第4話 父さんは怖いです
「話はし終わったかい?」
俺が部屋を出るとすぐに案内人役のスーツの男の人が来て和博さん、忍さん、母さんが居る部屋へと連れてこられた。
「はい、話し合った結果、やっぱりどちらも許嫁は無理という結果になりました。」
「ふむ、やはりそうか。」
「やっぱり、兄の方を紹介した方がよろしいですかね?」
「私は、結構陽一君の事気に入ったんだけどね。」
「ああ、僕もぜひ陽一君には娘と結婚式して欲しいのだが。」
何故この2人は、俺を推すのだろうか?
まぁ、考えても仕方ないことだ。
「母さん、そろそろ帰らないと麗華も心配してるよ。」
「ええ、そうね。今日の話は………」
「一旦保留という形でお願いできませんか?」
「はい、ではそれで。」
「え!?ちょっ、なにいって……」
「ほら、行くわよ!」
俺は、母さんから無理やり連れ出され帰宅した。
絶対に行かないからなァァァァァァ!!!
翌日、俺は目が覚めると車に乗せられていた。
「母さん!俺は嫌だって言った……はず……だ……ろ?………っ!!」
母さんは、助手席に乗っていた。
ってことは………
「陽一、大人しく座っていろ。」
「………はい。」
運転席に座って運転していたのは俺の父さんだった。
俺は、それから一言も喋ることなくあの屋敷に着いた。
「おはようございます、秀一さん、楓さん、そして、陽一君。」
「おはようございます、和博さん、忍さん、静香さん。」
どちらとも父親が挨拶を交わした。
ちなみに言ってなかったけど俺の父さんは秀一、母さんは楓という名前だ。
ちなみに静香は、昨日とは違い黒い洋服に身を纏っていた。
「それで陽一君、考えは変わらないかな?」
「………は、はい。」
俺は、父さんの前なのであまり強くは言えなかった。だけど、断るところは断らないといけないだろう。
「陽一、まず何故無理なのか説明してみろ。」
父さんは、俺を睨みつけるようにそう言ってきた。
俺は、そんな父さんに萎縮してしまい声を出せなかった。
「………」
「陽一、黙ってないで何か言え。」
「……お、俺は……」
「まぁまぁ、秀一さん。話は中でしましょう。」
「………すまなかった。屋敷の前でする話じゃなかったな。」
俺たちは、それから中へ通された。
そして、結構広い部屋に案内されひとつの長机にお互いの家が向かい合うようにして座っている。
「陽一、さっき言った通り、説明してみろ。」
「………はい。理由は二つあります。一つは、さすがに10歳の子供と結婚とかは考えられません。二つ目は、もし、本当に結婚するのなら俺なんかよりも絶対に兄さんの方がいいに決まってるからです。」
俺は、許嫁を断る理由を二つ述べた。
だが、父さんは俺のその説明に頷くどころかさらに重い声でこう言ってきた。
「陽一、それはお前が考えていることに過ぎない。お前が6歳下の女と結婚したところで周りがどう見るかなんかお前が分かるようなことじゃない。」
「………」
俺は、歯を食いしばりながら俯いていた。
「もう一度よく考えろ。この話を本当に断るなら俺に納得のいくような説明を俺にしてみろ。」
「………はい。」
それからは、あとは俺はずっと黙っていた。
父さんは、いつも怖くて逆らえなかった。
そしてまた、俺と静香で話し合う時間を設けられた。
「………」
「………」
やはりというか、この場に沈黙が訪れた。
昨日は、俺から声をかけたが今日は声をかける気力がない。
「………あんた、お父さんの前じゃあんなに弱気なのね。」
「っ!……まぁな。」
まさか、静香の方から声をかけられるとは思ってもいなかったので少し驚いた。
「昨日、私にはあんなこと言っといた癖に。」
「そうだな。」
確かにそうだ。
昨日俺は、偉そうなこと言っておきながら父さんの前ではこんな弱いなんて……ダサいな。
「悪かったよ、昨日はあんなこと言って。」
「ふん!別にいいわよ。気にしてないし。」
「そうか。それなら良かった。」
「………あんた、本当に元気ないわね。」
「まぁな。」
「………はぁ。そんなにお父さんが怖いの?」
「ああ、怖いよ。」
「情けないわね。」
「全くだな。」
本当に情けない。
多分今の俺、酷い顔してるんだろうな。
「そんなに元気がないんじゃ今日は、話なんてできなさそうね。どうせ明日も来るんでしょ?また明日話しましょ。」
静香は、そう言って部屋を出て行った。
その後、俺は和博さんと忍さんに挨拶をしてから家に帰っていった。
もちろん、車の中では一言も喋ることは無かった。
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