第134話 止められない
「……あの、お話があります……」
俺は、改まって2人にそう告げた。
2人も俺の表情を見て真剣な話だと悟ってくれたらしく姿勢を正した。
でも、表情はいつもと変わらず……いや、いつも以上に穏やかな雰囲気を醸し出している。恐らく俺が緊張しないようにしてくれてるんだろう。
そして、お義父さんが優しい声で先を促してくれた。
「うん、なんだい?」
「………俺、彼女が出来ました。」
2人のおかげで俺は、だいぶ平常心を保てたまま声を出すことが出来た。
だけど、さすがにその後が怖い。
2人にとって、美優は大事な娘なのだ。
俺は、その娘に対して裏切るような行為をしたんだ。
きっと俺が親ならそんなやつ、許せるわけが無い。
だから俺も許されないだろう。どれだけ責められても受け止めるべきだ。
そう思い俺は、膝の上で拳をぎゅっと握った。
「…………そうなんだ!おめでとう!」
「…………え?」
「相手ってやっぱりあの優奈ちゃん?」
「……え?あ、は、はい……」
「やっぱりねぇ!美優の運動会の時、結構仲良さそうにしてたでしょ?」
「見てたんですか!?」
「美優を見てるんだからもちろんすぐそばにいる陽一くんも見えるよ。」
「確かに………って!そうじゃなくて!」
俺が目を見開き驚いていると2人は、首を傾げていた。
「ん?どうしたの?」
「………え?ど、どうしたのって……お、俺!美優との婚約を裏切ったんですよ!?それをなんでこうも平然と………」
「ははっ、何を言ってるんだい?陽一くんは。」
俺が自分のした事を告げると2人とも、笑っていた。
「……な……なん……で……」
俺は、なんで平気そうな表情で笑っていられるのか分からず取り乱してしまった。
でも、2人は特段慌てる様子などなかった。怒っている様子もない。ずっと嬉しそうに笑っている。
「………なんで怒らないのかっていう表情だね。」
「っ!……はい。俺がしたことは到底許されるべき行為ではないと思うんです。それでなんで……笑っていられるんですか?」
「……そんなの簡単だよ。」
「私たちにとって美優の幸せはとても大事なもの。でも、陽一くん、あなたの幸せもそれと同じくらい大切なのよ。だからね…………」
お義母さんは、そこで言葉を止めて立ち上がり俺に近づいたと思ったら俺の頭を優しく包むように抱きしめて撫でてくれた。
「っ!お、お義母さん!?」
「自分を追い詰めるのは陽一くんの悪い癖よ。あなたの嬉しい出来事は私たちにとってもとても嬉しいことなの。」
「っ!………」
俺は、まさかそんな優しい言葉を言ってもらえるなんて思ってもいなかったので思わず泣いてしまった。
涙を拭っても拭ってもどんどん溢れ出して来る。
「なんで……俺……泣いてんだよ……」
「…………陽一くん。」
俺が涙が止まらないことに戸惑っているとお義父さんも近づいてきて優しい声で名前を呼んでくれた。
「君はきっと自分の弱いところを見せないようにしていたんだろう。でも、君を変える出来事があってそれで君は弱さもほんの少しずつだけど見せ始めた。その証拠が今、泣いているってことだよ。」
「っ!」
俺は、優奈、麗華、それに静香と一緒に支え合えるようになろうと約束した。
それがきっとお義父さんの言っていたことなんだろう。
「あ、でも、言っておくけど泣くことは弱さの証明じゃないよ。弱さなんて言ってたけど本当はこの言葉が言いたかったんだ。涙を流すことは自分というものをちゃんと理解しているということ。悲しいこと、悔しいことがあっても泣かずにいることは自分を大きく見せたいだけだよ。そして、そんな感情から逃げる。きっとそれこそ自分が弱いってことを証明しているんだろうね。」
「そうよ、陽一くん。あなたは弱くなんてないわ。そもそも、その事を教えてくれた時点であなたは十分に強い人よ。だからこそ、私たちはあなたを応援するのよ。」
「っ!………ありが……とう……ございます……」
もうこの涙は絶対に止めようと思っても止められない。
この2人には本当に感謝の言葉しか出ない。俺をここまで支えてくれて……それに俺の事を理解してくれた。
俺は、それから涙が止むまで2人に子どものように優しくしてもらいながら感謝の言葉を述べ続けたのだった。
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