈だけ異様に早く戻ってきたのか。

 麻美は、体操服のままだから着替えずに優奈のことを心配して保健室に向かったのだろう。



「そ、それよりも!なんで、上ノ原が居んのよ!?体調崩して休んでるんじゃなかったの?」

「い、いや、確かに体調崩してたんだけど急に良くなったからな。これ以上欠席すると卒業できるかどうか分からないから一応来たんだよ。」



 俺は、最もそうな理由を並べて説明した。

 優奈に告白するために来たなんて言えるわけが無い。



「そっか。……それで優奈とはどうなったの?」



 麻美は、さっきのキスをしようとする現場を見たんだ。恐らく察しは着いているであろう。

 それなのに聞くということは楽しんでやがるな。



「お察しの通りだよ。とりあえず一旦優奈を保健室に運ぶから。」



 俺は、そう言って気絶した優奈をおんぶする。



「そういう時はお姫様抱っこじゃないの?」

「そ、それはさすがに恥ずかしいだろ!?今は、昼休みなんだから他の生徒もいるだろ。」

「まっ、それもそっか。私も付き添うわよ。」

「う、うん、そうしてくれると助かる。俺、まだ先生に学校に来たこと伝えてないから。絶対に色々と言われそう。」

「何してんのよ。」



 麻美に笑われながら俺たちは、保健室へと向かった。

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