第76話 無事解決しました
「お待たせしてすいませんでした。」
俺は、静香の部屋から出てきて今さっきの部屋に入り和博さんと忍さんを待たせていたことに謝罪する。
「どうだった………って、陽一君の表情を見る限り聞く理由はないのかな。」
「は……ははっ、まぁ、一応これからは友人同士でいようっていう結論に至りました。」
「陽一君、本当にありがとうね。静香のこと、諦めないでくれて。」
和博さんも忍さんも俺たちが仲直りしたことがすごく嬉しいようだ。それにどこか安心もしている。
「それで今、静香はどうしてるんだい?」
「トイレに行ってくるって言ってました。恐らくそろそろここに来ると思います。」
俺がそう喋った後、予想通り廊下の方から1人の小さなぺたぺたという可愛らしい足音が聞こえた。
そして、すぐにその足音は俺たちのいる部屋の前で止まりノックをする。
和博さんが入室許可を出すとすぐにドアが開いた。部屋に入ってきたのはやはり静香だった。
「お父様、お母様、ご心配をかけて申し訳ございませんでした。」
静香は、俺の隣に綺麗に座り和博さんと忍さんに頭を下げた。
「別に構わないよ。逆に陽一君とさらに仲良くなれたのなら良かったと言うべきかな。」
「そうね、陽一君みたいな人とまだ繋がりを持てるのは私たちとしても嬉しいからね。」
「そ、そんな、俺なんて何もないですよ?」
「いやいや、謙遜しなくてもいいよ。陽一君の行動力はすごいと思うし、それに一緒に居て楽しいからね。また、僕たちが旅行に行く時に誘おうと思ってるけどいいかな?」
「あ、えっと、静香が良ければ……」
「私は、別に陽一が居ても構わないわ。」
俺の不安要素だった静香が即答してくれた。前まではあんなに嫌がっていたのに。
なんかものすごく嬉しいな。
「それじゃ、誘って貰えたら嬉しいです。」
「分かった、なら、必ず誘わないとね。それにしてもものすごく仲良くなったもんだね。静香がいつの間にか陽一君のこと、名前で呼んでるし。」
「べ、別に私は、陽一が私のことを名前で呼んでくれるのに友人の私が名前で呼ばないのはおかしいと思ったので。」
許嫁の時は、おかしくなかったのかな?
まぁ、あの時はお互い最初、ものすごく嫌がっていたからな。新たに関係が変わったから呼び方も変わったのだろう。
そして、それから1時間ほど話し続けると日がだんだん落ちてきた。
「そろそろ俺、家に帰ります。」
「もう帰るのかい?」
「はい、そろそろ妹が家に帰ってくる時間だと思うので。」
「なら、止めることは出来ないね。車を出すよ。」
「ありがとうございます。」
和博さんは、車を用意してくると言って駐車場へと向かった。
俺と静香と忍さんは、玄関に出てそれを待っている。
「陽一君、本当に今日はありがとね〜。朝からわざわざこんなところに来てくれて。しかも、静香とちゃんと向き合ってくれて。」
そんな中、忍さんは嬉しそうにそう言った。
「い、いえ、俺は、静香とはこれで終わりたくないって思ったからした行動です。」
「ふふっ、良かったわね〜、静香。陽一君みたいな男の人にこんなこと言ってもらえるなんてそうそうないわよ?」
「べ、別にう、嬉しくなんか………ない……わ………」
静香は、目をキョロキョロとさせながら弱々しい声でそう言った。
「本当にそうかしら〜?語尾が弱々しかったけど?」
「弱々しくなんかありません!」
「ふふっ……あ、陽一君。許嫁の関係が解消されたと言ってもいつでも静香をお嫁に貰っても構わないからね。というよりも貰って欲しいくらいだわ。」
忍さんのその発言に静香は、意表をつかれたのか顔を真っ赤にした。
「お、お母様!へ、変な事を言わないでください!」
「別に変なことじゃないわよ。私としては本当に貰って欲しいのよ?」
「も、もう、いいですから!ほ、ほら!陽一!お父様の車、来たわよ!」
静香は、忍さんの発言を誤魔化すように車が来たことを俺に伝える。確かに和博さんの車が来たので話はこれくらいにしておく。
「わざわざ見送りに来て下さりありがとうございました。もう許嫁ではないですけど何か困ったことがあればなんでも言って頼ってください。」
俺は、姿勢を正し静香と忍さんの2人にそう言った。
「ふふっ、それなら頼りにさせてもらおうかな?それじゃ、元気でね、陽一君。」
「……………」
「ほら、静香も何か言いなさい。」
「………な、なんか、色々と迷惑かけて悪かったわね。またね、陽一。」
「ああ、またな、静香。」
静香の恥ずかしそうな別れの言葉に俺は笑顔で答える。そして、車に乗る前に2人に向かって手を振る。
車に乗ると和博さんが嬉しそうな声色で俺に言ってきた。
「ありがとう、陽一君。君のおかげで静香は、本当にいい方向に変わってきてる。」
だが、次の言葉からは少し悲しそうな声色に変わった。
「あの子は、僕たちのせいで学校を休みがちになり同年代の友だちが出来ず、いつもどこか寂しそうだったんだ。それをいつも顔に出さなかったけどね。親としてはそれが悲しくて仕方なかった。」
確かに最初は、どこか寂しそうな雰囲気を感じられた様な気がした。まぁ、すぐに感じ悪いやつに変わってしまったが。
「あの子は、家ではあまり笑わなかったんだ。笑う笑わない以前にあまり口を開かなかった。僕たちとはあまり喋ろうとしなかったんだ。ずっと、部屋に引き篭ってしまっていた。だが、陽一君と出会ってからというもの、楽しそうに笑う……ということはあまりなかったが君のことを話す静香の表情はどこか嬉しそうに見えたんだ。それが僕と忍にとって本当に嬉しかったんだ。恐らく忍にも言われたと思うが……良かったら静香のことを本当にお嫁として貰って欲しいよ。」
和博さんは、車を発進させず俺にそう言って頭を下げてきた。
「…………すいません、まだその件に関してはいい返答は出来ません。」
だが、俺は和博さんたちの思いに答えることはできない。今さっきまでは静香と許嫁だからと思い「仕方なく」結婚しようと腹を括ってしまった。だが、今は違う。俺がここで「仕方なく」とか考えられるわけがない。もし、そう考えてしまったら俺の人生だけでなく静香の人生も変えてしまうのだから。
「………そうだよね。ごめんね、急にそんなことを聞いちゃって。」
「……いえ、今の俺だといい返答は出来ません……が、これからも静香とは友人関係で上手くやっていこうと思うので……もし、その時、今出た答えとは違っていても受け入れてくれますか?」
「っ!あ、ああ!もちろん!」
「ま、まぁ、もちろん、静香の気持ちを優先してくださいね。と、そろそろ車を発進させないと外で待ってる静香と忍さんがこちらを不思議そうに見つめてますよ。」
「おっと、そうだったね。」
和博さんは、外にいる2人に見つめられているのに気づき慌てて車を発進させた。
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