第64話 父さんはあまりにも強すぎて

「……う……くぅ……」



 俺は、今、膝をつき全身が痛むのを堪えている。

 父さんに殴り合いを挑むなんてまず無謀だ。だけど、俺は今、そんな無謀なことをやってるんだよな。

 ははっ、いつから俺、こんな熱血キャラになったっけ?

 どうしたんだよ、静香。そんな不安な顔して。

 俺は、まだまだ全然やれるぜ。

 俺は、そう思い激痛で痛む体を無理やり動かして立ち上がる。



「ほう、まだ立ち上がるか。」

「は、ははっ、まだまだ……これからだ……」



 俺は、そう言って父さんに再び殴りかかる。

 すると父さんは、そんな俺の拳を軽く躱して逆に俺の腹に重く殴りかかる。



「がはっ……ゲホゲホ……」



 俺は、また膝をついて咳き込む。



「っ!秀一さん!さすがにそれはやりすぎです!」



 静香は、そんな俺を見てもう止めろと父さんに口論する。



「……これは、男と男の勝負だ。どちらかが諦めるまでは続ける。」

「っ!……あんた!もう諦めなさい!秀一さんに勝てるはずがないわよ!」



 静香は、父さんに言っても無駄だと思ったのか次は俺の方に諦めるように言ってきた。



「……ま……まだ……だ……くっ!……俺は……まだやれる!」



 俺は、そう言ってまた立ち上がる。

 正直もう視界が揺らいで上手く焦点が合わせられない。体もめちゃくちゃ痛いし止められるものなら止めたい。

 だけど、父さんも言った通り俺が始めた勝負だ。俺が諦めるわけにはいかねぇんだよ!

 俺は、今度は殴りかからず父さんを睨む。



「………ふっ……」



 なっ!?い、今、父さん、笑った?

 一度も笑った顔など見たことないのに……そんなに俺が必死になってる姿がおかしいのかよ!

 俺は、イラついて父さんへと歩み寄る。



「お前がそこまで動く理由は分からないが……認めよう。お前が相当バカだってことを!」

「くっ!……うぉぉぉぉぉおおおお!!!」



 俺は、殴る……と見せかけて蹴りを父さんの腹へと攻撃を仕掛ける。

 だが、父さんは、そんな俺の足を簡単に掴み握る。



「っ!くそっ!」



 俺は、足を握られたまま殴りかかるが足を持ち上げられバランスを崩してしまう。そして、そんな俺の右頬な強烈で重い拳が飛んでくる。

 俺は、それを避けることが出来ず完璧に当たりそのまま吹っ飛ぶ。



「……く……くそ………」



 俺は、まだ立ち上がろうとするが体に力が入らず立ち上がることが出来ない。

 さらに意識もだんだん薄くなっていき目の前が暗くなる。



「ちょ!さ、さすがにやり過ぎです!秀一さん!」



 意識が遠のく時に静香の声が聞こえた。

 全く、最後まで静香に心配されるなんて……恥ずかしいな……

 そして、俺は、完全に意識が吹っ飛び気絶した。



「…………ん………んん………ここ……は?」



 目を覚ますとそこには辺り一帯草原で太陽の光がサンサンと降り注いでいるところに俺がぽつんと一人で立っている。



「ここ……どこ?」



 俺は、確か父さんと殴り合いの勝負をして負けてそれで気を失って……あ、もしかして……

 俺は、思いっきり自分の頬を引っ張る。



「………痛くない………ってことは夢だな。」



 この感覚は、何度か過去の夢を見た時の感覚に似ていたから俺はすぐに夢だと気づいた。



「……ってことは、どこかに昔の俺が………あ、居た………」



 少し遠くに10歳頃の俺と3歳くらいの幼女が一緒に遊んでいた。



「お兄ちゃ〜ん!こっちこっち!早く〜!」

「ははっ、待てって!……っておわっ!?」

「お兄ちゃん!?」



 あの2人は、追いかけっこをして楽しそう遊んでいた。だけど、途中で幼い俺がなにかに躓いて転んだ。

 幼女は、そんな俺を心配して急いで俺のところまで来た。



「大丈夫!?お兄ちゃん!」



 幼女は、心配そうに幼い俺を見下ろしている。すると幼い俺は、思いっきり目を見開いて幼女の両脇に手を伸ばし持ち上げる。



「はい、捕まえた!」

「え?……あ〜!ずるい!お兄ちゃん!」

「ふふふ、こうやって頭を使うのも戦略の一つだよ。」

「むぅ〜!じゃあ、今度はお兄ちゃんが逃げて!私が捕まえる!」

「ははっ、分かったよ。でも、???に俺を捕まえられるかな?」

「絶対捕まえるもん!」



 あの2人は、また追いかけっこを始めだした。

 その様子は、すごい楽しそうだ。

 でも、やっぱりあの幼女の名前を幼い俺が言った時に変なノイズみたいな音が入って聞き取るのを邪魔をする。

 なんでそんなことが起こるんだ?

 俺は、そんな疑問を抱きながら楽しそうな2人を見ていた。

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