第66話 君に嫌われたくなくて
「あいたたた………」
俺は、今、激痛に耐えながらトイレへと向かっている。
「くぅ……歩くことがこんなに苦痛とは……」
「はぁ、あんまり無茶しないでよね。」
静香は、俺のサポート役としてついてきて行くれている。
さすがに身長差がありすぎるので肩を貸してもらうとかは出来ないが体を少し支えてくれている。結構それだけで変わるものだ。
「ほら、着いたわよ。」
「ありがとう、ついて来てくれて。助かったよ。」
「べ、別にいいから!早くして!」
静香は、照れを隠すようにふんとそっぽを向いた。
「じゃ、すぐに済ませるな。」
「い、いちいち言わなくていいわよ!」
俺は、静香の反応を楽しむとトイレへと入った。
そして、そこで出したいものを出してスッキリした顔でトイレを出た。
「いやぁ〜、スッキリした。」
「早く手を洗って。」
俺は、静香に指示されたように近くにあった洗面所で手を洗う。
そして、タオルを取ろうとした瞬間、隣にいた静香がハンカチを差し出してきた。
「はい、これ貸してあげる。」
「ん?あ、ああ、ありがとう。」
俺は、一瞬なんでタオルがあるのに?と思ったがせっかく静香が貸してくれるんだから使わせてもらおう。
そして、俺は、静香から借りたハンカチで手に付いていた水気を軽く拭き取る。
「ありがとう、静香。………洗って返さた方がいい?」
「ここは家なんだから別にいいわよ。ほら、早く返して。」
「ははっ、確かにそうだな……って、いてて。」
「全く、何してるのよ。」
俺は、少し笑うと腰に激しい痛みが来た。
静香は、そんな俺を呆れたように見たがすぐに俺を支えるために手を差し伸べてくれた。
「いつも悪いねぇ……」
「それは言わない約束よ……って、何言わせるのよ。」
「別に言ってくれって頼んでないし。」
「ふんっ!」
静香は、怒ったのかそっぽを向く。だが、手だけはしっかりと力が入っておりしっかりと俺を支えてくれていた。
「ごめんな。」
「ふんっ!知らない!」
静香は、明らかに怒った様子だったがその後は、いつも通りに俺と接してくれた。
まぁ、いつもが怒っているようなもんだけど。
俺は、部屋に戻った後、ベットに座る。
静香は、部屋から出ていこうとはせず部屋に置いてある椅子にちょこんと座って黙っている。
「そういえば俺、静香のランドセルをかるってる姿を見たことないんだよな。」
「………何よ、唐突に。」
「いや、なんだか少し気になってな。まぁ、こうやって静香の家で2人っきりになるのも久しぶりだしな。」
「………まぁ………そうね………とは言っても見せないわよ。」
「え〜、なんで〜。」
「だって…………あんたには子どもだって見られたくないし。」
静香は、また最後の方だけゴニョゴニョと言う。
まぁ、本人が嫌って言うならあまり強引に頼むのも悪いか。
嫌われたくないしな。
……………って、あれ?俺、静香に嫌われたくないのか?
いや、まぁ、人に嫌われるのは嫌だよな。うん、そのはず。静香が特別なんかじゃない………と思う。
と、そこで部屋の扉がノックされる。
俺は、返事をするとゆっくりと扉が開かれる。
「陽一様、お迎えが来られました。」
「あ、はい、ありがとうございます。」
部屋へやって来たのはこの家の給仕をしている女性だった。まぁ、さすがにメイド服とかではないけど。
「…………もう帰るのね。」
静香は、寂しそうにそうぽつりと呟く。
恐らく静香は、そんなことを言った自覚がないのかずっとボッーとしている。
俺と給仕の女性の人は、静香を見つめる。すると、静香は、俺たちの視線に気づいた。
「どうしたのよ、あんたたち。そんな顔して…………って、も、もしかしてわ、私、今、なんか変なこと言った?」
静香は、ようやく自覚してきたのか頬を真っ赤にして俺たちに尋ねる。
すると給仕の女性の人が口を開く。
「はい、とても儚げな顔でもう帰るのね、と仰っていました。」
給仕の女性は、なんの声色も変えずに淡々とそう言う。
そして、静香は、ようやく自分がそんなことを言ってしまったと自覚して顔を真っ赤にして慌て始めた。
「なっ!………ち、ちが!違うのよ!別にあんたが帰るから寂しとかそんなこと、全然思ってないんだからね!」
静香は、どんどん顔を赤くしていきながら大声でそんなこと言う。
というかめちゃくちゃ墓穴を掘っている。静香もその自覚があったのかさらに顔赤くさせてもう耳まで真っ赤だ。
「にしし、なんだ、静香?そんなに俺と一緒に居たいのか?」
「〜っ!違うわよ!」
俺は、わざと挑発するようにそう言った。
まぁ、俺の想像通りの静香の反応が返ってきて良かったわ。
「それじゃ、そろそろお暇しようかな。静香、また来てもいいか?」
「え……べ、別に!好きにすれば!」
「ははっ、そうだな。じゃ、またいつか来るよ。」
俺は、そう言って静香の頭を撫でる。
静香は、顔を真っ赤にして何か色々と言ってきたものの俺の手を振りほどこうとはしなかった。
逆に俺が手を離す時には少し寂しそうな表情をしたものだ。
「いつか、この恩は返すな。」
「ふんっ!当然よ。」
「ははっ、それならまたそう遠くないうちにこの家に来ないとな。」
俺は、そう言って立ち上がる。その際、痛みが体に走り少しよろめいてしまった。
だが、すぐに静香と給仕の女性の人が俺を支えてくれた。
俺は、そんな2人に感謝をしつつ玄関にあった家の車に乗り込む。
車には母さんが運転席に乗っていた。
さすがに父さんは居ないようだ。
まぁ、あんな後だから当然か。
それから俺は、母さんにあれこれ言われながら家へと帰って行った。
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