第67話 妹とお茶を

 今は、静香の家を出て母さんが運転する車で帰宅中。



「全く、あんたは……父さんに勝てるわけないでしょ。」

「分かってたよ。でも、少しくらいは父さんと本気で向き合ってみたかったんだよ。」

「はぁ……全くあんたは……それなら、他所の家に迷惑かけないようにしなさい。」

「うっ!そ、それは……考えてなかった。」

「それと家のこともしっかり考えなさい。昨日、すっごい大変だったのよ。」

「ん?何かあったの?」

「麗華がもう大変だったわ。」



 母さんは、引きつった笑みを浮かべてそう言った。



「麗華が?」

「まずは、あんたが全く帰ってこないから心配して家中を右往左往。そして、家の扉が開いたと思ったらそれはあんたじゃなくて父さんだった。それから事情を説明してもらって……あんたを殴った父さんに麗華は激怒。今は、親子喧嘩中よ。」



 わぁ〜……なんか想像できるわ。

 なるべく早く麗華に会ってあげよ。

 俺は、麗華のことを思いながら家へと帰るのだった。

 そして、数十分後。ようやく家に着いて家の扉を開けると家の中は静まり返っていた。誰もいないみたいだ。

 このまま、麗華の部屋に行くか。

 母さんは、リビングへ戻り俺は、麗華の部屋へ行き扉をノックする。



「麗華〜?いるか?」



 俺が扉に向かってそう言うと部屋の中がガサガサと動く音がした。そして、その後にドタドタと騒がしい足音を立てながら麗華が扉の部屋を開けた。



「お兄ちゃん!?」

「よっ、麗華。悪いな、心配掛けちゃって。」

「お、お兄ちゃん!大丈夫!?すごいフラフラしてるけど。」

「ははっ、大丈夫、大丈夫。」



 麗華は、アワアワと手を動かして俺の怪我の具合を調べる。



「お兄ちゃん……うっ!……うぅ……」

「れ、麗華!?なんで泣いてんだよ!?」

「だ、だって!ずっと、ずっと心配したから……うぅ……」



 麗華は、俺に抱きついてそのまま俺の胸の中で小さな呻き声を漏らしながら泣いている。服が少しずつ濡れていくのが分かる。



「ごめんな、心配掛けて。」



 俺は、再度麗華に語りかける。今度は、頭を優しく撫でながら。

 そして、そこから無言の時間が数分続き、ようやく麗華が泣き止む。



「……………ごめんね、お兄ちゃん。急に泣いちゃって。」

「いいよ、俺を心配してくれてたんだし。逆にすごい嬉しかったよ。」

「うん………あ、いつまでも立ってちゃお兄ちゃんの怪我にも悪いね。中に入って………って、言いたいけどちょっと待って!5分!ううん!10分!待っててね!」



 麗華は、突然慌てたように俺にそう言って部屋の中へ入っていった。

 俺は、とりあえず部屋の前で10分程、待った。

 すると、ゆっくりと扉が開きちょっと息が荒れている麗華が現れた。



「……ご、ごめんね、待たせて。……入っていいよ。」

「あ、ああ、悪いな、なんか変な気を使わせちゃって。」

「べ、別に大丈夫だよ!」



 俺は、麗華に促されるまま部屋の中へと入っていく。

 麗華の部屋にはぬいぐるみとかが置かれてあり実に可愛らしい部屋だった。

 そういえば静香の部屋は、どんなんだったのだろうか?見せてもらえばよかったな。まぁ、たぶん、見せてくれないんだろうけど。



「て、適当に座ってて。お茶いれてくるから。」

「別に気にしなくていいぞ?それにお茶なら俺が取ってくるし。」

「だ、ダメだよ!お兄ちゃんは、怪我人なんだから!」



 麗華は、そう言うと部屋の外へと出ていく。だけど、すぐに帰ってきた。



「どうした?」

「…………変なところ、漁らないでね?」

「ははっ、大丈夫だよ。」

「…………じゃ、行ってくるね。」



 麗華は、そう言って部屋を出て行った。

 ……………なんか、漁るなと言われたら漁りたくなってしまうような………いやいや、さすがにそれはダメだろ。妹の部屋を漁るなんてまず、兄として最低最悪だ。

 だが、それでも女の子の部屋へと入るのは優奈と麗華くらいのものだから興味が無いと言えば嘘になる。

 俺は、悶々とそんなことを考えながら待っていると麗華がお茶とお菓子を持って部屋へと帰ってきた。



「お待たせ、お兄ちゃん。」

「ああ、悪いな、麗華。」

「ううん、気にしないで。…………それよりも部屋……漁ってない?」

「漁ってないよ。まぁ、全く興味ないと言えば嘘になるが……そこはやっぱり兄として、男として耐えたよ。」

「………そうなんだ………あっ、ごめんね!はい、お茶。」

「ありがとう、麗華。」

「うん……あ、お兄ちゃんの好きな水ようかんも持ってきたから食べて。」

「おお、ありがとう。」



 麗華は、俺の前に持ってきたお茶と水ようかんが乗ってあるお皿を出す。

 俺は、素直に喜び麗華にお礼を言う。

 そして、俺たちは楽しく話をしながら時に麗華の怒りや愚痴を聞きながらこの時間を過ごしていった。

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