第74話 あなたに会いたくて
「………どういう………こと……」
静香の震えた声が俺の耳に届く。
静香は、今さっきまで車の後ろで俺を待っていた。静香の身長だと俺が戻ってきたことも美優という少女と話している姿も見えなかったのだろう。
だから、なかなか帰ってこない俺を気にして出てきたのだろう。
「ふふ……」
少女は、そんな静香の姿を確認するとどこか嬉しそうに微笑んだ。
「……武本静香さんですね?今までお兄ちゃんのことを気にしてくださってありがとうございました。」
「……な、何を言ってるの?」
「これまでずっとお兄ちゃんの記憶を取り戻すために色々としてきてくれたお礼を言っているんです。」
「だから、なんであんたにお礼を言われなきゃならないの?別にこれは私のためにやったことよ。」
「……ふふっ」
「何がおかしいのよ!」
「…………静香さん……あなた……人違いよ。」
「っ!」
「……その様子だともう知っていたみたいですね。あなたが幼い頃、結婚の約束をしたのはお兄ちゃんじゃないってことを。」
「………」
ど、どういうことだ?全く話が見えん。
「静香さん、本当に今までありがとうございました。これからは何も関係ないお兄ちゃんのことは気にせずあなたが探していた本来の人のもとへ行ってあげてください。お兄ちゃんの恩もありますのでもし、その人を探すのに困難していたら天野家へとご連絡ください。」
少女は、そう言うと名刺みたいなものを取り出し静香に渡す。
「っ!」
静香は、呆然としていたが急に夢から覚めたようなそんな感じで目を見開き名刺を持って去っていった。
「おい!静香!」
俺は、静香の後を追いかけようとしたが誰かが俺の服の裾を引っ張り邪魔をした。
「……お兄ちゃん、行ってどうするつもりなんですか?」
「ど、どうするって……そ、それは……」
「お兄ちゃんにとって静香さんはなんでもない他人なんですよ?家同士の関係というのもあれは元々嘘なのですよ。静香さんがお兄ちゃんを昔、結婚の約束をした人と勘違いしてお兄ちゃんに家同士の関係があるとか言って許嫁にさせれられていたんです。」
「っ!………」
…………嘘…………
俺は、今までずっと騙されていたのか………
「お兄ちゃん、まだもう少し話したい気持ちがありますが今日のところはあまり時間がないので出直します。」
「……あ…ああ……あっ、一つ聞いていいか?」
「はい?なんですか?」
「結構前から差出人不明の手紙が何通も来ているんだがあれは……えっと……天野さん?からなのか?」
「むぅ〜、美優って呼んでください。」
「……えっと……じゃあ…あれは美優……からの手紙なのか?」
「えへへ……えっと質問の答えは、はいです。お兄ちゃんに早く会いたいっていう気持ちを抑えられずに書いてました。」
「そ、そうなのか……それで近日会いに行くって書いてあったけどそれって今日のことなのか?」
「いえ、今日はたまたまお兄ちゃんがトイレへ向かうところが見えたので我慢しきれず会いに来ちゃいました。」
「じゃあいつ来るんだ?日付をちゃんと言ってほしいな。その日が予定とかあったらあれだから。俺もちゃんと美優と話したいことがいっぱいあるし。」
「えっと……じゃあ、お兄ちゃんが空いている日っていつですか?」
「俺?俺なら別に土日とかなら一日ずっと空いてるぞ?」
「それなら来週の土曜日がいいです!ダメですか?」
「別にダメじゃないよ。じゃあ、来週の土曜日で。」
「はいっ!嬉しいです!それじゃ、来週の土曜日のお昼頃にお兄ちゃんのお家に行きますね。バイバイ、お兄ちゃん!」
美優がそう言うと後ろで待っていた黒い車の扉が自動で開き美優は、その車に乗った。そして、そのまま車は動いてどこかへ行ってしまった。
そして、そのまま俺はポツンと1人残されてしまった。
さて、静香の方はどうするか。
今さっきは、騙されていたって思って悲しくなったけど何だか仕方ないことなのかなって今は思えてた。
静香は、想い人をずっと探していたんだ。結果的に勘違いだったんだけど俺に会えたんだ。探していた人にようやく出会えたんだ。………仕方ないよな。そう思っておこう。
でも、本当にどうしよう。このままってわけにもいかないよな。静香には何かと恩がいっぱい出来てるし。それが他人だからって関係ないよな。ちゃんと恩は恩で返さないとな。
ってか俺、和博さんたちにまだ全部話終わってないんだけど……
とりあえず静香のことも気になるし一旦、和博さんたちの家へ戻ろうかな。
俺は、そう思い止めていた足を動かした。
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