第120話 心配してるんだから
静香によると俺が倒れてから約2日経ったらしい。
今静香は、和博さんに俺が目を覚ましたことを伝えるために部屋から出ていったところだ。
なので俺は今、部屋の中で1人っきり。
そうなると嫌でも考えてしまう。
優奈とのこれからを。
きっとまたギクシャクしてしまいそうだ。前は、なんとか話せるようになったが今の俺にはきっと前のように戻るのは無理だろう。
あんなに酷いことをしてしまったし俺に許嫁がいるってことも教えてしまったから。
このまま一生優奈と離れ離れになってしまうと考えると頭が痛くなる。
夢の中で思ったこと。
『好きになんかならなかったらよかった』
そんな思いが頭の中をぐるぐると掻き回す。
優奈と一緒にいて辛かったことなんてなかった。いつもお互いが支え合っていたから。俺が辛そうにしてると優奈が支えてくれて優奈が辛そうにしてると俺が支えてあげる。そんな関係だったからこんなことになってしまった場合の解決方法を知らない。
俺は、どんな顔をして優奈に会えばいいのか分からない。
でも、決めたんだ。
もう逃げないって。
このままだときっと太輔、康介、麻美、みんなの関係を崩してしまう。せっかく築いてきた関係を俺たちのせいで壊したくない。
という理由もあるのはあるのだが俺の中ではそれは2番目だ。
1番の理由は俺が優奈とまだ一緒にいたいと思っていることだ。
好きになんかならなかったらよかったとは確かに思った。でも、それは思うだけでやっぱり俺は、優奈のことが好きなんだ。
ずっと好きだったんだ。幼い頃からずっとずっと……
「だから………もう逃げないって決めたんだよ。」
俺は、心の中の思いを口からこぼしてしまっていた。
俺の想いを伝える覚悟は出来ている。
でも、伝え方がわからない。
どう伝えたらいいんだ?というよりも今のままでいいのか?まだ美優との関係が曖昧としている今でも。
そんなことを考えていた時だった。
襖が開かれ静香と和博さんが入ってきた。
「良かった、陽一くん。無事目が覚めたみたいだね。」
和博さんは、俺が無事でいることを確認するとホッと息を吐く。
「はい、お騒がせしてしまいすいません。」
俺は、心配させてしまい申し訳ないと思い布団から出て立ち上がり頭を下げた。
「陽一っ!ダメよ、まだ布団から出たら!」
するとすぐさま静香に怒られてしまった。
「ご、ごめん。」
「あはは、さすがは静香。もう既に陽一くんを尻に敷いてるな。」
「し、敷いてませんっ!」
「あはは……でも、本当に元気になってくれて良かったよ。ほら、僕のことは気にせず静香の言う通りに布団に入って休んでいてくれ。まだ完全に完治したかは分からないからね。」
「は、はい、それではお言葉に甘えて。」
俺は、言われた通りに布団の中に入った。
「………それで……聞いていいのか分からないんだけど……陽一くん、何かあったのかい?」
「え?何がですか?」
「いや、何がって………えっとね、君を医者に見てもらうためにここに呼んでもらったんだ。一応その医者は結構な名医でね。その医者は君を見てこう言ったんだよ、病気や風邪ではないけどストレスや不安、そんな負の感情が混ざり込んでいて危険な状態だって。」
「……………そう……なんですか。」
「その様子だと心当たりがあるみたいだね。」
和博さんは、少し神妙な面持ちで俺を見ていた。
なんて言えばいいんだろう。
好きな女の子と喧嘩?みたいなことをして自分を卑下してしまってこうなってしまったってことを言うのか?
でも、嘘なんてつけない。この人たちには返しても返しきれない恩があるんだから。
「………まぁ、無理に話して欲しいとは言わない。今、その医者に来てもらってるからその時、ゆっくりと心を落ち着かせてね。」
「はい、ありがとうございます。」
「それじゃ、僕は医者が来た時のために準備しておくね。陽一くんはしっかりと休んでおくように。静香は、陽一くんのそばにいてあげてね。」
「はい、分かってます。」
和博さんは、静香の返事を聞くと部屋から出ていった。
「本当にごめんな、心配かけて。」
「本当よ。あんた、一体どれだけ私に心配をかけるつもり?」
「悪いとは思ってます。」
「全く………それで何があったのか……私にも言えないの?」
静香は、ため息を吐いた後、少し怪訝そうな表情で俺を見てきた。
「いや……言えないというかなんというか………こんな理由で心配をかけてしまって申し訳なさ過ぎて………」
「…………なら、私に言ってみなさい。あんたの友人である私が直々に聞いてあげるんだからありがたいと思う事ね。」
「………いや、本当にくだらない理由だよ?本当の本っ当にくだらない理由だからな!?」
「いいからっ!早く言いなさい!」
俺がなかなか言わないのに腹を立てた静香が鬼の形相で怒鳴ってきた。
「……………心配してるんだから………早くいいなさいよ…………」
でも、その後、すぐに目を逸らして耳まで真っ赤にしてから聞こえるか聞こえないかの声でそんな可愛らしいことを言ってきた。
そんなことを言われてしまったのでさすがに腹を括り俺は、今までに起こったことを素直に話すことにした。
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