第77話 休息と買い物を

 静香とさらに仲が深まった一日があっという間に過ぎて日曜日になった。

 美優との約束は次の土曜なので今日はこれといって用はない。

 昨日ゆっくり出来なかったので今日ゆっくりしたいな……と思っていてもそれは出来ないのである。今日は、普通に家に麗華がいるのでグダグダできない。



「お兄ちゃん、買い物に行くからついてきて。」

「え〜、せっかくの休みなのに〜。」

「むっ!いつも私1人で行ってるんだよ?ご飯だって私が作ってるし掃除洗濯、全て私がやってるんだよ?………それでも来ないつもり?」



 おっと、ここまで聞いたら俺がこの家で何もしてないゴミのような存在だな。まぁ、実際そうだから何も言い返せないんだけど。



「……分かりました、ぜひついて行かせてください。」

「はい、よろしい。」



 麗華は、俺の答えを聞き満足そうに頷いた。

 ということで俺は、出掛ける準備をして麗華と一緒に家を出る。



「そろそろ10月に入るから結構涼しいな。」

「そうだね〜、涼しいね〜。」



 何だか麗華がご機嫌だな。こんなにご機嫌ならもう少し押しとけば買い物について来ないで良かったのではないのだろうか。

 まぁ、でも、荷物持ちくらいしとかないと本当に俺はあの家族の中で役立たずとなってしまう。と言うより、今思ったがもうなってるんじゃないだろうか?



「あれ?今日はスーパーじゃないのか?」



 俺たちの前に直線する道と右に曲がる道が出て来て俺は、いつも麗華が買い物をしているスーパーの方へと向かうべく直線する道を進もうとしたが麗華が右に曲がる道を進もうとしたので俺は、足を止めた。麗華も俺に説明しようとして足を止めた。



「今日は、市場の方へと行こうと思ったの。」

「なんで急に?」

「今日は、市場全体が安売りだからね。だから、荷物が重くなると思ったからお兄ちゃんを連れて来たんだよ。」

「そういうことか。じゃあ、市場の方に行くか。」

「うん!」



 市場か。あまり行ったことないな。

 俺は、そう思いつつ麗華と一緒に市場へと向かった。

 家を出てから約15分少々で市場へと着いた。

 目の前には肉屋や魚屋、八百屋が路上にそれぞれの品をケースに入れて売っている。

 安売りをしているからか、やたらと人が多い。



「まずは豚肉を買いたいからお肉屋さんね。」

「肉屋……なら、あそこか。」



 俺は、近くにあった肉屋へ足を運ぼうとした。

 だが



「あ、待って!お兄ちゃん!」

「ん?」



 麗華に止められてしまった。



「お肉を買うんじゃないのか?」

「うん、そうだけどそこでは買わないよ。」

「そうなのか?」



 どこも一緒と思うんだが……

 俺は、不思議に思いつつ麗華の後ろをついて行く。

 すると麗華は、今さっきとは違う肉屋の前で足を止めた。



「こんにちは〜」

「おっ!麗華ちゃん、こんにちは。今日も可愛いね〜。」

「あはは〜、ありがとうございます。」



 肉屋の店員は、少し小太りのおばさんだった。

 俺は、このおばさんのこと、全く知らないのに麗華は知り合いっぽい。

 まさか、これも俺の記憶がないせいなのか………



「おや?今日は、1人じゃないんだ?………結構カッコイイ男の人を連れて……もしかして、麗華ちゃんの恋人?」



 肉屋のおばさんは、ニヤニヤと俺を見たり麗華を見たりしながらそんなことを言ってきた。

 どうやらおばさんも俺のことを知らないらしい。なら、俺も知らないで当然か。良かった。



「ち、違います!この人は、私のお兄ちゃんです!」

「あらあら、そうだったの?……ふ〜ん、君が噂の麗華ちゃんのお兄さんか……」

「噂の?」

「ああ、よく麗華ちゃんがお兄さんの自慢話…………」

「な、なんでもないよ!それよりもおばさん!豚肉の細切れ肉を150グラムください!」

「はいよ、ちょっと待ちな。」



 麗華が注文するとおばさんは、注文通りの品を袋に入れてそれを紙で包む。

 そして、麗華の注文していないコロッケの所も漁りだして2個取ると1個ずつ袋に入れて豚肉と一緒に俺たちに渡す。



「はい、豚肉の細切れ肉を150グラムね。後、おまけにコロッケね。2人で仲良く食べるんだよ。」

「わぁ〜!ありがとうございます!」



 麗華は、嬉しそうに豚肉とコロッケを貰った。



「麗華、荷物は俺が持つよ。」

「あ、うん、ありがとう。」

「ふふ、兄妹仲が良いのね〜。」

「ま、まぁ、悪くは無いです。」



 俺と麗華のことが仲がいいとおばさんに言ってもらうと麗華は、少し照れたようにそれでいて嬉しそうに笑った。

 それから麗華がお金を払うと俺と麗華は、肉屋を後にした。

 俺と麗華は、肉屋におまけで貰ったコロッケを食べ歩きながら次のお店へと向かった。

 それから色々とお店を回ったのだが全部のお店の店員が麗華のことを知っていたのだ。

 買い物を済ませて帰宅途中に俺は、その理由を聞いてみる。



「麗華、随分と市場の人と仲が良さそうだったけど何回か来たことがあるのか?」

「うん、少し前まではスーパーで買ってたんだけどたまには市場に行ってみよっかなって思って行ってみたら市場の方が品質が良さそうだから市場のほうに通うことにしたの。それで何回も来ているうちに仲良くしてもらったんだ。」

「そうか、良かったな。それと………俺もこれからはなるべく買い物を手伝うようにするよ。荷物、結構重たいもんな。」



 俺が今日買った荷物を全て持っているのだが中々の重量だ。男の俺だからまだ平気だが女の子の麗華がこんな重さの荷物を持ってこの距離を歩くことになると結構大変だろう。



「まぁ、今日は安売りだから少し買いすぎちゃったけど……でも、ついてきてくれるなら嬉しいな。」

「ああ、俺が家にいるときは声を掛けてくれ。用がなかったらついて行くようにするから。」

「ありがと、お兄ちゃん。」

「それと学校帰りとかに俺にラインをしてくれたら帰りに買って帰るよ。」

「う〜ん……なら、今度からは少し頼りにするね。学校帰りって勉強道具とかも持ってるからあまり頼まないようにするけど。」

「遠慮するなって。まぁ、でも、買い物だけじゃなく他の家事もこれからは手伝うよ。さすがに俺、麗華に甘えすぎてるなって感じるし。」

「じゃあ、今度からは分担して家事しようね!」

「ああ、そうだな。」



 俺と麗華は、そんなことを話しながら家へと帰っていった。

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