第60話 偶然に出会って

「ふぅ……腹一杯。」

「お兄ちゃん、食べ過ぎだよ。」

「ふふっ、陽一君、いっぱい食べてたね。」

「いやいや、男としてはこれくらい普通だぞ?お前たちの方が全然食ってないじゃないか。」

「そんなことないよ。私は、いつもこれくらいでお腹いっぱいだもん。」

「私もいつもこれくらいでお腹いっぱいだよ?」

「全く……2人とも、もうちょっと食わないといつか倒れるぞ?」

「そんなことないもんね〜。」

「ね〜。」



 2人は、仲良さそうに「ね〜」と言い合っている。

 全く、今さっきまで言い争っていたと思ったら今じゃもうこんなに仲良しとか……本当に女の子ってすげぇな。



「それじゃ、次どこ行こうか?荷物持ったまま適当にぶらつくと疲れるだろ?だから、次はちゃんと目的地を決めないとな。」

「う〜ん……そうだね〜……あ、今さっき私たちの服を買ったんだから次はお兄ちゃんの服買お?」

「あ、いいね、その提案!私も賛成!」

「俺は、別に服とかいらないんだけど……」



 それにこの2人が選ぶとなるとまた時間がかかりそうだし…….



「だってお兄ちゃん、あまり服とか持ってないでしょ?お兄ちゃん、最低限の服しか買わないから。」

「そ、そうだよ……陽一君と遊ぶ時、結構同じ服を何度も見るから………せっかくだから選ばせて?」

「………はぁ〜、分かったよ。じゃ、男の服売り場に行こうか。」

「「うん!」」



 俺たちは、フードコーナーを出て服売り場へと向かった。

 そして、俺の予想が的中して優奈と麗華は、服選びで色々と言い合っていた。

 俺は、何度もなんでもいいよと言ったのだが2人から色々と言われ今はもう任せると言って休憩しようとベンチへ向かう。

 そして、座って一息つくと



「「はぁ〜」」



 俺と一緒にベンチへと座った誰かと声が重なった。

 俺は、誰だろうと横を見てみると



「っ!し、静香!?」

「っ!な、なんで、あんたがここに!?」



 隣にいたのは驚いた顔をしていた静香だった。



「はっ!……やばっ!」



 静香は、自分の持っていた荷物を自分の後ろにササッと隠した。



「…………見た?」

「今隠したやつか?見てねぇよ。」

「ホッ……ならいいわ。それよりもあんた1人で何してるの?」

「友だちと妹と一緒に遊びに来たんだよ。まぁ、その2人とも、今は買い物に夢中だから抜け出してきたけど。」

「へぇ、そうなの。」

「静香こそなんでこんなところに1人でいるんだよ?」

「私も1人じゃないわよ。今さっきまでお母様と一緒に買い物をしてたんだけどちょっと疲れたから休憩してるの。お母様は、まだ買い物をしてるけど。」

「へぇ、今さっき隠したやつもここで買ったんだろ?何買ったんだ?」

「なんであんたなんかに見せなきゃいけないのよ。」

「はいはい、そう言われると思ってましたよ。」

「じゃあ、聞かないで。」



 静香は、相変わらずの態度だった。



「………それよりもあんた、また入院したんだって。」

「ん?まぁな。まさか1年で2回も病院のお世話になるなんて思ってもなかったよ。」

「な、なんだ………元気そうじゃない……1ヶ月間ずっと寝ていたってのに……」

「ははっ、そんなことも知ってるんだ……もしかして、心配してくれたのか?」

「っ!ち、違うわよ!し、心配なんかするわけないでしょ!?」

「まぁ、そうだよな。静香が俺の心配なんかしないよな。」

「むっ!し、失礼ね!」

「だって、心配してないんだろ?」

「そ、そりゃしてないけど……もういいでしょ!この話!」



 静香は、急に立ち上がった。



「私、そろそろお母様のところに戻るわね。」

「ん?あ、ああ、またな。」

「………またね。」



 静香は、恥ずかしそうにボソッとそう言ったが今回は、距離が遠くなかったし休憩所で静かだったのでちゃんと聞こえた。



「陽一君、ここにいたんだ。ちょっと来てくれる?………って、静香ちゃん?」



 すると優奈が少し小走りでこっちへ来ていた。そしてまだ去っていなかった静香の存在に気づいた。



「あ、あんたは……」



 静香は、優奈のことを覚えていたらしく少し眉に皺を寄せた。



「久しぶり!静香ちゃん!確か最後に会ったのって陽一君のお見舞いに来てる時だったよね?」

「っ!ちょ、な、なんで言うのよ!?」

「え?あれ?言っちゃダメだったの?」

「へ〜、お見舞いに来てくれたんだ。」

「っ!ち、ちが、た、たまたまよ!たまたま病院の近くを寄ったからまぁ、仕方なくよ!」

「でも、結構来てたよね?1週間に3回くらいは来てたと思うけど……」

「あ、あんたは、もう喋んないで!」

「………静香、ありがとな。また、今度ゆっくり出来る時間があったらちゃんとお礼するからな。」

「…………え、ええ、そ、それじゃ、私は、もう行くからね。」

「ああ、今度こそまたな。」

「ふふっ、またね、静香ちゃん。」

「ええ、またね。」



 俺と優奈は、手を振って静香を見送った。



「ところで優奈、俺を探しに来たってことは何かあったのか?もう買い物が終わったのか?」

「あ、そうだった。いい服があったから陽一君に試着してもらいたくてね。麗華ちゃんが待ってるから早く行こ?」

「ああ、そういうことな。分かった、すぐ行こうか。」



 ということで俺たちも休憩所から離れて今さっきの服売り場へと向かった。

 それから何故かまた麗華と優奈が色々と言い合って俺は、試着をして欲しいと言われ休憩することも出来ず約2時間程、買い物に付き合わされた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る