第55話 無慈悲な一言で俺は………

「…………ん………んん…………」



 目を覚ますとそこは暗く知らない壁だった。



「どこだ、ここ?」



 確か俺、家でアルバムを見て………



「っ!……痛てぇ……あれ、なんだっけ?」



 あれ?アルバムを探していたところまでは思い出せるけどそのあとの記憶が……

 ん〜……全然思い出せねぇ。

 まぁ、思い出せないことは仕方ない。それよりも今の俺の状況を確認しよう。

 俺は、今の状況を確認するためにキョロキョロと周りを見渡す。

 窓から見えるのはキラキラと輝く星々と月。どうやら今は、夜みたいだな。ってか俺、どれくらい寝てたんだろ。

 ………ってここ、まさか、病院?



「また、病院に来てるのか。」



 今年は、よく病院に来るな。

 ってかなんで俺、病院にいるんだ?別に体はどこも悪くないし体調も全く問題ない。

 病院に来る節が思い当たらない……

 まっ、どうせ明日にならば分かるだろ。

 今日のところはもう一度寝るか。



 そして、翌朝。



「ん〜………腹減ったな。………でも、確か病院の飯ってあんまり美味しくないんだよな……」



 今は、午前9時。

 俺の病室には誰も来ないのだが……普通看護婦とかが様子見に来るもんだろ?あれ?違うのか?

 確か前は、見に来てたと思うんだが……

 と、そんなことを思ってると病室のドアがガチャっと開いた。

 音に反射してドアの方を見るとそこには麗華と医者、看護婦がいた。



「よっ、麗華。おはよう。早速で悪いけど何か食べるもんないか?腹減っちゃって。」

「……お………お……」



 ん?なんだ?麗華は、俺の姿を見て固まってる。



「お兄ちゃ〜〜〜ん〜〜〜!!!」

「おわっ!?」



 固まってると思ったら次は、急に泣きながら俺に抱きついてきた。

 医者と看護婦もなんだか慌ててるような感じがするし。



「ど、どうしたんだ、麗華?」

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

「お、おう、だからどうした?」

「うぅ……うわ〜ん!」

「お、おい、ここ病院だろ?そんなに騒いだら周りの人に迷惑がかかるだろ。」

「そ、そうだけどぉ〜……うぅ……」



 麗華は、病院に迷惑がかかると言っても一向に泣き止まない。

 どうしだんだ?本当に。いつもの麗華らしくないぞ。

 前に俺が入院した時は少し涙を零したくらいでこんな大泣きする程じゃなかった。



「麗華、一旦落ち着け。」

「………ぐずっ……うぅ……おじじゅいた。」

「はぁ、全く、こんなに顔をぐしゃぐしゃにして。せっかくの可愛い顔がもったいないぞ?」

「か、可愛い?」

「ああ、可愛いぞ。俺の自慢の妹だ。」

「そ、そっか……えへへ………」



 俺が麗華の顔についていた涙をベットの近くに置いてあったハンカチを使い拭いながらそう言うと麗華は、嬉しそうに頬を緩ませていた。



「えへへ〜………ってそんなこと言ってる場合じゃないよ!お兄ちゃん、具合はどう?どこか痛くない?」

「ん?別に至って普通だが?あ、なんかちょっと体が重くなった感じがするけどまぁ、そこまで気にする必要は無い。」

「そ、そうなんだ……良かった。本当にお兄ちゃんなんだよね。……私の大好きな……お兄ちゃんなんだよね。」

「ああ、俺は、麗華の兄、上ノ原陽一だ!」

「あ、大好きってところはスルーなんだ……」

「なぁ、麗華、今っていつくらいなんだ?俺、家でアルバム探していたところまでは思い出せるけどそのあとの記憶が全くないんだ。それになんで病院にいるのかも分からないし。」

「…………お兄ちゃん、私たちが買い物から帰ったら書物が置いてある部屋で倒れてたんだよ。覚えてない?」

「あ〜、その部屋に行ったのは覚えてる。」

「………お兄ちゃん、アルバムを開けてたんだけど……覚えてない?」

「俺、アルバムを見つけていたのか?全く覚えてないな。」

「そ、そうなんだ………良かった……」



 今さっきから麗華がどことなく俺に隠し事をしているような気がするのだが。



「もういいかな?」

「え?あ、ああ、お医者さんでしたか。すいません、待たせてしまって。」

「も、申し訳ございません!」



 俺と麗華は、医者を待たせてしまったことに謝罪する。



「いえいえ、気にしないでください。妹さん、お兄さんが元気になって嬉しくなったんだから仕方ないですよ。それよりも診察してもいいですか?」

「あ、はい、お願いします。あ、それと俺、どれくらい寝ていたんですか?」



 今さっき麗華に聞いたのだが結局聞き出せなかった。



「約1ヶ月くらいですかね。」

「い、1ヶ月!?そ、それじゃ……まさか……夏休みは………」

「とっくに終わってるよ。」

「なっ!?……………」



 俺は、麗華の無慈悲な一言に呆然としてしまった。



「そんな………俺の夏休みが……あと半月、思いっきり遊んでやるって思ったのに……そのために宿題も早く終わらせて……嘘……嘘だろ………は、ははっ………」

「お兄ちゃん、全部現実だよ。もう、夏休みも終わってるし学校も始まってる。あ、でも、お兄ちゃんが必死になってやってた宿題は、私の方から先生に提出しておいてあげたから。」

「そ、そうか……」



 ああ、俺の夏休みが………

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