第111話 その手は迷うことなく

「次は飯野くんの保護者に質問です。飯野くんの将来の夢はサッカー選手である。マルかバツか。」

「マル。」

「正解!」



 やっぱり、普通の家庭はそういうの分かるもんなんだなぁ。



「次は美優さんの保護者に質問です。美優さんは今、好きな人がいます。マルかバツか。」

「えっと………マル。」

「正解!」



 美優は、学校にも俺のこととか話してるの?いや、まさか、婚約者だなんて教えてるわけじゃあるまいし好きな人ってそういう意味じゃないよな。

 ってか、なんで今さっきから美優はそういう恋愛関係なんだ?



「では、最終問題です。これは2人に質問です。飯野くんと美優さんは、家族のことが大好きである。マルかバツか。」

「……………マル……」

「マル。」



 優奈は、ハッキリと答えたが俺は、今の答えに自信がなかった。だって………あれだもん。

 でも、社交的な美優のことだ。きっと……



「2人とも正解です!さすが、よく分かっていらっしゃる。」



 ほっ、良かった。

 こういうのは肯定していた方が周りからの評価もいいからな。

 こういうことを理解しているってことは美優のことは少しは分かってるってことなのかな。



「それでは質問は以上です。飯野くんとその保護者、美優さんとその保護者を同率1位とします。」



 先生がそう言うとこの競技に参加していない保護者から拍手を送られた。

 するとすぐに1人の先生が美優たちを連れてこっちへやってきた。



「それではこちらへどうぞ。」



 先生はそう言って俺たちをテントまで案内してくれる。



「他のみなさんがゴールするまでこちらへお待ちください。」

「はい。」



 先生は、俺たちの返事を聞いたあと、その場を去った。



「やったな、美優。1位だ。」

「はい、やりました。」



 俺は、屈んで美優に手のひらを出す。すると、美優は俺の手のひらに自分の手のひらを合わせてハイタッチする。



「よく最後の質問分かりましたね。ほかの2問は別として。」

「まぁな。美優の性格とか考えると必然的にああなるよ。」

「ふふっ、よく分かってくれて嬉しいです。」

「でも、ほかの2問はあの問題で助かったよ。何とか答えられた。」

「良かったですね、お兄ちゃん。」



 俺と美優が話していると優奈と飯野くんが俺たちのところへとやってきた。



「よ、陽一くん、いいかな?」

「どうした?」

「えっと………光くん、美優ちゃんと少しあっちに行っててもらえるかな?ちょっと話したいことがあるから。」

「分かった。……って、ことだから、天野、あっち行ってようぜ。」

「……………」



 飯野くんは、少し頬を赤く染めて照れたように頬を掻きながら美優を誘った。

 美優は、飯野くんのその言葉を無視して目を閉じて少し考え込む素振りを見せる。



「お、おい、天野!無視すんなよ!」

「………はぁ、分かった。それじゃ、あっちに行ってよっか。お兄ちゃん、少し離れますね。」

「ああ。」



 美優は、ため息を吐きながら去っていった。飯野くんは、その後を慌てて追いかける。

 俺は、2人をある程度のところまで見送ると優奈の方を向く。



「それでどうかした?」

「えっと……私、話したいことがあるって言ったよね?」

「ああ、分かってるよ。」

「い、今、話してもいいかな?」

「いいよ、いつでも。」

「ありがとう。」



 優奈は、俺にお礼を言うと胸の前に手を置いて深呼吸をする。



「………うん、ちゃんと覚悟は出来た。」

「覚悟?」

「ううん、気にしないで。それでね、話したいことってのは……陽一くん、私が花火大会の後、2人で公園に行って話したこと覚えてる?」

「公園…………あ……」



 それって優奈に好きな人がいるって教えてくれた時か。

 俺は、それを思い出したのと同時にこの競技が始まる前に飯野くんが話していたことも思い出してしまった。


 

『陽一ってどこかで聞いたことのあるような名前だなって思ってたんだけど優奈姉ちゃんの好きな人か!』



「………覚えてるよ。」



 俺は、どんな顔をすればいいのか分からず、顔を背けて優奈にそう返事した。



「確か、優奈に好きな人がいるって教えてくれた時のやつだよな?」

「う、うん…………えっと………それじゃ、光くんが言ったことは?」

「…………覚えてるよ。」

「そ、そっか。…………正直、こんな形で言いたくはなかったんだけど…………」



 優奈は、そこまで言うと再び胸の前に手を置いて深呼吸をする。今度は今さっきよりも長く、深く。

 そして、深呼吸をし終わるとうるうるとした目を俺に向けた。顔は真っ赤で、少し体も震えていた。でも、目を背けたりはしなかった。

 俺は、ドクンドクンと俺の心臓がうるさいと感じるほど、緊張をしていた。なぜこんなに緊張するのか、自分でも分からなかった。



「わ……わた………私………は……陽一くん、あなたのことが……す……す……」



 優奈は、目をカッと開きその続きを言おうとした瞬間だった。



 ピピーッ。



 大きな笛の音が鳴った。



「っ!?」



 優奈は、口を開いたがその笛のせいでビクッと驚いて続きの言葉を飲み込んでしまった。



「………ゆ、優奈?」

「………………」

「優奈?」

「え?あ、うん、ごめんね………えっと……えっと…………」



 優奈の目が今さっきとは違い右往左往している。

 そして、みるみるうちにうるうるとした瞳から涙がぽろぽろとこぼれだした。



「ご、ごめんね……ごめんね………」



 優奈は、涙を服の袖で拭いながら謝り続けていた。

 俺は、無意識に手が勝手に動いていた。

 俺の手は、ゆっくりと、でも、迷うことなく優奈の頭に手を置いた。



「大丈夫だよ。」

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