第104話 君との関係は深く

「よ、陽一くん……」

「っ!優奈………」



 俺が美優の借り物に選ばれてそれから解放されたあと、お義父さんたちの元へ戻ろうと歩いていると優奈から声を掛けられてしまった。

 今までお義父さんたちの応援やらなんやらで優奈がここにいるってこと、完全に頭から離れてた。

 今、声を掛けたってことは今さっきの借り物競走を見てたってことだよな。



「ど、どうしたんだ、優奈?」



 このままずっと黙っているというのも少し怪しまれるので俺から話しかける事にした。



「え、えっと………今、陽一くん、借り物競走に出てたよね?」

「あ、ああ、確かにそうだな。お題が俺にぴったりだったんだ。」

「そ、そうなんだ……それで1つ聞きたいことがあるんだけど……」



 来た。どうする。俺と美優の関係を正直に答えるか。いや、さすがにそれはやばい。月曜から学校で俺の居場所がなくなってしまう。

 でもなぁ、誤魔化すにしても俺が嘘をついたって優奈、すぐに見破るんだよな。長年の付き合いだからか。

 ………仕方ない。優奈にはあまり隠し事はしたくないしな。正直に答えて優奈には内緒にしてくれと頼もう。優奈は、俺が嫌がることは絶対にしないからな。それだけは確信している。



「なんだ、優奈?」

「………い、今さっき、一緒に走ってたのってもしかして………天海美優ちゃん?」

「………ん?あ、ああ、そうだけど知ってるのか?」

「う、うん、この学校に関わっていたらみんな知ってるよ。」

「そ、そうなのか?」



 美優ってそんなに有名人なのか?

 いや、まぁ、あんな応援されてたら認知度は高くなってもおかしくはないか。でも、それでも関わっている人全員知っているってこと、あるのか?



「美優ちゃんってよく街のボランティアとかをやったり習い事で賞を取ったりして近所でも結構人気なんだよ。」

「へ、へぇ、そうなのか。」



 全く知らなかった。

 そういえば俺ってあんまり美優のこと、あんまり知らないんだよな。逆に美優は俺のことをよく知ってるんだよな。



「それで私が聞きたいのはそんな美優ちゃんと陽一くんって親戚だったりいとこだったり家の関係があるの?」

「え?あ、うん。」



 あ、やべ。つい、反射的に返事しちゃった。



「そうなんだ。なんだか、陽一くんが急に遠くへ行っちゃったような感じがするな。美優ちゃんの家もものすごくすごいところだから、そんな家と繋がってるなんて……」



 優奈は、そう言うと少し寂しそうな表情を見せた。

 俺は、そんな優奈に対して少し苛立ちを覚えてしまった。



「……俺と優奈の関係ってそんなものなのか?」

「え?」

「俺は、優奈のことは親友って思っている。いや、正直に言うと俺は優奈に関しては友人の枠に収まらないほどの仲だとすら感じているんだ。」

「え……ええっ!?そ、それって………」

「そう思っていたのに優奈は、俺の周りがすごいからって距離が放れるものだったのか?」

「あぅ……そ、それは……ご、ごめんね、陽一くん。私も……その……陽一くんとは友達以上と思ってるよ。」

「そっか。……こんなことでいちいちイライラする俺って結構面倒くさいな。」

「そ、そんなことないよ!よ、陽一くんの私に対する気持ちが分かって……その……嬉しかった。」



 優奈は、そう言うとえへへと笑っていた。



「ああ……やっぱり俺は………」

「ん?どうしたの?陽一くん?」

「…………いや、なんでもない。とにかく美優は俺の知り合いであって俺自身がすごくもなんともないからな。」

「……うん、そうだね。」

「なんかギクシャクさせちゃって悪かったな。」

「う、ううん、私の発言が悪かったんだから仕方ないよ。」

「いや、そんなことでいちいち腹を立てる俺が悪かった。明日の放課後、いつもの喫茶店でなにか奢ってあげるよ。」

「それはダメだよ。私だって悪いことしちゃったんだし……」

「いや、でも………」



 優奈の俺を見つめる目がマジだった。



「分かった。なら、明日一緒に喫茶店に行こうぜ。ちゃんと自分の分のお金は払うってことで。」

「うん、それならいいよ。………二人っきりで?」

「ん?俺はそのつもりだったが嫌か?」

「う、ううんっ!全然!」

「あ〜、でも、俺と2人でそんなところに行ってたら優奈の好きな人に勘違いされるかな?」

「っ!そ、それは……大丈夫!陽一くん、その人のことはもう忘れてくれないかな?」

「ん?何かあったのか?」

「何かあったと言われれば何も無かったし………その人が目の前にいるんだけど………」

「ん?」

「や、やっぱりなんでもない!それじゃ、明日の放課後ね!約束だよ!」

「ああ分かってるって。それじゃ、俺はそろそろ戻るな。」

「うん、バイバイ。」



 俺は、優奈に見送られながらお義父さんたちの元へと帰っていった。

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