第117話 壊れる音が聞こえる
「…………陽一くん、私との約束はどうなるの?」
俺の歩みを止めた優奈は、真剣な目付きでそう言った。
「優奈との……約束?」
俺は、そんな約束、全く身に覚えがなく首を傾げる。
「約束したよ。ずっと前。私と陽一くんが幼稚園にいた時。」
「…………どんな約束?」
俺がそう聞くと優奈は、目を閉じて再び目を開けるとゆっくり口を開いて言った。
「………私と結婚してくれるって約束。」
「っ!」
「私、昔からずっとずっと陽一くんのことが好きで……それでちゃんと聞いたよ。大人になったら私と結婚してくれる?って。そしたら陽一くん、いいよって言ってくれた。」
おいっ!昔の俺!何でもかんでもOKしすぎだろ!
「ねぇ……陽一くん……私の約束はどうなるの?」
「それは…………」
俺は、どう答えるべきか分からなくなり声が出なくなる。
こんなに結婚の約束をしていた自分を恨みたくなる。
実際優奈と結婚出来るなら俺だってしたい。だが、現実はそう甘くないという言葉の通りそう簡単には事は運ばない。
「ごめん………」
「っ!……どうして…………どうして!?」
俺の告げた言葉に優奈は、少し声を荒らげる。
でも、優奈は、そんなことをお構い無しに声を荒らげたまま続けた。
「どうして!?なんで7歳も歳が離れた女の子が良くて私がダメなの!?ねぇ!陽一くん!」
「……………ごめん……」
「っ!私は、謝罪が聞きたいんじゃないよ!どうして私がダメなのかを聞きたいの!私の方が先に約束してたよ!私の方が陽一くんのことずっと好きだよ!大好きだよ!なのに………なのに………なんでダメなの!?」
優奈の一言一言が胸に刺さる。
実際悪いのは俺だ。
優奈との約束を忘れ、ほかの女の子と結婚の約束をしてしまった。そして、俺は今日までずっとその約束を思い出すことなく優奈と過してきて7歳も歳が離れた許嫁を作った。
だから、今の俺に出来ることは………
「…………ごめん………」
謝ることだけ。
「っ………バカっ!」
「つっ!」
優奈は、俺を突飛ばすと走って門の方へと走り去ってしまった。
その場に残されたのは俺だけ。
周りには人は全くいなかった。恐らく全員帰ったのだろう。
たった1人、残されは俺はどうしたらいいのか分からずその場から動かなかった。いや、違う。動けなかった。
身体中が全て凍ってしまったのではないかと勘違いしてしまうほどだった。
雨でも降ったのだろうか。俺の頬に水がすっーと伝っていった。
それが口の中に入るとしょっぱいということは理解出来た。
雨ってこんなしょっぱかったのか。
それと………ほんの少しだけ苦い。
「………俺………やっぱりダメだな。」
17歳の俺は、今分かった。まだまだ子どもでなんの責任も負えない、弱い人間なんだってことを。
許嫁が出来たからって、1人好かれたからってそれは何も変わらない。
父さんの言う通り俺は、まだまだ子どもなのだ。
それが分かった瞬間、何か音がした。
ガラスが割れる音。そんな音だった。
でも、この近くにガラスなどない。
「………ああ、そうか………この音は………」
俺は、胸のところの服をぎゅっと握り締めそう呟いた。
「……………………心が壊れる音ってこんな音なんだな。」
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