第89話 まだ子どもなんだから

「美優、入っていいか?」



 俺は、風呂から上がったあと、美優が待っている部屋へと向かいノックする。



「どうぞ。入ってきてください。」



 俺は、美優の返事を聞き部屋の中へと入った。



「お兄ちゃん、別にノックなんてしなくていいんですよ?」

「さすがにそれはマナーとして出来ないよ。」

「ふふっ、お兄ちゃんらしいですね。」

「それで話って?」



 俺は、早速話を切り出す。



「………お兄ちゃん、今日はわざわざこの家に来てくださってありがとうございました。」

「別にお礼とか言わなくていいよ。俺も来て良かったと思ってるから。」

「そうですか……なら、良かったです。」



 まぁ、さすがに泊まることになるとは思わなかったけど。



「お兄ちゃんにはたぶんこれから色々と迷惑なことをかけるかもしれませんが……どうかこれからも付き合ってもらえないでしょうか?」



 美優は、今にも泣きそうな顔でそう言ってきた。美優が今1番怖いのはきっと俺に嫌われることなんだろう。美優は、少し大人っぽいところがあるからな。迷惑を掛けたら俺に嫌われると思ってるんだろう。

 俺は、美優の頭を優しく撫でてこう言った。



「大丈夫、美優。俺、迷惑をかけられたくらいですぐに嫌いになったりしないから。というよりも美優は、まだ子どもなんだ。わがままをいっぱい言ってくれ。」

「お兄ちゃん………」



 美優は、ゆっくりと俺に近づきギュッと俺に抱きついてきた。



「お兄ちゃんがそう言うならわがまま言いますよ?」

「ああ、言ってくれ。」

「私、もう運動会の件でわがまま言ってるのにまだ言ってもいいんですか?嫌いになりませんか?」

「嫌いになるわけないだろ。ほら、なんでも言ってくれ。」



 美優は、そう言うと俺の胸に顔を埋めた。



「………では……私が寝るまででいいのでずっとこうして離れないでくれませんか?ようやくお兄ちゃんと出会えたので少しでも離れるとまたどこかへ行っちゃうと思って不安になるんです……」

「大丈夫、俺はどこにも行かないよ。……あ、でも、美優、お風呂はどうするんだ?」

「そういえば入ってませんでしたね。……お兄ちゃん、一緒に……」

「さすがにそれは無理かな。」

「むぅ〜………仕方ありません。すぐに入ってきてまた甘えるとします。」

「ああ、それだったら構わないぞ。」



 美優は、俺の返事を聞き嬉しそうな表情で部屋を出て行った。



「………………」



 女の子の部屋に1人ってのはなんだか落ち着かないな。

 優奈の部屋でも静香の部屋でも1人になったことは無かったし。

 と、そんなことを考えていると扉の方からノックする音が聞こえた。



「陽一くん、ちょっといいかしら?」



 声の主は、お義母さんだ。



「あ、は、はい。美優は、いませんけど大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。陽一くんとちゃんと話したいことがあってね。夫とも一緒に話したいからリビングに来てくれる?」

「はい、わかりました。」



 俺は、お義母さんにそう言われ美優の部屋を出てから一緒にリビングに向かう。

 そして、リビングに着くと今さっき食事したテーブルにお義父さんが座っていてその隣にお義母さんが座った。



「陽一くんも座ってくれ。」



 お義父さんから向かい側の席に座るように促される。

 俺は、それに従いお義父さんの向かい側の席に座る。



「………それで話したいこととは?」



 俺は、ここに呼ばれた理由をまず聞くことにした。

 すると少しの沈黙の後、お義父さんの方が口を開いた。



「………それなんだがな……陽一くん、君は美優とどんな約束を交わしたか覚えているかい?」

「約束……ですか?」

「ああ、確かあの約束は君のお母さんが亡くなる一週間前にした約束だったね。」

「…………それってもしかして………婚約のことですか?」

「それは覚えていたのかい?」

「いえ、これも夢で……それと美優から何度も言われましたからね。」



 俺は、そこまで言うと少し苦笑する。

 だが、お義父さんたちはあんまり表情は変わらなかった。



「陽一くん、正直に言ってくれ。本当に美優との結婚を考えているのかい?」

「それは…………」



 考えたことは無いといえば嘘になる。静香の時に1回考えさせられたからな。

 でも…………やっぱり親としては年の差という理由で反対するんだろうな。静香の親は結構グイグイ来てたけど。



「………考えたことはあります。」

「っ!そ、そうか!」

「は、はい………でも、やっぱり無理ですよね?」



 俺は、2人の顔色を伺うようにしながらそう言った。俺の予想では難しそうな顔をされて俺の言葉に「ああ、そうだな。」って返ってくると思ったんだがなぜか2人は今さっきとは打って変わって嬉しそうにしている。



「あ、あの………」

「陽一くん!ぜひともうちの娘を幸せにしてくれ!」

「……………………………え?」

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