第88話 ここに来て良かった

「それじゃ、話も終わったことだし陽一くん、美優、2人でお風呂に入ってきてね。」

「…………………はい?」

「はいっ!」



 え、お義母さん、なにいってるの!?

 それに美優もなんで目をきらきらさせていい返事してるの!?



「え!?ちょ、ま、待ってください!?な、なんでお風呂!?」

「だってもう、こんな時間だし帰らせるわけにはいかないわよね。」



 俺は、そう言われ時計の針を見てみるといつの間にか10時をすぎていた。



「も、もう、こんな時間!?」



 な、なんか、この家に来てから時間感覚がだいぶズレてる気がする。正直まだ、8時くらいと思ってたんだけど。



「で、でも、やっぱり俺、帰りますよ!泊めてもらうわけにもいきませんし。今ならまだバスも電車も動いてると思うし。」

「ダメです!夜の外は危険がいっぱいなんですから!」



 俺が立ち上がろうとすると美優が俺の手を引っ張り阻止した。



「そうよ、男の子だからって油断しちゃダメなんだから。ほら、素直にお風呂に入りなさい。」

「い、いや、でも………」

「陽一くんは、諦めが悪いな〜。まぁ、それも昔と変わらないが。遠慮せずに泊まっていきなさい。私もまだ話したいことがあるからな。」

「う、うぅ………」



 なんか、ここまで言われたら断ることは難しそうだ。



「分かりました。」

「やりました!それじゃ、お兄ちゃん!お風呂に行きましょ!」

「いや、ちょっと待て。なんでお義母さんの話を素直に受け入れて2人でお風呂に入ろうとするんだ?」



 泊まるのは仕方ないとしてさすがに2人でお風呂に入るのは無理だ。親からOKを貰ったとしても無理だ!



「親の言うことを守るのは娘の義務です!ですので早く!」

「親の言うことばかり信じてちゃ1人になった時何も出来なくなるぞ!」

「私にはお兄ちゃんがついてるから大丈夫です!」

「俺はなんでも出来るロボットじゃないぞ!」

「ロボットだってなんでも出来ませんよ!」



 俺と美優は、少しの間口論する。ってか、なんだか話がだいぶ変な方向へ行ってる気がする。



「ほら、2人とも、その辺でやめなさい。さすがにいきなり2人でお風呂に入ってというのは無理があったわね。」

「いや、これからも無理ですから。」

「美優、変に期待させてごめんね。陽一くん、1人でお風呂に入ってきて。何かわからないことがあればあったら言ってちょうだい。あ、着替えは夫のものを使ってもらうけどいい?」



 なんか、俺の言葉をスルーされた。



「は、はい、大丈夫です。」

「それじゃ、お風呂に入ってきて。着替えは私が後で用意するから。」

「分かりました。では、ありがたく使わせてもらいます。」



 俺は、一礼してから浴場に向かおうとした………が場所が分からないので俺の着替えを取るついでにお義母さんに案内してもらった。



「あ、そういえば麗華にまだ連絡してなかったな。」



 俺は、ラインを使い麗華に今日は友だちの家に泊まると伝える。

 俺がラインするとすぐに返信がきた。



『そういうことは早く言って!』



 結構お怒りの様子だ。帰ったらどうなることやら。

 俺は、そんなことを思い苦笑しながらスマホを置き服を脱いだ。

 そして、そのまま浴室に入り髪と体をサッサっと洗い湯船に浸かった。



「ふぁ〜、気持ちいい〜。」



 我ながらジジ臭い声を出してしまったと思うが仕方ない。だって、このお風呂広すぎるんだもん。今俺が入ってる状況で後、大人3人くらいは余裕で入りそうだもん。



「はぁ〜、なんか、色々と話してもらったなぁ〜。」



 今日1日で過去のことを色々と聞いた。昔の生活のこと、母さんのこと、他にもたくさん聞いた。やっぱり、今日ここに来て良かった。素直にそう思える。



「………でも、何も感じないんだよなぁ〜。」



 美優たちから過去の話を聞いても俺には何もなかった。母さんの死んだことについてだけは頭痛が起きたが。

 美優やお義母さんと初めて会った時は、頭痛が酷かった。きっとそれは記憶が戻ろうとしてるから。



「……話を聞くだけじゃやっぱりダメみたいだな。」



 なにかもっと記憶に繋がりのあるものを見つけないといけない。



「お兄ちゃん、着替えここに置いておきますね。」



 浴室の向こうから美優の声が聞こえた。



「ああ、ありがとう。美優が持って来てくれたんだな。」

「はい………少しお兄ちゃんとお話がしたくて……」

「話?今、ここで?」

「いえ、別に今でなくてもいいんですが……2人で話したいことなんです。」



 美優の声から真剣さが見える。一体どんな話だろう?



「………ここじゃ、あれだからお風呂に上がってからでいいか?美優の部屋で話せば2人だろ?」

「そうですね。それじゃ、私は部屋で待機してますね。」

「ああ、ありがとう。」



 俺は、真剣な話なら俺もしっかりと話を聞かなくちゃいけないと思い風呂から上がることにした。

 それから俺は、お風呂から上がり濡れた体や髪を拭いて用意された着替えを着て最後に髪を乾かすためドライヤーをかけて美優の部屋へ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る