第96話 優奈との買い物で

 学校帰り、優奈が市場で買い物をするというので一緒に市場へとやって来ていた。



「それで、何買うんだ?」

「今日の晩御飯の材料だよ。今日はハンバーグにする予定だからひき肉と玉ねぎを買いたいんだ。」

「分かった。それじゃ、まず八百屋に行くか。」

「うん。」



 俺と優奈は、2人並んで市場の通りを歩く。

 この市場は、この前麗華と行った市場とは違った。



「市場って結構街中にあるもんなんだな。」

「そうだね。でも、私がよく使ってるのはここの市場なんだ。」

「なんかこだわりでもあるのか?」

「そういうのはないけどある程度、店の人と仲良くなれたからこっちで買った方がみんなも喜ぶかなって思ってね。」

「優しいんだな。」

「そ、そんなことないよ。ただ、ちょっとだけ贔屓してるだけだもん。」

「ははっ、照れるなって。」

「もうっ!からかわないでよ。」

「悪い悪い。ほら、八百屋に着いたぞ。」



 俺たちが歩きながらそんな言い合いをしているといつの間にか八百屋に着いていた。



「やぁ、優奈ちゃん。今日は彼氏連れかい?」

「か、かれっ………ち、違いますよ!この人は、私の小さい頃からの友だちで幼なじみです。…………いつかはそうなれるといいなとは思ってます…………」



 優奈は、顔を真っ赤にして早口でそう言ったが、最後の方だけは小さな声で何かを言ったので周りの喧騒もあって全く聞こえなかった。



「いいね、青春してる!」

「お、おじさん!からかわないでください!」

「ははっ、悪かったって。」



 今の会話を見たところ確かに優奈の言う通り、店の人とだいぶ仲がいいみたいだ。



「それで今日は何を買ってくれるんだい?」

「そ、そうでした。玉ねぎを3玉ください。」

「え!?優奈、そんなに使うのか!?」

「違うよ。予備にも一応買っておこうかなって思ったんだよ。玉ねぎは結構料理に使いやすいからね。」

「ああ、そういう事か。………まっ、そうだよな。」

「ふふっ、陽一君ったら。」

「……………本当に恋人同士じゃないのかな、これ。」



 八百屋のおじさんが何か言っていたような気がするが優奈と話していたので聞き取れなかった。

 そのあと、おじさんは優奈の注文通り玉ねぎ3玉を袋に入れた。



「今日は、初めて彼氏を連れてきてくれた記念としてこのリンゴもおまけだ。」

「だ、だから、彼氏じゃありませんよ!」

「ははっ、いいからいいから。貰っておきなさい。」

「うぅ、ありがとうございます。」



 優奈は、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら玉ねぎとリンゴの入った袋を受け取った。



「それじゃ、これ、お金ですので!」

「ちょっ!?優奈!?」



 優奈は、お金をおじさんに渡すと逃げるようにその場を去っていった。



「す、すいませんでした!」



 俺もおじさんに謝ってその場を去って優奈の後を追いかけた。



「おうっ!末永くな〜。」



 おじさんのそんな声が聞こえたが俺は聞こえなかったふりをして走っていった。

 そして、少し走っていると両膝に手を着いて肩で息をしている優奈を見つけた。



「ったく、勝手に一人で行くなよ。」

「はぁはぁ……ご、ごめんね……ちょっと慌てちゃった。」

「バテバテじゃないか。え〜っと………ちょっと待ってろ。」

「え?陽一君?」



 俺は、首を傾げている優奈を置き去りにしてすぐ近くにあった自販機でお茶を買った。



「ほら、お茶買ってきてあげたからこれでも飲んでろ。」

「あ、ありがとう。あ、お金……」

「いいっての。これくらい奢ってあげるよ。」

「でも…………ううん、ありがとね。」

「ああ、どういたしまして。」



 優奈は、大人しく俺が上げたお茶を飲んだ。



「………なんか俺も喉が渇いてきたな。もう一つ買ってくるか。」

「それなら私の残り飲んでいいよ。元々陽一君のお金だったんだから。」

「いいのか?それなら有難くもらうよ。」



 俺は、そう言って優奈からお茶もらい飲み口に口を付けて飲んでいく。



「………ぁ……そ、そういえばこれって………関節…………キス…………」

「ん?なんか言ったか?」

「ううん、なんでもないよ!」

「そうか?ほら、優奈もまだ喉渇いてるだろ?余ったから飲んでくれないな?」

「ふぇっ!?え、えっと………う、うん、貰うね。」



 優奈は、そう言って一瞬飲み口になにか意識していたがすぐにその飲み口に口を付けてお茶を飲み始めた。



「………あ、ありがとね、陽一君。奢ってくれて。」

「いいよ、これくらい。ほら、さっさと残りの買い物も済まそうぜ。」

「そうだね。」



 優奈は、飲み終わったお茶のペットボトルを捨てないでなぜか自分のバックの中にしまった。

 俺は、すぐそこにゴミ箱があることを教えようとしたが既に優奈が歩き始めていたのでまっ、いっか、と思いその後を追い掛けた。

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