第32話 喜んだ顔が可愛くて

「ほら、ちゃんとバタ足てして!」

「や、やってるわよ!」

「足に力が入りすぎだって!ちゃんと膝を伸ばして!」




 さっきから何度も泳ぎ方を教えているのだが全く成長する素振りがない。




「………一旦休憩するか。」

「ハァハァ、あんた、教え方下手なんじゃない?」

「酷い言われよう!?け、結構上手く教えてるつもりなんだが……下手?」

「うっ……そ、そんなの分からないわよ!私は、泳ぎ方なんて教えてもらったことがないんだから!」

「へぇ、そうなんだ……って教えてもらってたからこんなに下手じゃないか。」

「誰が下手よ!」




 静香は、頬をふくらませそっぽを向いてしまった。なんか可愛い。

 って何考えてんだ、俺。しっかりしろって。

 俺は、まずは腕を使ってバタ足を教える。




「理屈じゃわかってるのよ。でも、なんでか実践してみると出来ないものなのよ。」

「う〜ん、まぁ、確かにそういうことはあるな。………あ、それなら俺が足を持っていてあげようか?そうしたら膝を曲げないだろ?」

「え、ええ、そ、それなら確かに曲げないけど……」




 ん?なんだ?なんで顔を赤くしてるんだ?




「ま、とにかくしてみようぜ。」




 俺は、ごちゃごちゃ言われる前に静香の足を持ちバタ足の動きをしてみる。

 ん〜、何だか、静香の足もちもちしてて気持ちいいな。ずっと触っていたくなるな。

 ……………………………




「ちょ、いつまで私の足を触ってるのよ!」

「はっ!わ、悪い!ちょっと、触り心地が良かったからつい。」

「ったく、あ、あんまり触らないで。」




 あ、あれ?あんまり怒られない。

 俺は、もしかしたら殴られるかもって覚悟したんだけど……

 ま、まぁ、いいか。




「それよりもどうだ?なんかコツを掴めたか?」

「ん〜、ちょっともう1回するから見てて。」

「ああ、分かった。」




 静香は、もう一度バタ足をして泳ぐ。




「う〜ん、今さっきよりは良くなったがまだ足に力が入ってるな。もっとこうやって足をしなやかに動かすように。」

「ちょ!ま、また!」

「ん?どうした?」

「うぅ、この鈍感!」

「え!?何、俺、なにか悪いことした!?」




 なぜか今度はポコポコと殴られてしまった。まぁ、全く痛くなかったんだが。

 だが、それに耐えてようやく静香はバタ足がそれなりに出来るようになった。




「良かったな、バタ足ができるようになって。」

「うん!ありがとう!」

「っ!」




 ドクン!

 静香の満面の笑みを見て俺は、目を見開いた。

 そして、その瞬間鼓動が大きく跳ねたのもわかる。

 な、なんだ?この気持ち?

 もしかして俺って静香のこと………いやいや、ないない。もし、そんな気持ちがあったら俺はまずロリコン確定だ。

 俺は、ロリコンじゃないし!

 でも、静香の喜んでる姿を見るのはいいよな。




「………ねぇ、ねぇってば!」

「えっ!?ど、どうした!?」

「どうした、じゃないわよ。何ボッーとしてるのよ。私の話聞いてた?」

「わ、悪い、ちょっと考え事をしててな。それでなんだ?」

「いや、別に大したことじゃないんだけど、次は息継ぎの仕方を教えてもらおうと思って。」

「ああ、息継ぎね。じゃ、最初は、バタ足をせず泳ぐときのフォームになって顔を付けてみて。あ、その前に息を吸えよ。そして、水中の中で息を吐いて全て吐き出したら顔を上げる。これを続けていけば上手くいくよ。」

「う、うん………で、でも、何もせずに泳ぐときのフォームって難しいわね。」

「なら、俺が手を持ってやるよ。」




 俺は、目の前でバタバタしている静香の手を持ち泳ぐときのフォームにしてやった。




「さっ、これなら出来るだろ?」

「う、うん、やってみる。」




 静香は、少し顔を赤くしていたが気にせず息継ぎの練習を始めた。

 そして、1時間30分後。

 ようやくバタ足を付けての息継ぎができるようになった。

 あんまり泳ぎとか教えたことがないがこんなに時間がかかるものなのか?

 まぁ、本人は喜んでるしいいか。




「さて、一旦海から上がるか。ずっと入ってても体を壊しそうだらな。」

「そうね、上がりましょ。」




 静香は、今日できたバタ足をして砂浜まで戻って行った。

 今日の静香は、終始笑顔で可愛かったな。いつもあんなんだったらいいのに。

 俺たちが海から上がると和博さんと忍さんが砂浜で待っていてくれた。

 どうやら俺たちのことを見てたっぽい。




「お母様!私ね、ちゃんと泳げるようになったの!」

「あらあら、すごいわねぇ。よく頑張ったわ。」




 静香は、忍さんのところへ真っ先に泳ぐことが出来たと報告しに行った。

 静香を迎えに行った和博さんは、スルーをされてすごい寂しそうだった。





「陽一君、僕、娘に嫌われちゃったよ!どうしよう!?」

「ちょ、俺にそんな事言われてもどうしようもありませんよ!」

「うぅ、そんなことを言わずに〜。」




 和博さんは、静香からスルーされたのがすごい悲しかったのか俺のところへ来た。

 ちょっと暑苦しいのでのいてほしいのですが……とはさすがに言えない。

 その後、数分かけ和博さんを慰め昼食休憩をとることにした。

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