許嫁が幼女はさすがに無理があります

第80話 笑ってしまえばいい

「…………お兄ちゃんのお母さん、今のじゃなくて前のお母さんですよ。………そのお母さんを殺したのは私です………」

「…………………………え？」

　俺は、美優のその言葉を一瞬では理解できなかった。恐らく美優は、本当にその手で俺の母親を殺しているのだと言っているのではないのだろう。偶然に偶然が重なって俺の母親が死んでしまったのだろう。

　その考えに至るまで美優から言われてから約3分ほど掛かった。その3分間、美優は、黙って俺が何か言うまで待っていてくれた。

「…………俺の知ってる過去の美優は、3歳だったし悪意を持って俺の母親を殺すような人じゃないってことくらい分かる。これは、別に美優を信用してるとかじゃない。美優は、偶然的に俺の母親が死んでしまっても自分のせいにするだろうという俺の考えだ。これが別に正解か不正解かなんでどうでもいいが……俺は、美優を恨んだり憎んだりしないから。」

　俺は、心を落ち着けてちゃんと美優の目を見てそう語った。

　俺の言葉を聞いて美優は、数十秒間下を向いた。俺は、今さっき、答えを出すまで待ってもらっていたので今回は俺が待つ。

「………やっぱり、お兄ちゃんはとても優しいですね。昔から変わってません。…………だからこそ、私自身が許せないのです！お兄ちゃんの優しさに付け込んで許してもらおうって心のどこかで思ってました。」

　美優は、本当に後悔している。ずっと下を向いて鼻水をすする音も聞こえてくる。

　俺は、車が赤信号のときを見計らって美優の向かい側から隣へと移動する。そして、なるべく優しく背中をさするようにして声を掛ける。

「なぁ、美優？俺、別に美優を許すつもりなんてないよ？」

「っ！」

　俺の言葉が意外だったのか体なビクッと震えた。

　だが、俺は気にせず話を続ける。

「だって、今さっきも言っただろ？俺は、美優を恨んだりなんかしないって。だから、許す許さないなんてないんだよ。」

「で、ですが…………」

「はいっ！卑屈にならない！」

　俺は、パンっ！と自分の手のひらと手のひらを叩いて大きな音を立てた。

　すると美優は、ずっと下を向いていたのにその音と同時に俺の方を向いてくれた。その瞳は、どこか潤んでいた。

　だから、俺は精一杯の笑顔を浮かべて言った。

「悲しい時や辛い時、今の状況が嫌になった時こそ、笑っちまえばいいんだよ。ほら、美優も笑おうぜ！」

「…………ふふ………ふふふ……」

「そうそう。笑っときゃなんでも楽しく思えるだろ？」

「ふふっ、そうですね。さすがお兄ちゃんです。こうやっていつも周りを笑顔にさせて……やっぱり、お兄ちゃんには敵いませんね。」

「ははっ、何に敵わないんだよ。さて、それじゃ気を取り直して……俺は、美優のことを恨んだりなんかしてないから許す許さないなんて関係ないからな。美優が俺の母さんの死をどお思ってるか分からないけど俺は、今も楽しいから大丈夫。母さんがいた時の記憶はあまり覚えてないけどな。だから、気にしないでくれよ。」

「お兄ちゃん………やっぱり、私の初恋の人で大切な婚約者です。」

　俺は、婚約者という単語を聞いて笑っていた口元が引きつった。

「な、なぁ、美優？やっぱり、俺って美優の婚約者ってことになるのかな？」

　俺は、引きつった表情を慌てて戻して精一杯の笑顔で尋ねた。

「………私としては今すぐにでも許嫁の契約をして結婚までずっと一緒にいたいのですが……お兄ちゃんが嫌がることはあまりしたくありませんからね。まずは少しずつ距離を縮めていきたいです。ですので、今日みたいに一緒に出掛けたりしても大丈夫でしょうか？」

「ホッ……ありがとう、俺のことを考えてくれて。そうだな、また遊びに行こうぜ……って、まだ出掛けてから30分も経ってないのに次遊びに行く約束なんか決めて変だな。」

「ふふっ、確かに少し変ですね。でも、私としてはとっても嬉しいのでいいですよ。あ、それとですね1つ言い忘れていましたが………」

　美優は、とてもいい笑顔でさも当然な事のように恐ろしいことをサラッと告げる。

「私以外の女の人とは喋ったり触れたりしたらダメですからね？」

「………………え？」