第113話 君とは仲良くしたい
美優の運動会から約1週間経ち、今日はみんなで動物園に行く日だ。
俺と太輔と康介は、待ち合わせ場所の駅に着いていて優奈と麻美を待っているという状態だ。
「なんで康介は麻美と一緒に来なかったんだ?」
「なんか、先に行けって言われて。こっちに来る前に寄るところがあるって。」
「そっか。それなら仕方ないな。」
太輔と康介は、そんなやり取りをしていたが俺の耳にはほとんど内容が入ってこなかった。
理由は簡単だ。ずっとソワソワしているからだ。
「おい、陽一。お前、大丈夫か?」
「…………ん?何が?」
「何がって……なんかこの頃のお前、ずっとどこか上の空っていう感じじゃないか?」
「そうか?…………まぁ、そうかもな。」
「なんか悩み事か?」
「悩み事っちゃ悩み事だけど……別に気にしなくていいぞ。今日はちゃんと切りかえて思いっきり遊ぶからな。」
「………無理、するなよ。」
「分かってるよ。」
太輔と康介は、少し俺を心配する素振りを見せたが俺が大丈夫だと言うとそれ以上深くは追求してこなかった。
そして、待つこと10分。
待ち合わせ時間ギリギリに優奈と麻美がやって来た。
「ごめん!遅れちゃった。」
「待ち合わせ時間には間に合ってるんだし別に気にしなくていいぞ。それよりも何してたんだ?」
「あー………」
麻美は、一瞬優奈の方をちらっと見てから少し苦笑気味にこう言った。
「ちょっとした女子会みたいなもの。男子は禁制の話よ。」
「なんだよ、それ。ま、いっか。それじゃ、早く行こうぜ。電車がそろそろ来るからな。」
太輔のその言葉に俺たちは、駅のホームへと行き、電車に乗った。
電車の中の席は向かい合わせても4席しかなかったので3対2に分けてから座ることにした。
…………のだが、組み合わせがこれまたタイミングのいいこと?いや、悪いのか?
俺と優奈の2人で座ることになった。
あの運動会から俺と優奈の間に少し距離が出来てしまった。
どちらかが避けているのではなく、どちらとも避けている。
本当はここは男の俺から………と行きたいところだがまだ、ちゃんとした恋愛経験など1度もしたことの無い俺が積極的に話しかけるというのは今の俺には無理だ。
なので結果的に無言になってしまうのが今の現状だ。
「…………」
「…………」
チラッと優奈の方を見てみる。
すると優奈もちょうどこっちを見ていて視線が重なった。
「ぁ………」
「ぅぅ………」
だが、それは一瞬のことでお互いにすぐに視線を外してしまった。
…………もしかしたらこれからずっとこの調子なのだろうか。
そう思うと胸の奥がチクリと痛くなった。
それは嫌だと直感的に分かってしまう。
いや、まぁ、それは当然といえば当然だ。もう十数年という時を一緒に過ごしているのだから。
だから、これは話題を振るとかそんな感じではなくただ、言いたいと思ったことを口にしただけだ。
「………ごめん。」
「………え?」
俺から出た言葉に優奈は、目をキョトンとさせた。
「いや、なんかこの頃、優奈のこと、避けちゃったから悪いなって思ってな。だから、本当にごめん。」
「ぁ、ぅ……そ、それは……………違うよ。私が悪いんだもん。陽一くんから謝ってもらわなくてもいいよ。と言うよりも私から謝らなくちゃいけないのに私の方こそ避けちゃってごめんね。……本当にごめんなさい。」
お互い頭を下げて謝り、顔を見ると不意に笑みがこぼれてしまった。
「ははっ」
「ふふっ」
「さて、この件はここで終わりとするか。もう気まずい雰囲気は終わりだ。」
「うん、そうだね。陽一くんとは仲良しでいたいもん。」
なんだかあっという間に前の状態に戻れたな。こんなことならさっさと謝っとけばよかった。
「それよりも動物園なんて久しぶりだな。」
「そうだね。確か最後に行ったのは………私たちが小学校のときだったよね。私と陽一くんの家族で行ったよね。」
「………あ、ああ、そうだな。」
「あっ、その反応もしかして忘れてるね〜。」
「あ、あはは………」
これが単なる物忘れなのか、それとも記憶喪失によって忘れてるのか。
そんなことを考えていると麻美が隣から顔を出してきて俺たちの話題へと入ってきた。
「2人とも、なんだか楽しそうだね。なんの話してるの?」
「えっとね、私と陽一くんとで昔、動物園行ったねって話をしてたら陽一くん、忘れてるっぽいんだよね。私としては結構楽しくて覚えてるんだけどなぁ〜。」
「ごめんって。俺、結構物忘れ酷いだろ?」
「そうだね。」
「いや、そこは少しくらい否定して欲しかった。」
そんな会話をして俺と優奈は、笑い合う。その光景を見て麻美も笑う。
そして、それから太輔と康介も話に加わり楽しい会話をしながら目的地の動物園へと向かったのだった。
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