第3話 幼女の親に会いました

 襖が開き現れたのは





「やぁ、久しぶりだね、陽一君。」




 袴を着て優しそうな顔をしている男の人と




「本当にねぇ。陽一君に会うのはいつぶりかしら?」




 和服姿に身を纏っているとても綺麗な女性だった。

 その女性は、俺の目の前にいる|幼女(いいなずけ)にとても似ていた。




「あ、あの、どちら様でしょうか?」




 俺は、この二人に見覚えはない。

 だが、二人の口振りから面識はあるのだろう。





「まぁ覚えてないのも無理ないね。君に会ったのは君が生まれて間もない時だったからね。」

「あら、もうそんなに経つのね。」





 生まれて間もない時か。そりゃ覚えてないわな。





「で、陽一君は僕たちの娘と許嫁になってもらうって話は聞いたかな?」

「は、はぁ。一応聞きましたが………」

「その様子だと答えは渋ってるようだね。」

「なんと言うか、その、はい、そうですね。」

「ふむ、やはりそうか。」





 二人は、腕を組みながら少し考え込んでいる。





「あの、すいませんがお名前を伺ってもよろしいですか?」






 俺は、まだ二人の名前を聞いてないと思ってそう尋ねた。





「ああ、そうだったね。僕は|武本 和博(たけもと かずひろ)。よろしく。」

「私は、|武本 忍(たけもと しのぶ)。よろしくね。」

「あ、はい。ではこちらも改めて自己紹介を。俺は、上ノ原 陽一。よろしくお願いします。」





 俺は、そう言って頭を下げた。

 二人は、そんな俺を見て笑顔で頷いていた。





「静香、あなたも陽一君に自己紹介をしなさい。」

「嫌です!こんな人と許嫁になるなんて死んでも嫌です!」





 うわ〜、死んでもか〜。酷いな。

 まぁ俺も死んでも嫌だけど!幼女と許嫁になるなんて!




「いいからしなさい。」





 忍さんから放たれる威圧的なものを俺は、感じた。

 う〜、怖い。

 ほら、あの幼女も偉そうな態度からすごいへっぴり腰になってるぞ。





「うぅ、分かりました。|武本 静香(たけもと しずか)。よろしくお願いします。」




 この幼女は、顔を見て挨拶出来んのか!どこ向いてんの?





「はぁ、すいませんね、陽一君。うちの娘照れ屋なものですから。」

「は、はぁ。」






 忍さんがそう言っている間も幼女は、そっぽを向いている。





「母さん、そろそろ帰ろうよ。」

「何言ってんの?」

「え?何その真顔。おかしくないですか?」

「いいから座ってなさい。」





 俺たちがそう話していると、和博さんが口を開いた。





「二人ともまだ全然お互いのことを知ってないからこれを機に話し合ってみようか。ということで僕たちは、違う部屋に行くよ。」

「そうですね、その方がよろしいです。」





 和博さんがそう言うとうちの母さんまで肯定した。

 そして俺と幼女を残してみんな、一瞬で出ていきやがった。





「………」

「………」





 まぁ、二人きりになったらこうなるわな。

 お互い何も喋ることなく時間が過ぎる。

 さすがに居心地が悪いので俺から口を話を切り出した。





「な、なぁ、幼女じゃなくて……」

「誰が幼女よ!さっきも言ったでしょ!私は、もう子供じゃないって!」

「はぁ!?子供だろ!?まだ10歳なんだろ!?」

「それが何よ!年齢がなにか関係あるの!?」

「あるよ!お前、頭おかしいんじゃないか!?」

「誰が頭おかしいよ!?」





 だめだ。こいつとは許嫁以前に仲良くなることすら出来ない。






「お前さぁ………」

「お前じゃない。静香よ。」






 こ、この野郎!





「し、静香さぁ?」

「何?」

「俺が許嫁になるなんて嫌だったんだろ?なら、なんで親にそう言わないんだよ。」

「………だって、そんなことを言ったらお父様にも、お母様にも迷惑かけちゃうもん。」

「子供が迷惑かけるくらい普通だろ?」

「だから子供じゃないって言ってるでしょ!?」





 この子は、あれか。

 お父さんにもお母さんにも迷惑をかけちゃいけないって思ってるのか。






「はぁ、お前バカだろ?」

「だ、誰が馬鹿よ!?」

「お前だよ、お前。」

「だからお前って言うな!」

「静香さぁ?親が子供の言うことくらいで迷惑になると思ってるのか?」

「こ、子供じゃないし……」

「いいや、静香は、子供だ。そんなことも分からないようじゃな。」






 俺がそう言うと静香は、顔を俯けた。





「話し合いは終わりだ。俺から許嫁の件は、やめてもらうように言っておく。」

「………」





 俺は、そう言って襖に手をかける。

 そして襖を開ける前にあいつに向かって一言言っておく。





「気を張るのもいいけど無理しすぎるなよ。あの両親も本音を言ってもらえるほうが嬉しいと思うからよ。」

「っ!………」




 俺は、そう言って部屋を出て行った。

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