第123話 君に好かれてる俺

 和博さんたちと別れた後、俺は静香が用意していた車に乗って帰宅していた。



「悪いな、わざわざ送って貰って。」

「別に。学校に行くついでだから。」

「そっか。」

「そうよ。」

「……………」

「……………」



 あれ?なんか気まずい?

 静香のことを気にすると妙に唇のあたりが熱くなってくる。

 こうなっちゃうと本当に静香の罠にハマったとしか言いようがないな。

 でも、もうちゃんと決意は固めた。



「静香、昨日のこと、感謝してる。」

「………なんの事よ……」



 少し不機嫌そうな表情で返答する静香。



「俺が落ち込んでるのをちゃんと理解して色々と言ってくれたこと。本当に助かったと思ってるよ。」

「ふんっ……別に。」



 今度は照れたように頬を少しだけ赤く染めて窓の外の景色を眺めながら返事をする。



「静香のおかげでちゃんと決意は固まった。静香のあの言葉が本当なら静香にはこの決意は邪魔なものなんだろうけど。」

「………どうだっていいわよ。私は欲しいものがあったら自分の力で手に入れる。それがどんな方法だったとしても。」

「……そっか。………静香は、カッコイイな。」

「………はぁ?」



 俺が言ったことに対して静香が驚いたような顔をする。



「静香は、俺がへこんでる時や悩んでる時はいつも相談に乗ってくれたり時には俺に強く言って励ましてくれる。そんな静香の態度に俺は、心の底からカッコイイと思う。」

「ちょっ、止めてよ。なんなのよ、急に。」



 静香は、恥ずかしそうに慌てて俺を止めようとする。

 でも、俺の伝えたいことはここからだ。



「だから、そんな静香に好かれる俺自身もすごいなって自分で思ってる。」

「………………ぷっ」

「あっ!?今笑ったな!?」

「だ、だって、自分で自分のことをすごいって言う?」

「自分のことを自分ですごいって言えるやつが自分のことを1番を理解してる奴なんだよ。」

「なによ、それ。ふふっ……」

「だから、俺はもう迷わないよ。俺は、すごいんだ。好きな人に好きだと伝えることにもうウジウジなんてしてられないよ。」



 俺がそんなことを言っている時でも静香は、小さく肩を震わせてクスクスと笑っていた。



「………ふふっ……もう迷わない……ね。まっ、もし、あんたの告白が失敗したら私が慰めてあげるから。」

「ふんっ!最初から失敗する未来なんて見たくないね。俺は、成功する気満々で行くつもりだよ。」

「本当に自信満々ね。」



 静香とそんなことを話しているといつの間にか俺の家の前だった。

 今まで車を運転していた女性が車のドアを開けてくれた。



「ありがとうございます。」

「いえ、どうぞ。」



 俺は、女性から車から降りるよう促される。



「………それじゃ、陽一、またね。」

「ああ、またな。」



 俺と静香が別れを告げると女性は、ドアを閉めて運転席に乗った。

 俺は、少し離れ静香たちに向かって手を振る。

 静香も小さくだが手を振ってくれた。



「さて、帰りま………」



 俺が玄関へと向かおうとした瞬間、家のドアが開いた。

 平日の朝、母さんと父さんはもう既に家を出ているはずだ。

 なら、この時間帯で出るのはたった1人だけ。



「………麗華。」

「………お兄ちゃん………っ!」

「うわっ!?」



 麗華は、自分のカバンから手を離して俺の胸に飛び込んできた。



「ごめんなさい!」

「っ!」



 そして、俺の胸に飛び込んでからの第一声は謝罪だった。

 きっとそれは俺が倒れてしまったことへの謝罪なんだろう。

 俺が倒れる前、麗華と少し喧嘩っぽくなってしまった。

 でも、あそこで悪かったのは麗華では無い。



「その言葉は俺が言うべき言葉だよ。ごめんな、麗華。俺、麗華に対して酷いこと言っちゃって。」

「ううん………ううん………あの時のお兄ちゃんは明らかに様子が変だった。それはちゃんと理解してたはずなのに……お兄ちゃんの態度にムッてしちゃって怒っちゃった私が悪いの。だから、ごめんなさい。」

「…………麗華、まだ登校時間には余裕あるか?」

「え?……う、うん……少しだけなら………」

「なら、一旦家へ戻らないか?ちゃんと話したいんだ。」

「………うん……私も。」



 そう言って俺と麗華は、家の中に入った。

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